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ヒロインにしか見えない悪役令嬢?物語  作者: 松菱
二章 修道院編
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人間は見かけによらない(オーガside)







人間なんてろくなもんじゃない。



俺は牢屋の中、心底思う。

人間たちは女神から愛された土地があり、作物も畜産もなんだって可能だ。だから人間たちの国はどこも富んでいる。一部貧困にあえぐ層もいるらしいが、俺たちのように赤ん坊を敵対する国の森に捨てたりなんてしないだろう。


俺たちオーガは、歩けるようになると故郷から遠く離れた場所に置き去りにされる。過酷な環境を生き抜き、故郷へと帰れるものだけがオーガとして認められる。


この風習を何百年と続けた結果、オーガには帰巣本能が身に付いたため、帰り道はわかる。しかし路銀が足らず、冒険者として護衛任務や討伐任務などをして暮らしていた。


オーガは成人するまでは人間と見た目が変わらない。角はフードで隠せるし、褐色の肌は見える部分だけ、人間の国に自生する木から採取した白粉を塗ればいい。


それでなんとかバレずにやってきた、と思ったのだが、護衛任務中に仲間から襲撃されて捕まった。後で聞いた話ではそもそも護衛任務自体が俺を捕まえるための罠だったらしい。


護衛任務を依頼してきた男はオーガを捕まえて、獣などと戦わせて小銭を稼ぐ奴隷商人だった。

よりによってそんなろくでもない男の依頼を受けてしまうとは。後悔するが、もう遅い。


人間たちには恵まれた土地があるのに、なぜそれに満足せず、命を弄ぶようなことをするのか。

俺たち魔族を化け物と呼び、蔑んでおいて自分達のやっていることの方がよほど酷い。


俺がろくでもないと評価するのは、何も奴隷商人だけではない。俺の牢屋の向かいの牢屋に入る人間もそうだ。見張りたちの話を聞くに、聖職者をどこからか捕まえてきて、またどこかへと売りさばいているらしい。同族を商品にするなんて、とは思うが、俺には関係ないから、まあそれはいい。


問題はその入っている聖職者とやらだ。俺を見るなり悲鳴をあげたり、罵声をあげたり喧しい。そのくせ自分が売られると知れば、助けてくれだのなんとかしろだの騒ぎ立てる。

主義がまるで一貫しておらず、売られる瞬間まで俺を責め立てる。唾を吐きかけられることさえあった。


意味がわからない。何故俺を責め立てる?捕まえたのは同族たちで俺ではない。ただ魔族だというだけで同じ捕まっている身でありながら罵声を浴びせるのか?



人間なんてろくなもんじゃない。必ずここから逃げ出して、奴らも同じ目に合わせてやる。



そう思っていたんだが。



一人の人間の少女が俺の向かいに入れられた。俺の腕にすっぽり入りそうな大きさだ。あんなに小さいのに今までの奴らと同じ服を着ている。親にでも売られたのか、状況がわかっておらずここはどこかと俺に問う。呑気なものだ。

それがなんだか腹立たしくて、皮肉めいて説明するも納得するのみで反抗したりはしない。


もしや、俺が魔族と知らないのかと思ったが、少女は確かに俺を見て、魔族だと見抜いた。なので知らないわけではない。なのに何故、少女は俺と普通に話をしているのだろうか。

状況を説明してもなお呑気な少女に俺はすっかり毒気を抜かれ、苛立ちは消え失せた。


少女は無謀にもここから逃げ出そうと考えているようだ。俺に見張りの数や屋敷の広さを聞いてきた。

そんなこと出来るはずがない。食事の時に鍵が開くからその隙に逃げようと言うのだろうか。あんな小さな足じゃすぐに捕まって終わりだ。


でも、少女が脱走しようと四苦八苦する姿を見るのは、楽しそうで退屈はしないかもしれない。それに気の強い者は個人的に好ましい。いつも、見世物にされている分、俺も少女で楽しませてもらおう。

口では、説得するように見せているが少女がどうするのか気楽に眺めていた。



パキンッ



この場には相応しくない金属が折れる音が響いた。何の音か理解出来ない、獣たちが檻にぶつかった音か?



ギギギギィィィィィン



甲高い金属音が聞こえ、思わず目を閉じた。金属音が収まって目を開けると、少女の手錠は何か強い力で引きちぎられており、鉄格子の檻は歪に折り曲げられて廊下へと繋がる穴となっていた。

まるで少女が檻をねじ曲げたかのように。


少女をもう一度見る。俺の腰くらいまでしかない大きさだ。服を着ていても断言出来るほどに筋肉はついてはいない。この肉体で檻をねじ曲げるのは不可能だ。


なら、どうして少女の檻はねじ曲がったんだ??手錠ってそんなに柔らかかったか?


混乱している俺は手錠を引きちぎろうと力をこめてみる。びくともしない。金属の擦れた音が耳に届くだけだ。さらに混乱する俺に追い討ちをかけるように、



ギギギギィィィィィン



と甲高い金属音が響き、俺の牢屋の檻までも折れ曲がる。不可能なはずの少女の手によって。

オーガの自分ですらびくともしない手錠や檻を事も無げに壊すなんて、この子、本当に人間か?

そして、ついに俺が逃げられない一番の原因だった首輪まであっという間に壊してしまった。

なのに、いとも簡単に見張りの男には捕まってしまう。強いのか弱いのかまるでわからない少女。なんだこれは。面白すぎるだろう。



欲しい。知りたい。彼女の秘密を。



男の首の横辺りを狙い、垂直にして手を横にして叩く。首を捻り、殺しても良かったが彼女に怯えられて逃げられては元も子もない。

それでもオーガの一撃をもろに受けたんだ。そのまま死んでるかもしれないが。

男の力が抜けた瞬間に彼女を抱き留めた。予想通りすっぽり入る彼女に怪我はないか、と尋ねたが、返事はない。

怖がっているのだろうかと思ったが、そうではないようで、内心安堵する。

しかも、都合良く彼女の方から『守ってほしい』と言質も貰った。よし、連れて帰ろう。



もし、彼女がオーガの習性を知っていたら俺の目の前であの豪腕は披露しなかったことだろう。

強さを本能的に求める(オーガ)がこんな魅力的な存在をみすみす逃すはずはないからだ。

そう思えば俺の悪運もまだまだ捨てたものではないのかもしれない。


自由にさえなれればこっちのもの。いつか逃げる時のために、人間どもの弱点は把握している。あとは適当な混乱に乗じて逃げればいい。


奴らに復讐したい気持ちはあるが、それより彼女を余すところなく調べたい。あの強さを知りたい。叶うなら手に入れたい。そのためには一刻も早くここを離れなければ。



ーーー早く欲しい。







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