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ヒロインにしか見えない悪役令嬢?物語  作者: 松菱
四章 大戦勃発!?編
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あれから2年が経ちました!







ここはシアルフィ領に位置する静かな森。

シアルフィは王都に近く、森などは開拓されていて少ないのだが、この森はアレキサンドルが乗っていた一角獣、ユニコーンが生息するため保護されており開拓されずに残っている。

そんな聖域ともいえるこの静かな森に似つかわしくない叫び声が聞こえてくる。



「アルファ!そっちに逃げたよ!」


「そっちじゃわかんねぇよ!!右か!?左か!?」


「え!?右ってどっち!?左ってどっち!?」


「シス!お前が上げている腕が右だ!」


「じゃあ左だ!左行った!!」


「おせぇよ!!もう逃げたわ!!」



三人が叫びながら一頭の白馬を追いかけている。普段静かな森のため、叫び声に驚いた鳥や獣が逃げていく。



「くそっ!ユニコーンに紛れ込まれるとわからんぞ!変化魔法を見分けるには近くまで行かないと使えないし。というかシス、お前右も左もわからなくてよく今まで生きてこれたな」


「え?焦ってるとたまにわからなくならない?」


「ならねぇよ!」


「おい、見つけたぞ。10時の方向。どうやらはぐれたユニコーンを狙ってるようだな」



キルが木の上から先程の白馬を見つけたらしく、シスとアルファに告げて、姿を消した。



「これ以上、聖獣を食われてたまるかよ!次は絶対倒してやる!」


「よーし!私も頑張るぞ!」



アルファはキルに教わった通りに10時の方向へと走りだし、シスもその後に続いた。







二頭の白馬が並んで進んでいる。とても美しいユニコーンが先導しており、行き着く先はどうやら透き通った綺麗な泉だ。

何も知らずにこの場面だけ見れば心洗われる光景だろう。


その内の一頭が半馬半魚のケルピーでなければ。


ケルピーとは上半身が馬、下半身が魚の魔獣である。変化魔法と水魔法を得意とする魔獣で、普段は白馬などに化けて人間や馬などを池へと誘い込み、溺れさせた後、貪り食う危険な魔獣である。

とある貴族が道楽で飼っていたのが逃げ出し、ユニコーンの住む森に居着いてしまったので討伐してほしいと依頼があり、シスはキルとアルファを連れてケルピー退治というわけだ。



「アルファ、どうするの?」


「ユニコーンが近くにいるのが、厄介だな。聖獣に傷でもつけたらヴァルハラが黙ってないぞ」


「お姉さまはごめんなさいすれば許してくれるよ?」


「ユリシアさまはそうだろうけど、他の枢機卿たちが許さないんだよ」


「すーききょーさんは厳しいねぇ」


「お前、ユリシアさまの元でいったい何を学んできたんだよ」



シスが笑ってごまかすと、アルファが呆れてため息を吐く。ユニコーンはケルピーに夢中になっているのか、べったりとくっついて幸せそうだ。

このまま、攻撃や魔法を繰り出せば、ユニコーンも傷つくのは間違いないだろう。



「じゃあ、私が行ってケルピーとユニコーンを引き離してみるよ」


「さっきそれやって二頭とも逃げ出して追いかける羽目になったんだろうが」


「だって、いけると思ったんだもん」


「だもんじゃねぇよ。きめぇ」


「ガーン」



そんな会話している間に二頭はどんどん泉に近づいていく。泉まではもう目と鼻の先だ。



「くそっ!ダメ元でケルピーに魔法をぶつけるか?」


「アルファ、知ってる?今日はカボチャがたくさん採れたから、お母さまがカボチャのポタージュ作ってくれるんだって、デザートのカボチャプリンも美味しそうだよね。早く済ませてお邪魔したいなぁ」


「は?そんなこと知ってるし、早く済ませるために、頑張ってんだろうが」



アルファが言い終わるのとユニコーンが仲間を見つけて、ケルピーから離れたのは同時だった。

キルがケルピーに向けて銀の短剣を投げつけ、背中に刺さった。短剣が刺さった箇所から変化魔法が解け、半馬半魚の姿に戻る。

ケルピーが暴れて蹄を鳴らすと、泉の水が意思を持ったように短剣が投げつけられた方向へ向けて飛んで行く。



「させるか!!」



ドォーン!!



