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ヒロインにしか見えない悪役令嬢?物語  作者: 松菱
三章 婚約者編
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緊急事態です!







結局あの後、具合が悪くなったので一週間ほど、孤児院でお世話になった。お兄さまによると、公爵が慌ててこちらに来ようとしていたようだが、丁重にお断りしておいた。

本当にすり寄りがすごい。今さら来られても嫌いなものは嫌いなのでいい加減諦めてほしいところだ。


そしてやっと体調が回復したので、孤児院から出ることに。



「あの急に押し掛けた上に一週間もお邪魔してしまってすいませんでした」


「いえいえ、こちらこそ流行り病を移してしまうとは申し訳ありませんでした」


「とんでもない!私がエスリンちゃんの言うことも聞かず、部屋に入ったのが悪いので謝らないでください」



私と神父さんの謝罪合戦のようにお互いに謝り倒してしまう。完全にこちらに非があるのに、なんて優しい人なんだ。初対面で冷たい態度とってしまって申し訳なかったな。



「それに私には貴女がサーシャの流行り病を代わりに受けたかのように見えたので、感謝しております」


「いやいやいや!そんなこと出来るわけないですって!ギルさんも言ってたでしょう?サーシャちゃんが治ったのは薬のおかげだ、って!感謝なら薬を作った伯爵夫人にすべきですよ」



見透かされたような気がして慌てて否定する。


サーシャちゃんを治すことばっかり考えてたから、神父さんに怪しまれることとか全然考えてなかったよ!

神父さんも本気で私のおかげだ、なんて思ってないだろうけど、心当たりがありすぎて動揺しちゃう。



「ええ、そうですね。もちろん、伯爵夫人には後日お礼の手紙と品をお送りします。けれど、私はどうしても貴女にも礼を言いたいのです。あの時、サーシャの命を諦めていなかったのは貴女でしたから」



私の考えなど見透かしたかのような穏やかながら真剣な表情に、たじろいでしまう。



「あ、いや、そのー、えっとー」


「申し訳ありません、神父殿。俺たちは今から伯爵の屋敷に用がありまして、この辺で失礼します」



あたふたしていたら、馬車の用意が終わったお兄さまが神父に一礼して引き離す。

お兄さま、敬語使えたのか……。今日は赤飯だ。



「そうでした。どうか道中お気をつけて」


「ありがとうございます。神父さん。みんなもまたね!」



私が神父さんに一礼してから孤児院の方を見ると窓から子どもたちが勢いよく手を振ってくれる。

この子らにもお世話になったなぁ。お見舞いに石ころとか、とかげとか色々持ってきたくれたし。


……あれ?あの子らもしかして私のこと嫌いか?



「お姉ちゃんばいばーい!」


「アルファ兄ちゃんと仲良くね!」


「また遊びに来てねー!」



良かった!好かれてる!大丈夫だ!!


馬車に入るまで、みんなに手を振る。馬車に入るとすぐ御者さんに、



「急いで伯爵の屋敷へ向かってください」



と声をかける。御者さんは不思議そうな顔をしながらも、了承してくれた。

私が家に帰らず、伯爵家に立ち寄るのは理由がある。

なんと、アルファくんのお母さまの容態が悪化したというのだ。悪化したのは私が倒れてからすぐのことだという。

それからは高熱と身体中の痛みにより毎晩うなされているんだとか。

私は医者じゃないのでなにも出来ないが、もしかしたら幸運(チート)が痛み止めの役割を果たしてはくれないかと思い伯爵家へと向かうことにしたのだ。

お兄さまは今からでも家に帰って養生してほしいらしいが、それは私が出来ることを全てやってから。何もせずに帰るなんてアルファくんとの約束を破ることになる。いくら私が自分勝手女だとしてもそんな薄情なことはしません。


やがて馬車が伯爵家に到着した。メイドさんの案内のもと、アルファくんのお母さまの部屋に到着する。



「アルファくん!」


「シス!」


「お義姉さま!」



眠っているお母さまの横で見守っていた二人が、私の方を見る。私もお母さまの近くに立って様子を見る。良く見るとうなされていて身体中からは汗が滲み出ている。息も荒く大変な状況なのは手に取るようにわかる。

手を掴んで治るよう祈ってみる。しかし、数分たっても何も起こらない。私のチートは私の願いは聞き入れないのだから当然だが、お母さまのことは好きだから、願えば叶うはずなのに。



「なんでだよ、なんで何も起こらないんだよ!お前、サーシャは治したんだろ!?なんで母さんは治してくれないんだよ!!」



アルファくんが悲痛な叫びと共に私の胸ぐらを掴む。ギルさんが間に入り、私からアルファくんを引き離してくれた。



「お坊っちゃま落ち着いてください。シスさまに当たっても解決しませんよ。それにお義兄さまもどうか冷静に」



ギルさんの言葉でお兄さまがアルファくんの後ろで刃を振り下ろそうとして固まっているのに気づいた。『障壁(バリア)』かなとも思ったが、マナが見えないので恐らくは別の魔法だろう。

アルファくんもお兄さまに気づいて距離を取る。



「冷静?出来るわけないだろう!シスは自分が苦しむのを覚悟の上でここに来たんだぞ!?なのに、望まない結果だからといってシスに八つ当たりしたんだ!」



お兄さまの言葉にアルファくんは、ハッと気づいたような顔をするが、それでもお兄さまは止まらない。



「だから言ったんだ!俺たちと他の人間は違う!こいつらは俺たちを利用して当たり前だという顔をして!そのくせ何かあればすぐに俺たちに責任を被せようとする!!関わるだけ無駄なんだ!!」


