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ヒロインにしか見えない悪役令嬢?物語  作者: 松菱
三章 婚約者編
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幸運の有効活用です!







「アルファくん、エスリンちゃん、見つかった?」


「見つかりませんね」


「本当にここは病気に関する本が集められてるのか?」


「俺を疑う暇があるならさっさと手を動かせ」




現在、私たちは図書館に来て、お母さまの病気について調べています。目的は特効薬のレシピを見つけること。








数時間前、伯爵のお屋敷にて。



「私の幸運(チート)じゃどうにも出来ないのはわかった。でも、他のことならどうにか出来るかもしれない」


「他のこと?」


「例えば特効薬を作るとか」


「は!?作る!?」



周囲の視線が、なに言ってんだこいつ、と言わんばかりに変わったが、あり得ない話じゃないはず。



「もちろん、作り方も知らないまま一から作ったって成功するわけない。でも、病気のことを調べてたら運良く(・・・)レシピが見つかって運良く(・・・)薬作りが成功するかもしれない」


「ふむ、確かにそれなら幸運が影響するかもしれませんね」



ギルさんが少し考えたあと同意してくれる。エスリンちゃんが心配そうに私を見る。



「でも、それって普通じゃあり得ないくらいの幸運ですよね?もし、それが叶ったらお義姉さまにかなりの不幸が襲うんじゃありませんか?」


「なに言ってんの!お母さまが死ぬか生きるかの瀬戸際で、不幸だどうだなんて言ってる暇はないでしょ!」


「不幸が振りかからないようシスの幸せは俺が常に願っている。くだらんことを聞くな」


「でも……」



お兄さまに諭されても、それでも心配そうに私を見るエスリンちゃん。本当に良い子だよなぁ。



「なら、こうしよう。エスリンちゃんもお兄さまみたいに私の幸せを願ってほしいな。二人分の願いがあればきっと大丈夫だから、ね?」


「お義姉さま……」



ええ、なんでそんな泣きそうな顔になるの?解決策出したのに。え?私この戦いが終わったら死ぬの?



「二人分じゃない。俺もいる」



アルファくんが名乗りでてお兄さまが途端に嫌そうな顔をする。この人はすぐそんな顔をして、もー。



「お前はこれからのムスペル家に必要な存在だから。俺はいつでもお前が無事でいてほしいって思ってる。さっきの今だから、信じてもらえないかもしれないけど」


「非常にありがたい言葉だけどさ、エスリンちゃん、なんかすごい目をキラキラさせてるよ?これ、誤解されてるよ?」



さっきまでの泣きそうな顔はどこへ言ったのか頬を赤らめ、目を輝かせて私たちを見てる。これはまずいのでは?



「どうせ結婚するんだから、誤解されててもいいだろ。どういう形であれ、俺がシスを大事に思ってるのは嘘じゃねぇし」


「あ、うん、そ、そうだね」



そんなまっすぐ言われたらなんかこう照れる。

アルファくんから甘い言葉はたくさん言われてるから馴れてるはずなのに、この言葉だけは無性に照れてしまうぞ!?なんでだ!?


お兄さまが私とアルファくんの間に割って入ってくる。



「おい、忘れているようだが、公爵家はこの婚約を了承していない。お前は自称婚約者のただの友人だ」


「シスは自分を公爵家の人間だと思ってないようだけど?お前らこそ、関係ないのにしゃしゃり出てる外野だってこと忘れてないか?」


「二人とも、今そんなことは心底どうでもいいから後にして」



喧嘩に発展しそうな二人を止めて、話を元に戻す。お兄さまはともかく、アルファくんまで乗っかるんじゃないよ。それどころじゃないでしょうが。



「他に方法が見つけられない以上、私はこれに賭けてみるしかないと思ってる。三人とも協力してくれる?」



三人を見渡しながら訊ねると三人とも深く頷いてくれた。



「私はいかが致しましょうか?」


「ギルさんはこの作戦がうまく行かなかったときのために病の進行を遅らせる方法を探ってみて」


「そんな奇跡のような方法がはたしてあるかどうか」



魔法があるような世界だし、あるんじゃないかなと思ったけど、ここでもそれは奇跡に近いことらしい。



「対処法がわからない今、奇跡にでも縋らないとなんともならないよ。お願いします」


「わかりました。全力を尽くしましょう」



というとギルさんはフッともやのように消えた。



「じゃあ、私たちも図書館へ向かおう!」



図書館なら色んな資料があるし、もしかしたら、この病気に関する資料があるかもしれないからね!

