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ヒロインにしか見えない悪役令嬢?物語  作者: 松菱
四章 大戦勃発!?編
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行方不明事件です!








「修道女の行方不明が相次いでいる?」



お兄さまが紅茶を注ぎながら眉をしかめた。

今のお兄さまの姿メイドさんだから、かなりアンバランスだよなぁ。

アルファもそう思ってるらしく苦い顔をしている。それでも突っ込まずに話を続けるアルファは偉い。お母さまに赤飯作ってもらおう。



「ああ、しかもその修道女は全て、元アースガルズから移動してきた修道女らしい」


「なら、逃げ出しただけじゃないのか。アースガルズ修道院の連中は一味も二味も癖のある奴らだ」


「もちろん、今のところその線が濃厚だが、あそこは以前奴隷商人が誘拐してた前科もあるしな」


「つまり、奴隷商人の生き残りが今回の事件に関わっていると?」


「0ではないだろ?一緒に解決しようぜ」



アルファがお兄さまの淹れてくれた紅茶を飲みながらにやりと笑う。

お兄さまが紅茶を淹れ終わり、お茶菓子も配り終わってから一言。



「そうか、断る」


「はぁ!?なんでだよ!」



納得のいかないアルファがテーブルを叩く。紅茶が零れちゃうから止めてよー。マナー違反だよー。



「当たり前だろう?シスは奴隷商人どもに誘拐されて売られかけてるんだぞ?シスのトラウマをわざわざ刺激する気か?」


「私、別にトラウマになってないけど?むしろ幸せな記憶だけど」



ガンマくんと初めて会ったときはもう、一生の推し見つけたって思ったよね。格好良すぎるもん。しかもどんな獣も全て捩じ伏せてたし!イケメンすぎ!!



「あのくそオーガに関わった黒歴史とシスを会わせたくないんだよ!ああなるからな!!」


「なるほど、あれは確かにキモいしなんかムカつく」


「ひどい!!アイドルを応援して何が悪いのさ!!」


「異世界語はわからんが、多分違うと思うぞ」



アルファが子どもを宥めるように優しく諭してくる。現実を突きつけてくるなよぉ。いいじゃんか、アイドルじゃない推しを応援してもさぁ。



「まぁ、私が彼を一生推していくのは、今関係ないから置いとくとして」


「一生推すな。今すぐ忘れろ」


「私はいいよ。お世話になった人もいるし、もし、本当に生き残りがいるなら大変じゃん。引き受けよう」


「だそうだが?」



私とアルファがお兄さまを見ると、お兄さまは苛立ったように乱暴に頭を掻く。

いや、だから!お兄さまは今、メイドさんでしょ!そんなことしないの!



