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ヒロインにしか見えない悪役令嬢?物語  作者: 松菱
一章 公爵家編
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隠し攻略キャラ『死神』








ここはとある教会。ウェディング姿の女性とタキシード姿の男性が赤い絨毯の上を歩いている。

なんてつい、他人事のように考えてしまう。俺が、結婚する、なんて。どうしても現実味がない。



「幸せになりましょうね、キル」


「あ、ああ」



◯◯◯が、俺の手を取って幸せそうに微笑む。この笑顔がとても愛おしく思う。彼女を守るためなら、俺はどんなことでも出来るだろう。

だが、それと同時に、



何故、自分なのだろうか。本当に自分で良いのだろうか。



という陰鬱な気持ちがせりあがってくる。




俺はミッドガルド帝国の王子の双子の片割れだった。当時のミッドガルドでは双子は縁起が悪いと言われ、片方を処分する決まりだった。

しかし、シアルフィ公爵がただ処分するより、影武者として利用する方が良いとして、俺を諜報部隊に入れた。だからか、物心ついた頃には人を騙すための術と人の殺しかたを完璧に習得していた。



俺と同じ年頃の奴らは、任務失敗したり、逃げ出したりして殺されてもう一人もいない。

子どもの頃は次は自分が殺されるんじゃないかって、毎日怯えて暮らしていた。

成長していくにすれ、仕事の腕が上達していき、いつの間にか『死神』なんて仰々しい二つ名が出来、怯えることがなくなった。

心に余裕が出来ると、自分の正体が知りたくなった。公爵様は良い顔をしなかったが、止めることはしない。いや、出来ないの間違いかもしれない。



公爵様に怯えて暮らしていた少年は、『死神』となって公爵様の手に余る怪物となって脅かす存在となっていたから。



そして、知った。自分が王子の双子の片割れだったことを。



王子よりも後に産まれただけで、こんなに違うのか。自分はいつ死んでもおかしくないほどの危険な環境で、泥水を啜りながら必死に生きてきたというのに、先に産まれただけで、皆から必要とされ、なんの苦労もなく、王になるというのか。



許せなかった。兄も、両親も、公爵も、この国も。八つ当たりと解っていても、全てが憎かった。



だから、公爵の目を盗んで、魔族と接触した。俺の正体と目的を話すと、奴らは納得して俺を迎え入れた。



利用されていることは理解していた。それでも良かった。俺だってあいつらを利用しているんだから。



俺はあいつを、ベータ王子を引きずり下ろして俺と同じ思いを味合わせたい。そのためなら、世界の全てを敵に回してもいい。そのあと、死んだっていい。



でも、◯◯◯が俺を見つけて、何度も説得してくれた。馬鹿な俺は最初は説得を聞き入れず、ひたすら復讐のために魔族を手引きし、公爵を手にかけ、ミッドガルド帝国が滅ぶように工作していた。

それでも俺を見限らず、ベータと共に何度も説得してくれる内に、段々二人に心を許していった。



そして、父である皇帝がお前を捨てたのは間違いだった、と謝ってもらったことで、俺の中の憎悪は完全に消えてなくなった。



ああ、俺は誰かに認められたかった。必要だと言って欲しかったんだ、と。



そう、気づいた。気づいた頃には重犯罪者で、処刑は免れないと思っていた。が、



「簡単に死ぬなんて許さない。貴方がベータの弟だというなら、王族として責任を取りなさい」



聖女である◯◯◯の言葉により、俺は生かされた。彼女と共に疲弊したミッドガルド帝国の各地を巡り、復興に尽力した。

その中で、俺と彼女に恋心が芽生え、彼女の押しに負けてこうして結婚することとなった。

俺は最初、自分の経歴が彼女の汚点になることを心配した。



「君の気持ちは嬉しいが、俺は今まで何人もの人間を騙して、殺してきた。だからとてもじゃないが、君に釣り合わない。他の人にするべきだ」


「私はあなたがいいの。罪なら私も一緒に背負っていくわ。私も罪人としてあなたと一緒に生きていく覚悟がある」


「聖女の君がそんな汚点を背負うべきじゃないよ。君は何も関係ないのに」


「関係なくなんてない。貴方の罪なら私はいくらでも背負いたい、愛しているの、キル」



キル、とは彼女が名付けてくれた俺の名前だ。彼女は俺を『死神』から人にしてくれた恩人なのに、これ以上迷惑かけたくない。

けれど、彼女の申し出に救われたのも確かで、彼女に好意を抱いている俺は結局彼女に押しきられてしまった。



「俺はこんなに幸せでいいのかな。だって、俺は公爵を殺して、アリーシャを騙して君を襲わせて、どうしようもないほどの悪人なのに」


「貴方は可哀想な境遇だったから仕方ないわ。だからこれから二人でその罪を償っていきましょう。貴方は可哀想なんだからきっと女神様だって許してくださるわ」



俺はそんなに可哀想なのか?俺が一人背負うべき罪を何も悪くない彼女に背負わせてる負い目を感じて生きていくのか?



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



いや、何を考えているんだ。どんなに悔やんでも、したことはなくならない。そんな馬鹿なことを考えるなんて俺はまだ犯した罪の重さがわかっていないのかもしれない。



「ありがとう、女神様に許してもらえるようにこの国に尽くすよ」



彼女とこの国のために出来る限りのことをしよう。俺が顔も知らぬ誰かに許されるその日まで。










キル、またの名を『死神』


『世界を越えても君といたい』の隠し攻略キャラ。

攻略対象のベータ王子の双子の弟。しかし、双子のため、捨てられて公爵の諜報部隊で育てられる。そこで才能を発揮し、『死神』の異名を得る。

その後、自らの出自を知り、公爵を裏切り魔族に寝返る。正規ルートだと説得空しく、他の魔王子に殺される。『死神』ルートでは、説得が功を奏し、助かって攻略対象になる。

しかし、グラフィックはベータ王子の焼き増しの上に、うじうじとネガティブな性格のため、キャラ人気は低い。










主人公が乙女ゲームを知らない設定のため、話が一区切りついたら、乙女ゲームとしてのキャラ紹介をしていきたいと思ってます。

まずはお兄ちゃんの正体からで。

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