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ヒロインにしか見えない悪役令嬢?物語  作者: 松菱
二章 修道院編
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奉仕活動は大変です!






アースガルズ修道院に入所してから数日後。

お勤めが終わり、あとは部屋でお祈りすれば一日は終わる。ふらふらになりながら、なんとか部屋に戻った。



最初は、鉄格子の部屋に入られるのかと怯えていたが、どうやらあれは精神疾患がある人を収容する部屋で修道女が暮らす部屋で別にあった。

そこは、少し埃っぽいものの、ベッドがあり、衣装箪笥も机もある。いたって平凡な部屋であったため、ほっと一息ついた。








「ふひぃー、つかれた~」



ベッドに寝転がり、枕に顔を埋める。しかし、お兄さまは呆れた声を出しながら、ひょいと私を抱え、ベッドから降ろす。



「ちゃんと着替えてからにしろ。服に皺がつく」


「はーい、お母さま」


「ん?お兄さまよりお母さまをご所望か?やぶさかではないぞ。さぁお母さまの胸に飛び込んでおいで」



嫌みを込めてそう呼んでやるも、何をどう勘違いしたのか、若い女性のメイドさんから貴婦人の姿に変化して両手を広げる。



「ダメだこの人、ボケ殺しだ。お兄さまはそれでいいの?」


「俺はお前の家族なら、どれでも良い。お前の望むようにしてくれ」


「これだから天然イケメンは!なんでサラッとそんな甘い言葉を吐いてくるの!?罪悪感パネェんですけど!!」


「パネェ?羽?」


「止めて!そこは突っ込まなくていいから!!恥ずかしいでしょ!!」



そうこうしている間に寝間着に着替えていく。お兄さまは、はちみつ入りの紅茶を淹れてくれた。



「さぁ、出来たぞ」


「ありがとう、お兄さま。わー、いい匂い」



はちみつの良い香りに包まれると、疲れもふっ飛んでいくようだ。匂いを存分に堪能したあと、ゆっくりと紅茶を味わう。



「くー、効く!仕事終わりはこの一杯に限るね!」


「酔っぱらいのおっさんみたいだな」


「だって、凄く疲れたからさー」


「それはお前が調子に乗って、ちーと?を使いまくってるからだろう?」


「ぐうっ」



そう。公爵家にいた頃は気づかなかった能力。それに気づいて無計画に使いまくって、齢8歳にして無事筋肉痛となったわけだ。



「いや、お兄さまもなってみればわかるよ!なんでもすいすい持ち上げて運ぶのってすっごく気持ち良いから!」


「それで調子に乗って握りしめて、せっかく運んだバケツを壊して水をばら蒔くくらいなら、今のままでいいな」


「だ、だって!転びそうになったからちょっと、ほんのちょっとだけ、力入れただけだよ!?壊れるなんて思わないじゃん!!」


「バケツを雑巾みたいに捻り潰しておいて、ほんのちょっと?」


「いや、その、ほ、ほら!マイヤーさんも言ってたじゃん!何年も使ってたからボロくなってたのかも、って!」


「そんなわけあるか。いくらボロくなってたって、鉄製のバケツが雑巾みたいに捻れてたまるか。鉄だぞ?鉄」


「ぐぬぬ!」



私が手に入れたチート能力は、尋常じゃない『怪力』。普通に生活していた時はまったく問題なかったのだが、どうやら私が力を入れようとすると発動するらしい。

それが発覚したのは、お風呂のための水を汲みにいった時のこと。








初日に話しかけてきた先輩修道女が、バケツを私に渡してきて、



「はい、バケツ」


「ありがとうございます。先輩はどのバケツを使うんですか?」


「はぁ?なに言ってんのよ。私の分の水を汲んできてって言ってるの」


「え、でもマイヤーさんは自分の分は自分で、って」



先輩の言葉とマイヤーさんの言葉が一致せず、首を傾げると、先輩が嘲笑して



「それは新人の話でしょ?先輩は新人を使って水汲みさせていいのよ」


「そうなんですか。知らなかったです」


「わかったなら、はい、私の分行ってきて」


「あ、私のもついでにやってきて」


「私のも」



あれよあれよとバケツを押し付けられて、いつの間にか両手いっぱいにバケツを持っていた。



「じゃあ、お願いね。お風呂の時間は決められてるんだから、早く持って来なさいよ」


「はーい、いってきまーす!」



金属質で重そうな見た目の割に、バケツは羽のように軽かった。確か小学校のバケツも金属質な見た目なのに凄く軽かったっけ。あれと同じ原理かな?

中世風異世界なのに、そういうところは発展してるんだなぁ。



「ふふふ、やっぱりガキって馬鹿よね。普通考えたらおかしいってわかるのに、疑いもしないんだから」


「あんなにいっぺんに持って行ったって、持って帰れるはずないのにね」


「それを口実に苛めてやろうとしてるくせに何言ってんのよ」


「……………」


「ん?あんた、さっきから黙ってどうしたのよ」


「あ、あれ、鉄製よね?大人の私でさえ、空でも二つを持つのが精一杯よね?」


「そうよ、それがどうし………え?え??」


「なんで、あの子、大人でも持てない鉄のバケツを四ついっぺんに持って走って山を下りられるのよ」






数十分後。なんとか迷わず、川から帰ってこれたので、先輩たちの前にバケツを置く。



「汲んできましたー。さすがに水を持ったまま山登りすると疲れますねー」


「ひ、ひぃっ!」


「ん?」



お望み通り、水を汲んできたのに化け物でも見るような目でひきつったような悲鳴を上げられた。

え、酷くない?言う通りに頑張ったから誉めてもらえると思ったのにな。

先輩がなかなかバケツを持とうとしないので、さらに意味がわからない。もしかして、風呂場まで持っていけってこと?先輩の部屋なんてわからないのに無理だよ



「水を汲んできたんですから、持って行くのはさすがに自分でお願いします」



バケツをもう一度持ち上げて、先輩に差し出そうとする。しかし、山登りして疲れていたのか、足がもつれてこけた。



ギィィィィィ!!バシャッ!



