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ヒロインにしか見えない悪役令嬢?物語  作者: 松菱
三章 婚約者編
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婚約者(仮)が出来ました!






あの後、お兄さまに引きずられるように伯爵のお屋敷から戻った。そして現在。



「紅茶です、どうぞ」


「お兄さま、悪かったってば。機嫌直してよー」


「直るわけないだろ。あんなシスの魅力もわからん奴と婚約なんて!……どうやって始末しようか」



私室で本を読んでいると、お兄さまが拗ねたような声を出しながら、紅茶をテーブルに置く。


お兄さまはずっと機嫌が悪い。勝手に決めたことは謝るけど、そこまで怒らなくてもいいのに。

それでも執事としての仕事が完璧なのは流石すぎる。



「婚約って言ってもお兄さまが公爵にチクったから、成立してないし。自称・婚約者どまりじゃん」


「自称でも許すか!あいつがシスに惚れてるならまだわかるが!シスの『ちーと』目当てなんだぞ!?」



あの後、お兄さまが公爵にアルファくんと婚約したと報告してしまったので、公爵がムスペル家に押し掛ける惨事になってしまった。

ギルさんが上手くとりなしてくれたから良かったものの、あわや内戦が勃発するところだったよ。


話し合った結果、婚約者候補というか仮婚約みたいな形になった。まずはお友達から始めましょうってやつだ。


アルファくんは接触禁止になるよりはマシだとそれを受け入れて、私に必ず口説き落としてやる。と宣言してきた。

口説き落としたいなら私の顔を見るたび嫌そうな顔するの止めた方がいいと思うけどね。まぁ、それを見るのが楽しみで婚約受けたところもあるから黙ってるけど。


お兄さまがあまりに可愛い可愛い言いすぎるから、実は私って可愛いのでは?と自惚れだしていたから、アルファくんの反応は新鮮なんだよね。


いや、これが普通の反応なんだけどさ。お姉さまは優しいから顔の美醜の話はあんまりしないし、お兄さまはこの通りだから麻痺してたというか。



「お嬢さま、アルファ様がいらしておりますがいかがなさいましょう」



メイドさんが、訊ねてきた。通すように指示を出すと、何やら甘い香りがする箱を持ってやってきた。

甘い箱をテーブルに置いて開くと、焼きたてのメロンパンがあった。わー、美味しそう。



「やっと許可が出たから、会いに来たわ。父さんほどじゃないけど、公爵様もなかなか怖いな」


「もう私には関係ない人なのに、しゃしゃりでてごめんね。お屋敷を貸してもらってる手前、逆らえなくって」


「だから俺ん家の別荘に引っ越して来いって。そしたら公爵様に借りを作ることないし、俺らもお前の不運のフォローできるしさ」


「私はそれでもいいんだけど……」



正直、ムスペル領でとれる作物は全部涙が出るほど美味しい。その上、『来訪者』であるアルファくんのお母さんが作る種で出来てるから、妙に懐かしい味がするんだよね。故郷の味?みたいな。

だから、アルファくんのお誘いはとっても嬉しいんだけど。


アルファくんの頭に紅茶がかかる。あ、しまった。お兄さまにじっとしてるように言うの忘れてた。



「うわっ!何すんだよ!」


「俺の目の前で同棲宣言とはよほど死にたいようだな」


「げ、お前、死神か!」


「お兄さま!アルファくんが来ても意地悪しないでっていつもお願いしてるよね!?」



お兄さまがアルファくんが来るたびに意地悪するから、とてもじゃないけどアルファくんの家にお世話になるなんて出来ないんだよね。



「手が滑ったんだ。仕方ない」


「明らかにわざとでしょ!大丈夫!?」


「大丈夫。火傷とかはない。けどこれは取れないかも」


「そうだな、これは大変だ。家に帰ってすぐに洗濯するしかない。よし、今すぐ帰れ」


「お兄さま!!」



もう、シスコンも大概にしてよ!いくら気に入らないからって、あんたは姑か!!

