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ヒロインにしか見えない悪役令嬢?物語  作者: 松菱
三章 婚約者編
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え?こんなオチありですか?








あのあと、図書館から出てアルファくんとエスリンちゃんと合流した。二人も聖女であるお姉さまを知ってたようで驚いてたけど、お姉さまの笑顔の圧に何も言えずとりあえず私の別荘でお話することになった。





「なるほど、ムスペル伯爵の発展は目を見張るものがありましたが、てっきり『来訪者』である伯爵夫人の力かと思っていました。まさか、公爵家の諜報部隊を圧倒する諜報員の活躍もあったとは。本当にあなた方は謎の多い」


「はい、すみませんでした」



お姉さまだけがにこにこと笑顔で紅茶の香りを楽しみ、飲んでいる。私たちは俯き、ドキドキしながらお姉さまの言葉を聞いている。

ちなみにお兄さまはあまりにお姉さまに反抗するものだから、壁に押し付けられている。

私にとっては日課だからなんとも思わないが、初めて見たアルファくんとエスリンちゃんが震えている。


君らもわかっただろ。お姉さまは怒るとめちゃくちゃ怖いんだよ。流石10歳で国のトップになっただけはある。



「そういうことなら、ある意味不可抗力だものね。見逃してあげましょう。シスが懐いているなら、あなた方に敵意はないでしょうし」


「ありがとうございます!」



お姉さまの笑顔の圧が少し緩んだ。アルファくんとエスリンちゃんがほっと胸を撫で下ろした。エスリンちゃんなんて半泣きだ。トラウマにならなきゃいいけど。



「よかったー。許されたー」


「ところで、シス、どうして神父の前で平然と『ちーと』を使ったのかしら?貴女、本当に隠す気があるの?」


「ひっ!な、なんで知ってるの!!」


「あら?私に隠し事が出来るなんて思っているの?」


「思っていません!ごめんなさい!!」



女神さまってば!なんでお姉さまにあっさりばらすの!!だから!!個人情報!!これだから異世界(ファンタジー)は!!



「シス、お前ってすごい家庭環境で育ってるんだな。俺、自分のこと大概だと思ってたが、お前には負けるよ」


「うう、まったく嬉しくないぃぃぃ」



アルファくんがそっと耳打ちして慰めてくれたものの、何の慰めになってないよ。






お姉さまの紅茶のカップが空になった頃、ようやく私は許された。



「これに懲りたら、軽々しく『ちーと』を使わないように。わかったわね?」


「はいぃぃ、ごめんなさいぃぃ」


「本当に可愛いわ。なんだか、ドキドキしちゃう」


お姉さまが怖すぎて、啜り泣いていると、嬉しそうに私の頭を撫でてくれる。撫でてもらえるのは嬉しいけど、その台詞はアウトだと思うよ!



「この変態野郎が。良いか、シスは笑顔が一番可愛いんだ。なのに泣かしやがって」


「そういえば、あなた方は図書館に何の用でいたの?読書家のシスはわかるけれど、あなた方もそうなのかしら?」



術が解けたのか解いたのか、お兄さまがお姉さまから私を引き離そうとするけど、お姉さまは無視して二人に話しかける。



「あの、青斑病について調べていて」


「青斑病?」



お姉さまが眉を動かして訝しげに言葉を繰り返す。そういえば、青斑病の診断をしたのはヴァルハラの司祭さんだっけ。なら、お姉さまが知っていても不思議じゃない。



「お姉さま、青斑病について何か知らない?」


「青斑病なんて存在しないわよ?」


「「「は?」」」



お姉さまの口から飛び出したとんでもない言葉に思わず声が重なる。


はい?青斑病がない??