甲高い金属音と水がまける音にバケツを見ると、なぜか、雑巾のように捻れて変形していた。



「へ?ええっ!!?」


「ひぃぃぃぃ!!!」


「修道院のバケツって、こんな風に収納出来るんですね、凄いなぁ」


「そんなバケツあるわけないでしょおおお!!!」



別の先輩が半泣きになりながら、叫ぶ。デスヨネー。な、何がいったいどうなったの!?え、これって私のせいなの?本当に?



「騒々しいですよ!何の騒ぎですか!!」


「あ、マイヤーさん」


「院長先生です!って、シスター!その持っているものはなんですか!?」


「バケツ……?いや、バケツ雑巾?」




先輩たちがあまりにも騒ぐので、騒ぎを聞きつけたマイヤーさん、じゃなかった院長先生がやってきた。そして私の持っているものを見て、顔を青ざめる。

なんですかって、聞かれてもなぁ。それは私が一番聞きたいんだけど。

何がどうしてこうなった??



「そんなことは聞いてません!!どうしてそうなったのか聞いているのです!!!」



おお、ヒステリック具合もマイヤーさんそっくりだ。この人、ほんと訴えられないのかな?大丈夫かな?



「そう言われても……転んだから?」


「はあああ!!?」


「うるさいし、寒い」



水を撒いたときに被ってしまったようで、身体が冷えてきて寒い。

早く、お風呂入りたいな。



「お嬢様!大丈夫ですか!」


「大丈夫じゃない。寒いからお風呂入りたい」


「すぐにお風呂に入りましょう。もう沸かしてありますから」



お兄さまがやってきて、タオルで身体を拭いてくれた。お兄さまにしては遅いなって思ってたら、お風呂沸かしてくれてたんだ。さすが万能マン。



「ありがとう」


「この程度、当然でございます。むしろ、修行だったからとはいえ、お助け出来ず申し訳ございませんでした」


「私が言い出したことだから、あなたが気に病むことはないよ?」


「それでも、申し訳ございませんでした」



お兄さまは相変わらず真面目だなぁ。普段は意地悪で天然たらしだけど、仕事になると完璧にこなしてくれるから助かるし、憧れる。



「お待ちなさい!貴女が手伝っては修行になりません!貴女もそれで納得していたはずですよ!」



院長先生はヒステリックにお兄さまに詰め寄る。えー、やっぱダメ?私、今すぐ、入りたいんだけど。

お兄さまは先輩たちを睨むと、底冷えのする声で告げる。



「お嬢様は彼女らの代わりに水を汲んできて、既に4回分の水を川で汲んでおられます。風呂の分として修行は済んでいるかと」


「Miss.ナターシャ!どういうことですか!説明なさい!!」



院長先生の怒りの矛先が先輩たちに向いたかと思うと、お兄さまがお姫様抱っこして風呂場まで連れていく。いや、なんで!?それはおかしい!!



「お兄さま!降ろして!水に濡れただけだから、自分で歩けるし!!」



人気のなくなる場所まで来ると、降りたくてじたばたと暴れるが、びくともしない。バケツは雑巾になったのに!



「見たところ、腕力だけが異常に強いだけだからな。無力化する方法なら山ほどある」


「心読むの禁止!ってそうじゃなくて!おーろーしーてー!恥ずかしいでしょ!!」


「断る。風呂入るまでに風邪引いたら困るだろ。だから抱っこして少しでも体温が下がらないようにしてるんだよ」


「え?そうなの?」


「異世界では違ったのか?」



真っ直ぐ見つめられ、自分が間違っているような気がしてきた。

そういえば、よく、雪山で男女が裸で抱き合うシーンがあるよな。つまり、そういうことなのかな?なら、別におかしくないのかも。



「そういえば、そうだった気がする。じゃあ、お風呂に着くまでお願いします」


「なんでもかんでも信じすぎじゃないか?そこも可愛いんだが、心配だな」


「ん?お兄さま、何て言ったの?」


「いいや、何も?」



それで翌日、院長先生に呼び出されて、何年も使っていてボロボロだったバケツとはいえ、壊すなんて修行が足りない、とめちゃくちゃ怒られてしまったのだった。









「いやぁ、びっくりしたよね。私にもチート能力あるかなぁって思ってたけど、まさか『怪力』とは」


「お前、スプーンとフォーク以上の重いもの持ったことなかったしな。それで発見が遅れたのかもな」



あの時のことを思い出して、苦笑いしてしまう。なのに、お兄さまはにやにやと楽しそうに笑う。くそっ、他人事だと思ってぇ。

『怪力』は便利だけど、せっかくなら可愛いチート能力が良かった!妖精に好かれてモフモフ出来るとか!最強魔法が使えるとか!なんでそんな男っぽいチートなんだよ!!神さまひどい!!



「無神論者がなに言ってんだ」


「まだ言ってない!それに無神論者が神に祈っちゃダメなんて誰が決めたのさ!」


「いや、そりゃダメだろ。そういうところだと思うぞ。反省しろ」


「ぐぬぬ!」





結局、世の中顔なのか?可愛いチートは美少女にしか使えないのか?世界は不平等で出来てる!!

















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