聖女さまとご対面です!
「シスター!これ運んでちょうだい!」
「はーい!」
あのお茶会から数日。
最初に約束した先輩修道女さんーーージュリアさんというお名前だそうーーーを皮切りに、おそるおそるだけど、私と話してくれる人が増え、今ではこうして雑用を頼まれるレベルのコミュニケーションを取れるまでになりました!やったね!
まぁ、お兄さまからは良いように使われてるだけなんじゃないか?と心配されてはいるけどね。
でもパシりでも、存在を無視されたり不必要に怯えられたりするよりは断然マシ。
前も今も嫌われて育ってるからか、頼られたいって願望が強い。だからこうして雑用任されるのは嬉しいし。
というわけで、先輩たちが剪定した枝を積めた籠を両手に修道院の脇にある薪置きまで持っていく。
「これ、お願いします」
「はーい、そこに置いといてー」
「了解です」
薪作り担当の先輩が鉈で枝を加工していく。いつものように籠の枝を乱雑に置いて、麓へ戻ろうとすると、声をかけられる。
「ねぇ、シスター?」
「はい、なんでしょう?」
「今日も、その、やるの?お茶会」
「ああ、はい!休憩は大事ですから!」
気恥ずかしいのか、しどろもどろになりながらも聞いてきたので、笑顔で答える。
お茶会はあの後も定期的に行っている。きっかけはコミュニケーションを取るためだったが、今では林檎のお世話の合間の小休憩として活用されている。
その度に院長先生が、すっ飛んで来るのだが、私が怖いのかすぐに帰ってしまう。何がしたいんだ?あの人。
「今日は私も行ってもいいかしら?」
「先に準備して待ってますから、仕事に区切りがついたら来てください」
「わかったわ、じゃあ後で」
先輩と別れ、いつものように空の籠を上に置いて机ごと運んで麓まで降りると、ジュリアさんが慌ててこちらへとやってきた。
「今日のお茶会は中止よ!中止!!」
「え?いきなりどうしたんですか?」
「聖女さまがこの修道院に来るらしいのよ!」
聖女様って、確かこの国の一番偉い人だよね。え?何しに来るんだろう?
「聖女様には女神フレイアの化身で、逆らうと神罰が下るらしいの!『清貧』に反した行動しているってバレたらどうなるか……!」
「え、これって『清貧』に反するんですか?」
「はぁ!?当たり前じゃない!わかってなかったの!?」
え、これってダメなの?お茶飲んでるだけなのに?
なんて驚いてると、信じられないという顔でジュリアさんがこちらを見る。
「そっかぁ、だからマイヤーさん怒りにきてたんだぁ」
「じゃあ、何しに来てたと思ったの?」
「勝手に机と椅子を持ち出したから、怒られてたんだと思ってました」
私の言葉にジュリアさんは文字通り、頭を抱えだした。うう、馬鹿でごめんなさい。
「はぁぁぁ、あんたねぇ、呆れて言葉も出ないわ」
「次からは蜂蜜入りじゃないお茶にします」
「そうじゃない!反省すべきところが違う!!」
蜂蜜入りなのが悪かったのかと思ったが、そうではないらしい。
「って!あんたの馬鹿に付き合ってる暇はないのよ!さっさと片付けないとーーー」
「こんにちは」
ジュリアさんの後ろから、鈴のような可愛らしい声が聞こえる。
ジュリアさんが反射的に後ろを振り向くと、そこには美少女がいた。淡い藤色の髪は軽くウェーブがかかって肩まで伸びている。紺色の瞳はまるで夜空を閉じ込めたかのような美しさだ。透き通るような肌とマッチしていた。白一色のドレスは以前、テレビで見たような教皇の祭服とよく似ていて全体的に輝いて見える。
顔形も、高い鼻、細い眉、可愛らしいどんぐり眼、程好く膨らんだ小さい唇。年齢もおおよそ同い年くらいなこともあり、アリーシャとは対極に位置するかのような美少女であった。
ん?何かこの描写ずいぶん前にした覚えがあるぞ?どこでだったっけ?えーと?
「こんにちは、ミス,アリーシャ。図書館で会ったとき以来ね」
「あー!あのときの可愛い女の子!」
そうだった!そうだった!お兄さまと一緒に大人に変身して図書館に行ったときに会ったんだった!
待てよ、大人に変身……?今は、子ども、だよね?
なんでバレてるの???それに、私、この子に名乗ったっけ?
「え、あれ、え?」
「ふふ、混乱させてごめんなさい。私はあなたの正体を知ってて声をかけたの。だから、あなたが子どもの姿でもわかるのよ」
「あ、そうだったんだ。なんだ、良かった」
「ところで、ミス,アリーシャ」
ふと、女の子の視線が机と椅子に向かう。
「今の時間は林檎の栽培の時間よね?何故、机と椅子が置いてあるのかしら?」
「え?それは」
私が答えるまえに院長先生と女の子と似た服装の女性が2人走ってきた。
「聖女さま!転移魔法を使われるときは目的地も言っていただかねば困ります!我々には使えないのですから!」
「ああ、ごめんなさい。ミス,アリーシャを連れてすぐ戻るつもりでいたものだから」
「聖女さま?」
「私の話をしていたのに、まだ気づいていなかったの?やっぱり回りくどいのはダメね」
女の子は変わらず、優しく微笑んでいるはずなのに、なぜかその笑みが怖く思えた。それは彼女の正体にやっと気づいたから、だろうか。
「ミス,アリーシャ。私は今代の聖女、ユリシアと申します。お話をお聞きしたいので、一緒に部屋へ行きましょう?」
もしかして私、絶対絶命なのかな?