「いやいや!!現にアルファくんのお母さまが青斑病にかかってるよ!?」


「え?まだあの呪いを使っている馬鹿がいるの?全て摘発したはずなのに」


「呪いとはどういうことですか?」



エスリンちゃんがお姉さまに詰め寄る。お姉さまは少し考える素振りを見せるも、説明してくれた。


お姉さまの話を要約すると、お姉さまが聖女として聖ヴァルハラ教国のトップとして就任した時、上層部の腐敗が凄かったそうだ。

女神の権威を笠に着て、莫大な寄付金を募ったり、武器に女神の加護を与え強化する『勝利の剣(レーヴァテイン)』を応用し作った免罪符と呼ばれる紙の札などを高値で売りさばくなどして大量のお金が司祭たちの懐に入っていた。

それを嘆いたお姉さまは必要以上の寄付金を禁止や免罪符の廃止を行った。

反対する司祭たちもいたが、女神が選んだお姉さまに逆らえず、それでも逆らった司祭は女神から加護を奪われてお姉さまが何をするでもなく、没落していった。

これで司祭たちの豪遊は止んだと思われたが、なんと司祭たちは呪いを作りだし、ヴァルハラ周辺の貴族や商人などの富裕層に呪いをかけてそれを治すというマッチポンプ方式で金を荒稼ぎして豪遊を続けたのだ。

呪いだと言えば、教会上層部の耳に入るかもしれないと考え、『青斑病』と偽りの病名を作り、特効薬と偽ったただの水を売っていたらしい。



「神聖魔法を習得している者でないと、病と呪いの区別がつかないのよね。どちらも段々衰弱して死ぬのは一緒だもの。呪いには薬が効かないという特徴も、薬が身体に合わなかったんだと言ってしまえばそれまでだし」



エスリンちゃんが私とアルファくんを見る。久しぶりのエスリンちゃんの冷たい視線に晒されて、また泣きそうです。



「お兄さま」


「いや!俺の神聖魔法は聖職者に教えてもらったわけじゃねぇし!」



アルファくんが否定すると、私を呼び掛ける。



「お義姉さま」


「え?いや、私もほら!修道院で教えてもらっただけだし!純粋な聖職者ではないというか!」


「シス、私は教えたはずけれど?」



私もアルファくんのように逃げようとしたのが、お姉さまが逃げ道を塞がれた。ダメだ、終わった。

こうなったら、



「申し訳ありませんでした!!まったく覚えておりません!!」



本日二度目の土下座に賭けるしかない!!二度目だからね!さっきより綺麗に出来たぞ!

ほら、エスリンちゃんもため息を吐いてるけど、許してくれそうだ。



「お前、一日にそんなに土下座してプライドはないのか」


「ないね!!」



アルファくんに軽蔑した目で見られた。なんでや。



「もういいです。お義姉さまより家族の私たちが気づいてなかったことが悪いんですから」


「ギルって奴がいるのに本当に気づかなかったのか?俄には信じられないが」


「あー、ギルはすごい有能なんだけど、フレイヤ教を嫌っていてヴァルハラ周辺に近づかないんだよ」



お兄さまが納得出来ず問いかけると、アルファくんが困ったように答える。

ふーん、ヴァルハラ周辺に近づけないくらいのフレイヤ教嫌いとは珍しいな。この世界って一神教なのに。



「では事情も説明しましたし、伯爵のお屋敷へ向かいましょうか。キル、馬車はもう用意をしているんでしょう?」


「当然だが、お前に言われると腹が立つ」


「まぁまぁ、お兄さま落ち着いて。馬車を用意してくれて嬉しいよ」


「シスが嬉しいなら、俺も嬉しい」



お兄さまの機嫌も治ったので、伯爵のお屋敷へと戻ることになった。


原因はわかったし、これでお母さまも元気になるぞ!