飛んで行く水を遮るように雷が落ちる。水は雷の熱量に蒸発した。

気体になった水は霧となり、辺り一帯が白で満たされる。



「ちょっと!アルファ!やりすぎ!霧になったじゃん!」


「馬鹿か!雷で蒸発した水が霧になるわけねぇだろ!!こいつもあの馬の魔法だ!」


「シス!後ろだ!!」



キルの声が霧の向こうから届く。それより早くシスの反射能力が反応する。

背後に『障壁(バリア)』を唱え、ケルピーがぶつかる。

ケルピーが見えない壁に戸惑う間に下からアルファの剣が、上からキルの短剣が、首を狙って斬りかかる。


ケルピーの首は吹き飛び、泉の前に転がる。霧などなかったように晴れている。任務完了だ。



「やったー、終わったー」


「終わったー、じゃねぇんだよ!シス、俺を利用して『ちーと』使ったな?」



喜ぶシスに反して、恨みがましくシスを睨むアルファ。



「だってー、早く終わらせてお母さまのポタージュ飲みたかったし」


「いつも言ってるだろ!任務中は『ちーと』使わないって!こんななんでもないことで使うな!」


「でも、八方塞がりの状態だから、出番かなって。いいじゃん!私も活躍したいの!」


「『ちーと』は活躍したって言わねぇんだよ!あんなの裏技だろ!」


「チートがない私なんてただの回復要員じゃん!薬草と一緒!!つーまーんーなーい!!」


「あー!あー!!うるせぇ!うるせぇ!!」



シスとアルファが喧嘩している間に、キルが特殊な布を用いてケルピーの頭を包む。



「喧嘩はそこまでにして、森を出るぞ。獣たちがすっかり怯えている」


「うう、動物が怖がってるなら、出なきゃだね」


「もうここにいる用事もないしな」



この後、シアルフィ領にある教会にケルピーの頭を持っていき、お焚き上げをしてもらい、報酬金をもらった。

ムスペル領でお疲れさま会という名の夕食をいただくために、馬車でアルファへのお家へとお邪魔することに。










「んー!おいしー!幸せー!」


「そりゃ良かったな。……この2年で随分ずうずうしくなったよな、お前」


「だって、アルファくん家のご飯美味しいんだもん!」


「だからお前自分の顔を考えろ。言葉と顔が合ってねぇんだよ」


「ひでぇ」



私がポタージュを掬いながら、舌鼓を打ってるとアルファが茶々入れてくる。本当にもう世話焼きなんだからー。



「あの、いつも言ってると思いますが、シスはともかく俺が夕飯をご馳走になるのは申し訳ないので……」


「何を言ってんの!シスちゃんのお兄さんなら、私の家族も同然だよ!いいから!ほら!冷めるから早く食べる!」


「はぁ……」



お母さまもずいぶんお兄さまに慣れてきたよな。

お兄さまも自分に好意を持って接してくれる人には逆らえないから、お母さまにたじたじしている様はちょっと面白い。

お兄さまが助けてくれと言わんがばかりにこっちを見てくるけど、私はカボチャ料理を堪能しているから気づかないなぁ。



「お父さま、今日もお帰りが遅いのですね」



エスリンちゃんが寂しそうにお父さまの席を見て呟く。確かに、私も毎日来ているわけではないけど、それでもここ数ヶ月、お父さまの姿を見てないな。



「仕方ない。防衛大臣になったばかりなんだ。やらなきゃいけないことは山ほどあるだろう」


「すごいよねぇ。本当に公爵と同じくらいの地位についちゃったもん」



1ヶ月ほど前にお父さまが防衛大臣に就任したと聞いた時は驚いたよね。そんなことあるのかとお兄さまに聞いたら、あり得ないことだって、苦い顔をして言ってたっけ。



「お父さまが帰って来ないのは寂しいですが、お父さまが防衛大臣に就任したことでお兄さまとお義姉さまの身分差がなくなったのは嬉しいですわ。お兄さま、プロポーズはいつするんですの?」


「エスリン、ま、待て。まだ俺たちは14歳で婚約もしてないから」



エスリンちゃんが悲しそうな顔から、キラキラした笑顔でアルファに詰め寄る。まーた始まったよ。



「エスリン、やめなさい。私たちが茶々いれることじゃないよ。結婚は私たちじゃなくアルファとシスちゃんがするもんだから」


「母さん……!」


「ところで、シスちゃん。しばらく採寸してなかったら、ご飯のあと採寸させてくれない?それとこの間やっと元の世界にあった白無垢と同じものを見つけてね。試しに着てみる気はない?」