「シスが引き受けるなら俺も引き受けるしかないだろうが。あー、忌々しい。さっさと済ませるぞ」


「はーい」


「じゃあ、死神は拐われた人が収容されてた修道院へ行って情報収集して来てくれよ。俺たちはまだ拐われてないアースガルズ修道院に在籍していた奴らのところへ行くから」


「はぁ!?なんで下心ある奴とシスを一緒に行動させなきゃならない!?お前がやれ!」



お兄さまがアルファに食ってかかる。しかし、アルファがどこふく風で反論する。



「俺は情報収集得意じゃねぇし。ギルはヴァルハラ関連は役に立たねぇ。なら、お前に頼むしかない」


「誰がお前の言うことなんか!」


「お兄さま、情報収集行ってきて?お兄さまならすぐに終わるんだから、さっさと済ませて合流したらいいでしょう?」


「くっ、わかった……」



まだ納得いかない様子ではあったが、お兄さまは渋々頷いてくれた。

いつものようにお兄さまが消えるのを確認してから、アルファに問いかける。



「で、どこに行くの?」


「とりあえず、話の通じる奴に会いに行きたいんだが、このリストに顔馴染みはいるか?」


「ふむふむ」



アルファが見せてくれたリストに目を通す。知らない人も知っている人も半々だ。さて、誰がいいかな。



「あ、ジュリアさんがいる。ジュリアさんがいい」



ジュリアさんは最初に仲良くなった修道女のお姉さんだ。孤立していた私を何かと気にかけてくれて、随分とお世話になったものだ。



「ん、こいつだな。わかった。じゃあ俺たちも向かおう」



リストをジュリアさんだけが見えるように折り畳み、アルファが手配してくれた馬車で、ジュリアさんがいる修道院へ向かう。









「あー!!シスターじゃない!久しぶりね!」


「ジュリアさん、お久しぶりです!」



修道院へ到着すると、洗濯物を干していたジュリアさんと再会した。相変わらず綺麗なお姉さんだ。けど以前より楽しそうに見える。



「なになに?どうしたの?」


「えっとね、ジュリアさんにお話があって」


「こんにちは、お邪魔してます」



アルファがジュリアさんに軽く会釈すると、ジュリアさんが目を丸くさせてぽかんと口を開ける。

そして何回か私とアルファを交互を見てから、目を輝かせて、



「あんた!やったじゃない!いやー、金の力は偉大ね!あんたでもこんな良い男を捕まえられるんだもの!」


「へ!?何の話!?」


「もう!今さら恥ずかしがることなんてないのに!結婚報告しに来てくれたんでしょ?あんたも本当に真面目というか律儀というか。私なんて忘れてくれて良かったのに!」


「け、結婚!?いや、それはち、違うくて!いや、もしかしたら結婚するかもしれないけど!でも、今回のは本当に違うくて!あの!その!」


「照れるな!照れるな!おめでとう!幸せになるんだよ!!あ、私が修道院を出られたら、私にもいい男紹介してよ!」


「あ、う、うう……アルファー、助けてよー」



どう誤解を解いていいのかわからず、ジュリアさんの勢いに押されてタジタジになる。

半泣きでアルファに助けを求める。アルファが深いため息をついて、私とジュリアさんの間に立ってくれた。



「初めまして、シスター・ジュリア。俺はシスの自称婚約者のアルファ・ムスペルです。残念ながら今日は結婚報告をしに来たわけではありません」


「ムスペルってあの成り上がりの?超金持ちでしょ?シスターってばこれ以上偉くなってどうするの?」


「どうもしないけど旅行はしたい!」



アルファの背中に隠れる。話が進まないよぉ。

ふと、アルファがジュリアさんに近づき、あの胡散臭い笑顔で、



「レディ、どうか俺の話を聞いていただけますか?」


「ハイ、ドウゾ……」



顔を真っ赤にして片言になりながらアルファを凝視するジュリアさん。うそぉ。あれ、そんな効果あるの!?気持ち悪いだけじゃないの!?



「シス、今、失礼なこと考えてただろ」


「だから!!心読むの禁止だって言ってるでしょうが!!」


「読んでねぇよ!顔に書いてあるんだっつの!読まれたくなきゃ少しは隠す努力をしろ、馬鹿!」


「ぐぬぬ!」



言ってやったぞと言わんがばかりのどや顔しやがってぇぇ!!


いつかぎゃふんと言わせてやるからな!覚えてろよ!!


まぁ、それはともかくやっとジュリアさんが私たちの話を聞いてくれるようになったので、さっさと話して任務に協力してもらおう。








「なるほど、元アースガルズ修道院の連中が次々と居なくなってると」


「ええ、なので何か知っていることがあれば、教えてください」


「私も閉鎖されてから会ってないからねぇ。悪いけど、何も知らないよ?修道院の生活がいやになって逃げただけじゃないの?」



事情を話すと、ジュリアさんは渋い顔をして答える。やっぱり何も知らないよね。けど、本題はここからだ。



「もちろんその可能性が濃厚なのはわかっているんですが、俺たちは別の可能性も視野に入れてるんです。……例えば、アースガルズ修道院で行われていた奴隷商人による誘拐事件」


「は?奴隷商人は聖女さまによって全員捕まったんだろ?なのに、生き残りがいるんじゃないかって?」


「もし、そうなら俺たちで捕まえて終わりにしたい。そのためにジュリアさんの周囲で張り込ませてほしい」



アルファの言葉にジュリアさんが腕を組んで悩んでいる。あれ?ダメなのかな?



「そういう事情なら協力するのはかまわないけれど、ここは男子禁制なのよ。だから、シスターはともかく、アルファくんはねぇ」



ジュリアさんの言葉にアルファと顔を見合わせる。ということは……









「またこれを着る羽目になるとは」


「いいねぇ!懐かしい!昔に戻ったみたい!」



久しぶりの修道女の姿に懐かしさと恥ずかしさにそわそわしてしまう。2年前の自分がこれ着てたのか、信じられないな。



「着替えたか?」


「着替えられたよー」



部屋の外にいたアルファが声をかけてくれたので終わったことを告げると、中に入ってきた。



「じゃーん!どうよ!似合う?」



そういえば、アルファは私の修道女姿って見たことなかったなって思ったので、くるっと回ってみた。

すると、アルファは心底嫌そうな顔で、



「お前……絶望的に似合わないな」


「えー!なんでや!こちとら4年間これ着とったんやぞ!!」


「だから異世界語やめろって言ってんだろ。何言ってんのかわかんねぇ」



ジュリアさんがアルファに肩を組んで後ろを向き、ぼそぼそと喋っている。かなり小さい声だが、そんなに距離が離れてないのでバッチリ声が聞こえている。



「ちょっと!アルファくん!いくら金のためだからってそんなに冷たいのは良くないわよ!嘘でも似合ってるって言ってあげないと!」


「そう言われても似合ってないと思うんで。シスには俺がプレゼントした緑のワンピースが一番マシですから。あいつ、あれ着るとすごい嬉そうに笑うんでまだ見れる顔になりますよ」



んー、確かにあれすごい可愛いから大好きなんだよね。でもそんなに嬉そうにしてたのか。なんか恥ずかしいなぁ。



「あー、なるほどー、そういうことねー」


「は?そういうこと?」



アルファが不思議そうにするのも無視して肩を組むのも止めて、今度は私のところにやってきて両肩を掴んでくる。



「いたっ!ジュリアさん、どうし」


「あんた、ズルくない!?ただでさえ、貴族の令嬢で何不自由なく暮らしておいて!?なのに、超金持ちの美形婚約者に溺愛される!?勝ち組そのものじゃない!?顔以外完璧とかどういうこと!?自分だけそんなに幸せでいいと思ってるの!?私にその幸せ分けなさいよ!良い男紹介しろ!!」


「あわあわ、ゆ、ゆれるー。ジュリアさん、お、落ち着いてー」


「ジュリアさん!?落ち着いてください」


「落ち着けるはずないでしょ!!良い男紹介してくれるまでは止めないから!!」





ジュリアさんを落ち着けるまで、数時間かかりました。



私たちがいったい何したって言うんだよぉ。5年の月日は人を変えるのね……。







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