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ヒロインにしか見えない悪役令嬢?物語  作者: 松菱
三章 婚約者編
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交渉開始です!






にっこり微笑みながら言ってやると、気障男さん、うーん、いい加減名前で呼んであげようか。アルファくんは落ち着かない様子で視線を逸らした。



「す、素直に吐けも何も聞いてた通りだよ。俺はお前の『ちーと』とやらが欲しくてお前を惚れさせようとした。じゃなきゃお前みたいなブスに話しかけるわけねぇだろ」


「いやー、ごもっともです。でも、そうじゃなくて貴方のことを教えてほしいの」


「は?」



目的なんて正直、ここに来なくたってわかってる。

お兄さまみたいに家族大好き!な人ならともかく赤の他人が私なんて好きになるはずはあり得ないし。


私が知りたいのはそんなことじゃない。何故、アルファくんが『ちーと』が欲しいのか。それが知りたい。



「アルファくんはどうして『ちーと』が欲しいの?」


「領地を預かる身としては安定的に領民が幸せになるなら、願うのは当然だろ。それに母さんの病気が治るなら俺は魔族にだって求婚してやる」


「確かに当然だね。でも、それって私の力がなくても叶えられるんじゃない?」



お茶を一口含む。やっぱりメロンだ。

この異世界に来てから、ムスペル領産以外でメロンなんて聞いたことがない。どういう経緯で種を入手したかは知らないが、メロンの市場を独占してるだけでも多額の金が舞い込んでくるはず。

実際、この屋敷の内装やテーブル一つとってみても、質素ながら材質の良いものが使われており、少なくても公爵家の別荘よりは数ランクほど格が違う。


そして彼は私一人分の不幸くらいなんとか出来るほどの財力があるとも言った。幸不幸を調節できるくらいの金持ちなら私に領民の幸せを願わずとも自分たちで解決出来るはずだ。

お母さんの病気だってそうだ。治るかどうかもわからない『幸運』に頼るくらいならさっさと高い金払って腕利きの医者を雇うか、特効薬でも買えばいい。



「今の貴方の説明に私が必要な理由はまるでない。私は私を必要としない人を好きになるほど、お人好しじゃないから」


「……………」



アルファくんが黙り込む。私はお姉さまじゃない。だから、ただ助けてくれと伸ばす手を掴むことはしない。それは女神の仕事で私の仕事じゃない。



「俺たちの領地はほとんど雨が降らない。もともと作物には向いてない土地なんだ」



アルファくんが話し始めた。ここからが本当の交渉だ。



「それでも魔族との国境から一番近いのもこの領地だから人を置かないわけにはいかない。ここは落ちぶれた貴族や村八分で追い出された人たちが最後に行き着く流刑地だった。それを両親が変えたんだ」


「メロンって確か、少ない水で育てられるって本で見たことある。ご両親はそれを知ってたの?」



私が口を挟むと、アルファくんは驚いたものの、すぐに納得したように小さく頷いた。



「流石『来訪者』だな。その通り。けど、知ってたのは母さんだ。父さんは母さんを信じて母さんの言う通り、雨を降らせてメロンをつくらせた」


「雨を降らせる!?え、人間にそんなこと可能なの?」


「父さんのマナ操作は1000年に1人の逸材と言われるほどに膨大かつ精密だから。領地分くらいの雨は降らせられる」


「そんな当然そうに。はぁぁ、ムスペル伯爵すごい」



そっちの方がよほどチートだと思うんですが。お兄さまといいガンマくんといいムスペル伯爵といい、なんで異世界転生した自分より遥かにすごいの?私なんかチート貰ったってこのざまだぜ?



「そういえばそのメロンの種はどこから持ってきたの?ムスペル領以外でメロンを見たことないから、自生してたとか?」


「違う。母さんが作ったんだ」


「……はい?」



ん?聞き間違いか?今、作ったって言わなかった?なにを?種を?



「種を作る魔法なんてあるんだ、すごいね」


「は?そんな魔法あるわけないだろ。そんなのあったら飢えなんて言葉、この世にあるはずない」


「え、でも今、作ったって言ったじゃん!」


「『来訪者』のくせにここまで言ってもわかんねぇのかよ。だから、俺の母さんは『来訪者』なの!」


「えええええ!?」



衝撃のカミングアウトに驚いてしまう。いや、『来訪者』なんて呼び方があるくらいだし、私以外に『来訪者』がいるのは知ってたけど。ここで来るか!



「お前で言う『ちーと』が母さんは『思い浮かんだ作物の種を作り出せる』能力だったんだよ。だから、母さんはメロンの種を作り出した。他にも秘密裏に荒野に適した作物の種を作ってた。お陰で流刑地同然だったムスペル領は農業の最先端の街に生まれ変わった。他の領地からも母さんに教えを請う人たちがたくさん来て観光地にもなった」


「『来訪者』がいるなら尚更私なんて要らなくない?」


「要るんだよ!実力で父さん達はのしあがってきた。けど、俺たちには圧倒的に運が足りないんだ!」


「はえ?運が足りない?」



どういうこと?聞く分にはずいぶん幸運そうだけど。紅茶を飲むのも忘れてアルファくんの話を聞き入る。



「本来ならほとんど降らないだけで雨は降るはずなんだ!なのに俺たちが領地を納めてから雨は一切降らない!だからわざわざ高い金をかけて他の領地から水を買ったり、父さんが毎日毎日領地の全てを巡って雨を降らせてる」