「お兄さま、私怨が入りすぎ。それ、アルファくんたちじゃなくて公爵家の方でしょ」


「同じだ!あれだけシスの『ちーと』を利用しておきながらこの仕打ち!シス!帰るぞ!!こんな恩知らずどもにこれ以上関わってられるか!!」


「ま、待ってください!シスさまに見放されたらお母さまが……!」



エスリンちゃんが慌てて私とお兄さまを見る。そんな絶望した顔でこっちを見ないでよ。罪悪感ハンパないんだって。



「まだシスに頼るつもりか?諦めろ。いいか、シスの『ちーと』は幸運だ。シスは万能薬でもお前たちの神でもない。幸運で病が治るならこの世に薬も病死も存在しない!はっきり言ってやる、お前らの母親はもう幸運でどうにか出来るものじゃなくなったんだよ!!」


「うるさい!!お前に何がわかる!!」



アルファくんが怒りの矛先をお兄さまに変えて殴ろうとするが、ギルさんが再び止めてくれた。



「お坊っちゃま、いい加減になさい。不安なのはあなただけではないのです。残念ですが、お義兄さまの仰る通り『幸運』でなんとか出来る問題ではなくなったのでしょう。サーシャのように薬を処方してあるなら別ですが、奥様はただ痛み止めの処方しかされておりません。サーシャとは状況が違うのです」


「悪かった……」


「謝るのは私ではありません」



ギルさんに諭されてやっと私を見たアルファくん。気まずそうに視線を逸らして小さく、



「ごめん、シス」



と呟いた。謝ることなんてないのに。まぁ、びっくりはしたけどさ。普通の反応だと思うよ。



「謝って許されるわけがないだろう。お前がどれほど酷い仕打ちをーーー」


「お兄さま、黙って」



お兄さまの怒りももっともだし、幸運でなんとか出来ないレベルなのも理解した。

でも、だから『はい、諦めます』にはまだ早いはず。



「シス、まさかまだこいつらのために何かしようと思ってるんじゃないだろうな?もう良いだろう。義理は果たしたはずだ」


「うん、そうだね。幸運が効果がない以上、私の出る幕じゃないのかもしれない」


「そうだろう?なら、帰るぞ」


「お兄さまに教えてなかったかもしれないけどさ、私、負けず嫌いなんだよね」



だから、効果がありませんでした。帰ります。はむちゃくちゃ悔しいからしたくないのよね。

アルファくんが眉をしかめて、問いかける。



「お前、あれだけエスリンに負けておいて負けず嫌いとかどの口が言ってるんだよ」


「今、カッコつけてるんだから茶々いれないでよ!エスリンちゃんとの勝負はいいの!明らかに負けが決まってるのは気にならないんだけど、こういうどうにか手が届きそうで敵わないときのは暴れたいくらい悔しいの!!」


「違いがわからん」


「素敵ですわ、お義姉さま」


「うそぉ!?」



アルファくんがエスリンちゃんに気をそらしている間にお兄さまに話をつけておかないとね。



「お前が優しいのは良くわかった。でもこれ以上は馬鹿のやることだ。義理も意味もない。ただ無意味に傷つくだけじゃないか」


「馬鹿で結構。もともと私は賢い生き方なんてするつもりもないし。それに優しいんじゃない。これは私のわがままだよ。行動した結果、今より悪くなる可能性の方が高いんだから」



賢い生き方出来ないだけだけどね。どうしようもないレベルの馬鹿なのに、自分の意見は曲げないどころか押し付けるタイプだし。



「それでも手が届くなら諦めたくないじゃん!その結果がどうであれ、私に何か出来る可能性があるなら!限界まで引っかき回したいの!帰るのはそれからでもきっと遅くない。だから、お兄さま」



お兄さまの拘束はいつの間にか解かれていた。怒りは消え失せ、私に対しての呆れと諦めが見て取れる。

いつも、お兄さまに我慢させちゃってるな。こんなにダメな妹は世界で私くらいなもんだろう。なんて自己嫌悪したって結論は変わらない。



「私のお願い、叶えてくれる?」



だって、私のお願いを理解して叶えてくれる人はお兄さまだけだから。

きっとこの気持ちもわかってくれるよね?


お兄さまは深くため息をついた。呆れと諦めはそのままだが、その表情は穏やかで優しい。



「お前は、本当に馬鹿な妹だな。だから俺はお前が愛おしい。わかった。気の済むまでやればいい。尻拭いは俺がするから」


「やったー!ありがとう!お兄さま!!大好き!!すごく好き!!」



お兄さまならそう言ってくれると思ったぜ!嬉しすぎてお兄さまに抱きつく。やっぱり私のお兄さまが世界一だね!!



「よし、じゃあ結婚しよう」


「なんでだよ!!この流れでどうやったらそうなるんだよ!!」



アルファくんが再び私たちを引き離した。今回はちょっとどうかと思うぞ。兄妹の感動シーンだったのに。

結婚云々のツッコミしてくれたのは感謝するけどさ。



「お兄さま!お母さまの前ですよ!お静かに!」


「あ、わ、悪い」


「お坊っちゃま、ライバルが強すぎて嫉妬するのはわかりますが、あまりやると嫌われますよ」


「嫉妬じゃねぇし!」


「お兄さま!」


「うっ……」



この状況、ツッコミにはあまりにも不利だな。手伝うと決めたならさっさと話を進めないとね。



「で、私に考えがあるんだけど……」



鬼が出るか蛇が出るか。いっちょやってやりますか!






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