「元気になるなら良かったとは思ったけどさ、そんなにあっさり出来るとは思わないじゃん!!」


「シス、伯爵夫人は弱っているのだから大声を出してはいけないわ」



お姉さまは屋敷に到着してすぐ、案内無しでお母さまの部屋までたどり着いた。

お母さまの身体に手をかざすと蜥蜴のような形の真っ黒な物体が飛び出してきた。それを捕まえると、終わったという。

確かにお母さまからは荒々しい息遣いはなくなり、汗も引いているようだ。うなされている様子はない。



「そんなに簡単なの?私、治すためなら死ぬくらい覚悟でこれに挑んでたんですが」


「まぁ、ふふふ、面白いことを言うのね。所詮は聖職者が見よう見まねで作った呪いよ?簡単に決まってるでしょう?」


「そんなぁ」



人一人の命が助かったんだよ?嬉しいよ、嬉しいけどさ。あまりにも簡単にやるもんだから、私の存在ってなんだったんだってなるよね。

私がやったことって、二人を連れ回してお姉さまの説教の巻き添えにしただけだぞ?おかしいなー、こんなはずじゃなかったのに!



「……ん?私、どうして……」


「母さん!」


「お母さま!!」



お母さまの目が覚めて、アルファくんたちが駆け寄る。エスリンちゃんに至っては号泣している。

まぁ、納得いかないけど命が助かったんだから、野暮言いっこなしだな。……本当に良かった。



「良かったわね、シス。貴女のおかげよ」


「なにが?」


「まさか、この一連の流れが偶然だと思っているの?そんなわけないでしょう」



お姉さまが言いたいことがやっとわかって、驚く。え?これが幸運(チート)だって言うの?いやいやいや、ないない。



「図書館というヴァルハラとは離れた場所で、呪いの解決法を知っている私と偶々会って、伯爵夫人が重症化する前に偶々助けるなんてどれだけの幸運かわかってる?」


「んー?そう言われても実感湧かないなぁ。助けたのはお姉さまだし。私のおかげってのは違う気がするし」


「なら、言い方を変えましょう。伯爵夫人が死ななかったのは貴女が諦めなかったからよ。偉かったわね、シス」



お姉さまが優しく頭を撫でてくれる。さっきまでの怖い笑顔じゃない、優しい『姉』としての笑顔だ。久しぶりにお姉さまに褒められてなんだか照れ臭くて俯いてにやにやと笑ってしまう。

お兄さまが張り合って来たのか、大きい手も私を撫でてくれる。恥ずかしいけど、家族に褒められるのは何歳になっても嬉しいな。



「よし、これで解決したな。シス、別荘に帰るぞ」



お兄さまが私の腕を掴んで帰ろうとする。お母さまが帰ろうとする私たちに気づいて引き留める。



「何言ってんの!今から帰るにはもう夜遅いんだから、今日は泊まっていきなさい!」


「そうだよ、帰るのは明日にしようよ」


「ダメだ。あの女が言ったようにこの一連の流れが『ちーと』ならここにいたらどんな厄介に巻き込まれるかわかったもんじゃない」


「無理に帰って野盗に襲われたほうが危険だと思うわよ?私も久しぶりにシスと一緒に寝たいわ」


「野盗よりお前の方が危険だ!そう言ってシスに一服盛ったの忘れてねぇからな!」


「だからあれは実験だって言ってるでしょう?惚れ薬飲ませただけじゃない」


「黙れ、腹黒女!だからてめぇは信用ならねぇんだよ!!」



いつもの喧嘩が始まった。なんとか二人を止めようと間に入って仲裁しようとしたら何かが口に入ってきた。


ん?なんだ?なんか身体が痛いし、身体が熱っぽいぞ?あれ?これなんかデジャブだな


なんて思いながら、立っていられなくなって倒れ込む。



「あ、あのユリシア様、手にあった蜥蜴みたいなやつシスに入っていったんですけど」


「あら?いけない。消し忘れてたわ」


「ふざけんな!!わざとだろ!!わざとだよな!?この極悪女!!今すぐ聖女辞めろ!!」


「仮面の方、落ち着いてください!それよりお義姉さまから呪いを引き離さないと!」



上からぎゃーぎゃー騒ぐのを聞きながら、思う。



こんなオチありですか!?あんまりだ!!







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