三人で馬車に乗って急いで図書館へと向かったのだ。







時を戻して、今は四人で図書館で病に関する資料を読み漁っている。しかし、着いてから結構時間が経っているのに、まったく見つけられない。



「もしかして、病名間違えてるのでは?本当に青斑病で合ってる?」


「間違いない。ヴァルハラの司祭が言ってたんだ。東方の人間がかかりやすい奇病だと。『来訪者』と東方の人間は似てるから、商人を伝ってかかったんじゃないかって」


「なるほど。じゃあもう少し探してみよう」



しかし、それでも見つからない。日も暮れてきて、そろそろ図書館も閉まる時間だ。



「いくら奇病とはいえ、ここまで見つからないものかな?幸運(チート)をもってしても無理なんて」


「探す場所を間違えたのかもしれんな。図書館はミッドガルド帝国の歴史や研究などを保管する施設だ。東方の文化がなくても仕方ない」


「ううっ、ごめん。無駄足だったかも」



確かにいくら幸運でも無いものを出現させることは出来ないもんな。貴重な時間を無駄にさせてしまった。

申し訳なくて凹んでいると、アルファくんとエスリンちゃんが慰めてくれた。



「無駄足なんかじゃない。図書館にはないことがわかっただけでも進歩だ。だから謝るなよ」


「そうですわ。図書館になかったからといってお義姉さまの作戦が失敗したわけではありません。古本屋や骨董市などで見つかるかもしれませんし。明日はそこへ行ってみましょう」



私なんかより二人の方がよっぽど不安で焦っているはずなのに、気を遣わせてしまった。

私がしっかりしないと!



「うん、そうだね。明日こそ見つけてみせるから!」


「流石ですわ、お義姉さま!」


「よし!じゃあ今日はもう帰るか」



私が力強く宣言すると、二人も安心してか笑顔をみせてくれた。出してきた資料を片付けて帰る準備をする。

帰る準備が整っていざ帰ろうとすると、お兄さまがいないことに気づいた。

あれー?探してるときはいたのに。



「お兄さま?お兄さまー?」


「シス、ここだ」


「うわ、びっくりした」



突然目の前に現れて驚く。ギルさんといいお兄さまといい急に現れるのは止めてほしい。心臓に悪いぜ。

お兄さまがとある本を私に見せてくる。



「シスが魔族について書かれた本が見たいと言っていただろう。最近、魔族に関する本が図書館に寄贈されたという噂を耳にしていたからな。帰る前に借りていこうと思って」



本には『魔族の生態観察報告書』と書かれていた。思わず手にとって、ペラペラとページをめくる。



「うわっ!すごい!むちゃくちゃ細かく書かれてる!これって借りていってもいいの!?」


「ああ、借りて帰るだろ?」


「そりゃもちろ」



好みの本が見つかって興奮していたが、ハッと我に帰る。人の命がかかっている時に趣味を優先してる場合じゃないだろ。



「今は借りない。返してきて」


「だが、魔族については研究している奴らは多い。今借りなかったらいつになるかわからんぞ」


「うぐぐ、でも今はそれどころじゃないからいい!」



そんなに貴重な本、よりによってなんで今、見つけるんだよ!お兄さまの意地悪!うう、誘惑がすごい……。



「俺らのことは気にすんな。借りたいなら借りたらいいだろ」


「そうですわ。せっかく図書館に来たんですもの。どうか遠慮せずに」


「え?いいの?でもこんな緊急事態に……」



二人はそう言ってくれてるけど、本当に良いのかと悩んでしまう。アルファくんがお兄さまから本を奪って私に押し付けてくる。



「そもそも、お前は母さんのことは関係ないのに、自分の身を削ってまで力になってくれてる。なのに、自分のやりたいことまで我慢するな。良いから借りて来い」


「アルファくん……うん!ありがとう!」



本をぎゅっと抱き締めて笑ってお礼を言う。やったー!お母さまのことが片付いたら、すぐに読むぞ!!



「じゃ!すぐに借りてくる!!」


「あ、おい、待てシス!お前は借り方知らないだろ!止まれ!」



お兄さまが何か言ってるけど、嬉しくて良く聞こえない。さぁ!図書館が閉まる前に借りてこないと!!








はい、迷子になりました。なんでよ!!こちとら急いでんだぞ!ああ、もうどうして私はこうなんだ!!



「シス!だから言っただろう!」


「すいませんでした!!」



お兄さまがため息を吐く。こういう時は土下座に限る。自分では中々綺麗に出来たと思うんだが、お兄さまはさらに頭を抱えだした。ちょっと、やめなよ。イケメンすぎて女子の視線を総取りしてますが。頭を抱えて女子の視線総取り出来るのはおかしいだろ。変装の意味ないじゃん!



「皆が見てるのはキルじゃなくてシス、貴女よ。貴女もとことん兄馬鹿ね」


「心読むの止めてってば!!プライバシー大事に!!」



どうしてこの世界はプライバシーについてこんなに軽いの!私にだって隠したいことの一つや二つあるんだよ!!



「なら、少しは隠す努力をしたらどうかしら?公爵家は仕方ないとしてどうして何の関係もないムスペル家にまでバレているのか、説明してくれるのよね?」



頭をがしっと掴まれて、強制的に後ろを振り向かされる。


嫌だなぁ、振り向きたくないなぁ。


そんな思いとは裏腹についに後ろを振り返って、にっこりと微笑むお姉さまの姿を見て、悲鳴を上げそうになるが、何故か声が出せない。



「まぁ、シス。まさか私の妹ともあろう者が図書館で大声出そうなんてそんなはしたない子なわけないでしょう?」



無言で何度も頷く。うわーん、怖いよぉ。私が何したって言うんだ!!


アルファくん、エスリンちゃん、ごめん。私死んだかもしんない。










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