「旦那様は領地経営の他にも王宮からの軍事の相談も請け負っておりますので、日々寝る時間も割いて各地を回っておられます」


「ひえええ」


「母さんの病気もそうだ。特効薬はある。今、遠方の地より取り寄せてるけど、届くのは5年後だそうだ」


「5年後!?それで間に合うの!?」


「間に合うわけないだろ!!そりゃあ今は容態は安定してるけどさ!いつ悪化するかはわからない!なのに5年も待てるかよ!!」



苛立ちをぶつけるように睨まれる。私を睨んだって仕方ないんだけど、それくらい切羽詰まってるんだろうなぁ。



「な、なんとか出来ないの?神聖魔法とかは?」


「魔法は万能じゃない。内側から身体を蝕む病には効果がない」


「じゃあ、ギルさんとか伯爵が転移魔法使って取りに行くのは?」


「流石に世界の果てまで転移魔法を発動させることは出来ません。そんなことが出来る者がいるとすればまさしく神同然でしょう」



色々伝えてみるも、どれも否定されてしまう。それもそうだよね。そんなに簡単に解決出来るなら、私なんかに頼りに来ないか。



「今は母さんの病状が治まってて、父さんが元気だからこうして問題なく領地経営出来ているけど、数年後はどうなってるかわからない。父さんを手伝いたくても俺はまだまだ力不足で役に立たない」



アルファくんは椅子から降りて芝生の上に土下座する。久しぶりに見た綺麗な土下座に一瞬理解が出来なかったが、すぐに気づいて止めさせようと近づく。



「アルファくん、なにしてんの!?」


「『来訪者』の世界ではこれが人に頼む時の最大限の頼み方なんだろ!?頼む!俺の婚約者になってくれ!なってくれたら絶対不自由させないし!いくらでも好きなもの買っていいから!」


「間違ってはないけど、プロポーズでする格好じゃねぇ!」



アルファくんのお母さんってば、どういう風に伝えたの!?息子さん間違って使ってますよ!?

とりあえず、土下座は止めさせる。

それでもアルファくんは地面に手をついたまま、縋るようにこちらを見てくる。


うう、その顔止めてよ……、イケメンの縋る顔は良心にクリティカルヒットするんだってぇ……。


はぁ、お姉さまに手紙出さないとなぁ。結局お姉さまの言う通りになっちゃったわ。



「わかった。いいよ、私で良いなら、なってあげる」


「ほんとか!?」



うわ、今日一の良い笑顔。眩しっ。イケメンの笑顔は心臓に悪すぎて直視出来ない!

お兄さまは私の部屋以外では仮面してるからまだ耐えられるけど、この人は仮面なんかしないから心臓にダイレクトアタックさせてきやがる!



「勘違いしないでね。婚約者になるだけで、アルファくんのことまだ知らないし、好きになったわけじゃない。仮に好きになったからといって私が叶えるわけじゃない。アルファくんが叶えるんだよ?」


「俺が?」


「そう。アルファくんの皆を想う力が強ければ、きっと願いは叶う。アルファくんは、皆のこと好き?」


「当たり前だろ!領民も母さんも俺の命より大事だ!」



迷いなく言いきるその琥珀の瞳はキラキラと宝石のように輝いているように見えた。


私が同じ立場だったら、彼みたいに出来たかな?出来ないだろうなぁ。

不覚にもその琥珀色の目が好きだな、って思ってしまった。だからだろうか。


空がどんよりと曇り出した。あっと思う間もなく、雨が降り始める。

ポツリ、ポツリと振りだした雨はやがてザーザーと激しく音を立てる。



「こんな、まさか、本当に?」



ギルさんが天を仰いでからこちらを見る。申し訳なくて視線を逸らす。


惚れっぽい性格でごめんなさい!だってなんか美味しそうだったの!飴みたいで!!



「なんだ、やっぱり俺に惚れてたのかよ。素直じゃないやつ!」



ピタッ



振りだしたはずの雨があっという間に止んだ。あらやだ、チートさんってば素直なんだからぁ♡



「は!?なんで止めるんだよ!もっと降らせろよ!」


「いや、流石にあの自惚れ発言はちょっと……」


「お坊っちゃま、土下座までしておいて全部台無しにするとは、いやはや常人には真似出来ませんね。流石でございます」


「あ、でもギルさんのことは好きだよ!お茶淹れるの上手だし。面白いし」


「では、私が願いましょうか」


「いいよー」



私が許可を出すと、雨が振りだした。アルファくんが怒る。



「なんでだよ!こっちは土下座までしてんだぞ!なんで俺の願いは聞かないのに!ギルのはそんなすんなり聞くんだよ!!」


「坊や、良いことを教えてやろう。好きって気持ちは理屈じゃないんだよ」


「同い年!俺ら同い年だから!!あと格好いい感じで言ってるけど!ただ単に餌付けされただけだろうが!!」


「あ、わかりました?じゃ、おかわりください」


「まだ食うの!?一応まだ他人様の家ってわかってる!?」



とりあえず、このままじゃ風邪を引くので家に入れてもらいました。お兄さまが心配だったので、ギルさんに頼んでお兄さまも入れてもらいました。


べ、別に今の今まで忘れてたわけじゃないんだからね!ちょっとお菓子が美味しかったから夢中になっただけだし!!


まぁ、当たり前のようにお兄さまにむちゃくちゃ怒られて本日二度目の土下座は私がすることになりました。



「俺をおいて勝手に入っただけでも許せないのに、その上、婚約だぁ!?お兄さまは断じて認めんからな!!」


「というわけなので、じゃ、婚約破棄で」


「諦めんの早いわ!もう少し粘れよ!!」


「シス!!真面目に聞いてるのか!?」


「ご、ごめんなさい!!」



何故か途中からアルファくんも説教に参加してきて、二人がかりで叱られましたとさ。


いや、なんでよ!?おかしいやろがい!!








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