「母さん!!」



すげぇ、母さんという単語だけで一喜一憂を表現できてる。アルファは本当にツッコミの才能があるよ。

さて、話が逸れたが、2年経っても私たちの関係は変わらず、アルファは自称婚約者のまま。

2年前までは成り上がり貴族と侮っていた貴族達も、ムスペル家の財産と優秀な才能に目を付けて縁談がたくさん舞い込んでくるらしい。

私を渡したくない公爵もそれに便乗して、可愛い王族の娘との縁談を勧めている。

それでもお父さまは私とアルファをくっつけたいらしく全て突っぱねているらしい。

私はともかくアルファが私と結婚したいのは王族との結婚してムスペル家の地位を安定させたいからなんだから、お父さまもアルファも遠慮せずに可愛い女の子の方にすればいいのにな。

アルファが誰と結婚しようと私にとって大切な人には代わりはないんだから。



「近々、聖ヴァルハラ教国にガストロー国の王太子が魔族で初めての訪問があるそうだ。ミッドガルド帝国でも反対派も多く、何が起こるかわからない。こんな時期に防衛大臣に就任させるなんて裏があるようにしか思えないがな」


「そうなの!?すごい!もし、それが成功したら、魔族との交流が盛んになってまた魔族の文化に関する本が出版されるじゃん!はー、成功してほしいな」



お兄さまとしては嫌みとして言ったのかもしれないけど、読書好きとしては大変夢のある言葉だ。比較的人間に友好的なオーガと家畜を襲うウェアウルフの本はあるのだが、ヴァンパイアやドラゴンに関する本はまったくないのだ。ドラゴンやヴァンパイアの生態や文化に関する本は前世でも数多く読んだものだが、ユグドラシルでも通用するかはわからない。

だから、その研究をまとめた本が読めたらどんなに幸せだろう。

うっとりしていると、アルファがどこか面白くなさそうに口を開く。



「お前、魔族に関する本になると目の色変わるよな。そんなに魔族が好きなのかよ」



ん?魔族差別か?アルファはお母さまが『来訪者』だから偏見はないと思ってたんだが、やっぱりどこの世界でも差別は根強いんだな。ちょっと悲しい。

あの紳士のように優しくて鬼のように強い彼を思い出して胸がギュッとなる。そういえば彼は何してるかな。また、会いたいなぁ。

おっと、また話が逸れてしまったぞ。アルファに説明しないと。



「魔族に好きも嫌いもないよ。まだオーガ以外に会ったことないんだから。そもそも私が興味あるのは私が知らない歴史、だよ!私が知らない歴史ならミッドガルドでもヴァルハラでもいいよ!特に興味あるのは三千年前、ミッドガルド帝国の建国者アレキサンドルが登場する以前のユグドラシルの歴史が知りたいよね。三千年前までは文書も存在して文字も今とほぼ変わらない形で存在してるのに三千年以前の歴史書がどこにもないんだもん。これは完全に隠蔽だよね。アレキサンドルがいったい何を隠しているのか、建国以前は国がそもそも存在していたのか、考えれば考えるだけ興奮するというかこれこそロマンで」



「あー、はいはい!わかった!わかった!俺が悪かったから止まれ!」


「むー、アルファもこのロマンを理解出来ない人間か」



この世界の人間は歴史書にどうしてこんなに無頓着なのか。あーあ、どこかに歴史オタクいないかなぁ。



「とにかく!シスは魔族が好みのタイプじゃないんだな?」


「え!?そんな話だっけ!?そんな会ったこともないのに好みのタイプなんて」



好みのタイプのところで、一瞬、彼の顔が浮かんだが、慌てて首を振る。彼は私の最推しであり、そういう俗っぽい感情ではないのだ!多分!



「さっきも言ったでしょ!そういうんじゃないから!!」


「そっか、そうだよな」



アルファがホッと胸を撫で下ろす。そんなに嫌なのか。じゃあ、アルファに彼を紹介できないな。きっと好きになって貰えると思ったのに残念だ。



「青春ですわ!憧れます!」


「アルファ!あんた!一つ大人になったね!よし!今日は赤飯だ!!楽しみに待ってなさい!!」


「わーい」


「いや!もう夕飯終わってるから!!」




2年経ってもここは賑やかだねぇ。食後のカボチャプリンを食べながら夜空を見上げた。

彼ーーガンマくんーーと一緒に見たペガサス座の星が光っている。明日もきっと晴れるだろう。








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