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ヒロインにしか見えない悪役令嬢?物語  作者: 松菱
二章 修道院編
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いざ、実験です!








実験内容はこうだ。

麓にある林檎の農園を二等分の仕切りを作って、休憩する派としない派に分けて一週間続けてもらう。

どちらが農園仕事を早く終わらせられていたかを調べるというものだ。

そしてその結果いかんで決めようということになった。











そして一週間後。

院長先生と私は聖女さまによって院長室へと集められていた。

聖女さまが口を開く。



「では、結果をお願いします」


「はい、一週間試してみましたが」



効率が良いと言った手前、変化がないと困る。なんか、緊張してきた。



「どちらも同じ時間に終わりました」


「え……」


「する派が早い時もあれば、しない派が早い時もありましたし、あえて目に見えるような時間差ではありませんでした」


「そうですか」



聖女さまは結果を微笑みながら聞くと、私に向き直り、



「やはり、貴女の言うとおりでしたね。疑ったりして申し訳ありませんでした」



院長先生は、私がなぜ誉められているのかわからず驚く。



「どういうことですか?結果は同じ。変わらなかったんですよ?」


「ええ、変わらなかったということは、休憩している派は|20分時間を浪費しているのに《・・・・・・・・・・・・・・》浪費をせず働いている彼らと同じ時間で終わらせているということになります」


「あ……」



ようやく合点がいったようで、押し黙った。しかし、今度は院長ではなく、聖女さまのお付きの一人が口を挟む。



「休憩を入れることが大事なのはわかりました。だからといって紅茶を取り入れるのは不可能です」


「紅茶にしたのは、私が他の修道女の方と仲良くなるための話題性として取り入れた面もありますから、聖女さまにも言いましたが、紅茶ではなくエールで代用してもらえば費用は押さえられるかと」


「ええ、大事なのは、飲み物を飲むことと、一度手を休めること。そうよね?」



聖女さまの問いかけに力強く頷く。すると、お付きのもう一人が援護とばかりに、



「他国はどうか知りませんが、私たちは民からの血税で生活しているのですよ。それなのに、民たちが休みなく働いているのに私たちが休んでは民の見本になりません」


「ですから、国民の皆さんにも休んでもらうんです。皆さんを手本にしているなら、国民の方も休んでもらえるはず。勤勉と過労は違います。適度に休みを入れてこその勤勉だと私は考えます」


「そうね、私もそう考えます。働き続けることが勤勉だと言うのなら睡眠も食事も女神から与えられるはずがないでしょうから」



聖女さまは皆を見渡して、はっきりと告げる。



「ミス、アリーシャが行ったものは仕事を効率的に行う上で必要な行動を取っただけに過ぎず、『怠惰』には当たりません。また、紅茶は確かに高額なものではありますが、皆に振る舞ったこと、必要以上の使用はしていないと判断されることから『清貧』の規則を破っていないでしょう」


「つ、つまり……」


「この度の件は不問と致します。今後も奉仕活動に励み、更正に向けて頑張ってください」


「は、はい!ありがとうございます!」



あー、良かった。規則違反と言われて、一時はどうなることかと思ったけど、なんとか乗り切れた。

ほっと胸を撫で下ろしていると、聖女さまが近づいてきて、



「また会いに来ますから『来訪者』のお話、聞かせてくださいね。ミス、アリーシャ」



と耳元で囁いてきた。それ自体は嬉しい。こんな美少女とお話出来るとか最高やん。だけど、



「ごめんなさい、私はアリーシャじゃないんです。両親が言うには産まれた時に入れ換えられたらしくて……」



名前どころじゃなかったからスルーしてたけど、問題が解決したし、ちゃんと訂正しておかないとね。

聖女さまは目を瞬かせ、不思議そうな顔をしている。

おお、初めて見た。もしかしてレアなのでは?



「貴女はアリーシャ・シアルフィよ。私が言っているのだから間違いないわ」


「あ、そうか」



そういえば、聖女さまは信託を授かってるんだったな。その聖女さまが私をアリーシャと言うなら、お兄さまの言うとおり、私は公爵の……ううん、違う。



「ごめんなさい、聖女さま。やっぱり私はアリーシャではありません。シアルフィ公爵と公爵夫人が望む娘は私じゃない。なら、私はアリーシャではないと思うから」


「そう。それなら仕方ありませんね。では、これから私は貴女をなんてお呼びすればいいでしょう?」


「んー。そういえば名前考えていませんでした。他の人からは修道女(シスター)って呼ばれています」


修道女(シスター)、つまりシスちゃんね」



シス、か。うん、良いんじゃないかな。今までと同じ呼び方で混乱はないし、さらに短くなって呼びやすくなってるし。



「聖女さま、ありがとうございます。これからは名前を聞かれたらシスって答えます!」


「え?気に入ったの?」


「はい!」



お付きの人が何やらこそこそ話している。院長先生も、



「私が言うことではないですが、シスター、本当にそれでいいのですか?名前とは大事なものですからもっと慎重に考えた方が……」



と、何やら焦った様子で声をかけてくる。え、そんなにダメ?わかりやすくていいと、思うんだけど。



「嬉しい。私、今まで名付けで採用されたことはなかったの。ふふふ、シスちゃん。仲良くしましょうね」



聖女さまが上機嫌に語りかけてくる。さっきまでの穏やかで優しい『聖女』っぽい笑みも可愛いけれど、無邪気に年相応に喜ぶ聖女さまも可愛いなぁ。



「まあ、聖女なんてよそよそしい。私のことはユリシア、と呼んでくださいな」


「心読むの禁止です!ユリシア様!」



お兄さまといいユリシア様といい、なんですぐ心読むの?心読まないと死んでしまうの??

ユリシア様はしばらくはしゃいだ後、お付きの人と一緒に帰っていった。







というわけでお待たせしました。ついに私にも名前が出来ました!やったね!

ちなみに部屋に戻ると、また天井裏で話を聞いていたお兄さまから、



「お前、本当にそれでいいのか!?犬にわんちゃんって名付けるくらい安直だぞ!?」



と必死に説得されましたが、



「シスって前世の意味の『妹』にも聞こえてお兄さまの妹って感じで気に入ったの」


「シス、すごくいい名前だと思うぞ」



さすがこの国のトップに喧嘩を売るくらいのシスコンはチョロかった。キャラがブレないのは素晴らしいよ。花丸あげるね。



こうして本当の意味での平和が訪れたのだった。






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