アルファくんは気にした様子もなく、服を脱ぎ始める。服の下には同じような服を着ていた。



「こんなこともあろうかと一枚多めに着ておいて良かったわ。で?そっちの不手際で汚されたんだから洗濯してくれるんですよね?」


「は?なんで俺が」


「お兄さま、洗濯してきて」



アルファくんが汚された服をお兄さまへと突き出す。お兄さまは嫌そうな顔をしているが、そんなこと許されるわけないでしょうが。

私が言うと、舌打ちしながら服を受け取ると、部屋から出ていった。



「アルファくん、ごめん。もし、落ちなかったら私が弁償するから……」


「あ?いいよ、気にすんな。あれ、どうせ古着だし、そろそろ捨てなきゃって思ってたから」


「そうなの?」


「死神がいるってわかってて、新品着てくるかよ」


「ごもっともです」



しかし、あれが古着かぁ。結構お高そうな服だったけどな。相変わらず順調そうで何よりだわ。

お土産のメロンパンを頬張りながら、そんなことを考える。



「そういえば、お母さまのご病気はどう?特効薬は届いた?」


「特効薬は変わらずなんだけどさ、母さんの体調が最近凄く良いんだ。そのメロンパンもリハビリがてら母さんが作ったんだぜ」


「そうなんだ。良かったね」


「久しぶりに母さんが台所に立ってるのを見て、父さんなんて大泣きしてたよ。ありがとな、シス」



初めて会ったときは胡散臭い笑顔だなって怖かったけど、こうして彼を知ってから見る笑顔は、悪くないなって思う。イケメンに弱いからだけかもしれないけど。



「私にお礼を言うのは変だよ。言ったでしょ?私は何もしてない。アルファくんの願いを叶えるのはアルファくん自身だって」


「でも、きっかけをくれたのはシスだろ?なら、やっぱり俺はお前に助けられたんだと思ってる」



アルファくんはそう言ってはくれるけど、私が何かしたわけじゃないし、お母さまの体調が良いのだって本人達の努力の可能性もある。なのに、そんなキラキラした目で見られたら罪悪感半端ないんですが。

今のところ私たちが彼にしたことと言えばお土産もらって紅茶ぶっかけてるだけなんだけど。通り魔かな??



「俺はまだ成人してないから婚約を認めてもらえないけど、認めてもらったらお前専用の別荘建てるわ。シス専用の使用人も50人くらい追加していつ何があっても守れるようにしてやるからな」


「お、おう」



とんでもないこと言い出したぞ、こいつ。いくら雨のこととかお母さまのことがあったとはいえ、そこまでする必要はないと思うんだが。

そもそももう友達なんだから、願いは叶ってるよね?結婚する必要もないような?



「アルファくんの願いってほぼ叶ってるし、結婚する必要なくない?アルファくんが私を好きならともかく、好きじゃないんだし」


「お前の『ちーと』の部分だけなら、確かにそうだけど。でもムスペル家が欲しいのは『ちーと』だけじゃない。お前の血筋が欲しいんだ」


「血筋?平民の血筋なんか欲しがってどうすんの?」



ますますわからない。私にチート以外の価値なんかあるか?しかもそれが血筋とか。こちとら平民同然ですよ?



「それ、正気で言ってんの?お前の父さんである公爵様は王弟殿下だぞ?貴族として存続するには王族との親戚関係は不可欠なわけ」


「ああ、そういえばそうだっけ」



そういえばお姉さまが私は公爵の娘だとか言ってたな。公ではアリーシャだけが公爵の娘ってことになってるって聞いてたけど。

そんなことまで筒抜けなんだ?そりゃあ大金持ちになるはずだわ。それだけ情報持ってれば金も寄ってくる。



「でも私、4年前に娘辞めさせられたから、私と結婚しても王族とは親戚にはならないんじゃない?」


「数ヶ月前からシスは公爵と愛人の娘だって公爵が公表したから、親戚になるんだわ、これが」


「はぁ!?嫌なんですけど」


「俺に言われてもなぁ」



なるほど、だから妙に馴れ馴れしいし、私の婚約にも口を出してきたのか。あの人は。



「だから、もしシスが『ちーと』持ちじゃなくても未婚の王族の娘ってだけで優良物件なわけ。顔が絶望的に好みじゃないことを除けば、王族の娘で望みが全て叶う能力持ちだぞ?求婚するだろ」


「玉の輿に乗るだけが幸せじゃないぞ。考え直した方がいいんじゃないか」



こいつ、彼女がいても社長の娘と結婚するタイプやん。手切れ金とか渡しそう。まだ若いのにもったいない。



「玉の腰?なんだそりゃ」


「えっと、だから権力だけで結婚決めるのはダメなのでは?結婚って好き同士がするから幸せっていうか」


「?権力で結婚しなくて何で結婚するんだよ?相手を好きになるのは夫婦生活を円滑にするためで、結婚相手を決めるためのものではないだろ」


「ええええ……」



そんな当たり前だろ?みたいな顔して言われても……。結婚ってそういうもんだったっけ?自信なくなってきたわ。



「ってわけだから、さっさと俺のこと好きになれよ。顔隠せば、俺も我慢出来るし。それでも嫌なら愛人囲うわ」


「おお、人間のクズみたいなこと言ってる」



お前のそういうところだぞ。好きになれない理由は。

まぁ最初の出逢いみたいに好きでもないのに、甘いセリフ吐かれるよりはいっそ清々しくて好感持てるけどね。



「頑張って惚れさせてみたら?出来るもんならね」


「なんでブスの癖に上から目線なんだよ!」


「いや、実際立場が上ですし」


「くっ、事実なのになんか凄いムカつく」



なんてほのぼの?会話していたら、急に扉が開き、可愛い女の子が入ってきた。

赤茶色の長い髪をみつあみにしており、緑色の大きい目はとても愛らしい。ほっぺたは丸く赤みを帯びていてまるで桃のようだ。

顔立ちは幼くて私たちより少し下の子だろうか。

その少女は私を指差すと、



「あなたみたいな人にお兄さまは渡せません!私と勝負してください!」


「へ?」



何故か勝負を挑まれました。急展開すぎん!?どういう状況よ、これ!








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