9話 成長した幼なじみ
「アシュー、あんたもしかしてアシューじゃないの?」
屋敷を出た所で懐かしい声に名前を呼ばれ、つい反応して振り返る。そこには成長したフレイヤがいた。一目ですぐにわかった。
「………」
俺はつい息をのんでしまう。前に見た時は綺麗ではあったがまだ手足のひょろ長く男の子と言っても通用するような体型だったのが、胸は張り裂けんばかりに大きくなってお尻も少し肉がついている。それに相変わらず目は大きく、赤い唇に整った眉に長い睫毛。何もしてないと思われるのだが、まるで化粧をしたかのような美の化身がそこにいた。本当にフレイヤなのか?
「あんた、なんとかいいなさいよ!」
「なんとか」
「そんなベタなボケいらんわよ。こんなくだらない事言うってことは本当にアシューなのね。あんた今までどこに行ってたのよ、馬鹿っ!」
フレイヤはぽかぽか俺を叩いてくる。地味に痛い。
『なんですか、この無礼な牛乳娘は、アシュー様の玉体に触れるなど不届き千万、万死に値します。出ます!』
俺の頭に怒り混じりの念話が聞こえる。
地面に光る魔法陣が浮かび上がりその中に魔族の女性が現れる。コウモリのような羽にねじくれた羊のような角、豊満な体を最小限のビキニアーマーで包んだまだ少しあどけない顔の美女【1の指】魔道指のルシアンだ。
「主に仇なす不敬な輩よ塵芥にしてくれる。水色の吐息」
ルシアンはフレイヤの横に立ち息を吸う。いかんルシアンは本気だ。ルシアンは魔法の他に特殊能力7色の吐息を持つ。息に包まれた者にいろんな効果を引き起こすもので特に水色は今はやばい。
俺は咄嗟にフレイヤの前に立ちはだかる。俺は水色の吐息に包まれて、それが消えたときには身に纏っていたものは全て消えていた。
「ルシアン、こいつは俺の幼なじみだ。危害を加える事はゆるさん!」
俺は裸で腰に手をあててルシアンを睨む。
「すみませんでした。つい熱くなりまして。でもこんな所でお身体を晒すなんて、やっと私の愛を受け入れて頂けるのですね。ですが初めての場所がこんな所とはさすが茸王様です。村娘や市井のものたちにその神々しさを見せつけてやるのですね。とても恥ずかしいですが、不肖ルシアンお供致します!」
なんかいきなり脱ぎ始めようとするルシアンを必死で止める。そして角を掴んで強制的に魔法陣に押し込めて、召喚した巨大な茸で蓋をする。
フレイヤは何が起こっているのかわからないのか若干口を開けて俺達を見ている。
最後に俺は異次元収納から新しい服を出して着てマントを羽織り翻す。
「待たせたな、それでなんだったかな」
俺は鷹揚と口を開く。
すぱーん!
「『なんだったかな』じゃないわよ!」
フレイヤの平手打ちが俺の右頬に炸裂する。
『アシュー様!』
頭にルシアンの声が響く。
『騒ぐな。問題ない』
また飛び出して来かねないので制しておく。
「なんだフレイヤ、それが久々に会う幼なじみへの仕打ちか?」
「あんたこそ、いきなりいなくなったと思ったら突然帰ってきてエッチな魔族を呼び出して裸になって茸出して、相撲はじめて、でっかい茸出して、もうなにがなんだかわかんないわよ!」
フレイヤはその場に座ると声を上げて泣き出した。置いて行くわけにも行かず、俺はどうすればいいのかもわからず、しばらく泣き続けるフレイヤを見続けた。