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 第二部 魔国統一編 酒場


「変なのが来たわねー。別に答える義理はないけど、そうねー、まあ、答えてもいいわねー。天気がいいからー。沈めてるのよー。船を」


 貝殻ブラの少女が口を開く。決して大きな声じゃないのによく聞こえる。天気と船を沈める事になんの関係があるんだ? それにしても間延びた声だ。聞いてるだけで眠くなる。


「これは、ダイレクトボイス。声に魔力を乗っける事で、遠くまで届くようにしてるわ」


 さすがルシアン巨乳魔法オタク。そんな事よりも、コイツが何をしてるかの方が重要だろ。


「フゴフゴフゴッ?」(何でそんな事を?)


 少女に話しかけるが、いかん、水中呼吸茸を口に咥えているから上手く喋れない。


「任せて、アシューの考えてる事ならほぼ全て分かるわ。眷族だから」


 そうか、眷族にはそんな能力もあるのか。便利だな。


「『なんでそんな事するんだ?』ってアシューが言ってるわ」


 ルシアンが少女に問いかける。マジでルシアン、僕の心が読めるのか!


「んー、アシューさんってその口にディルドを入れた変態さんの事かなー? そんなガチ変態クソヤローと会話する事は無いわー」


 ディルドって、確か香草の事か? そうか魔界ではキノコの事をディルドって言うのか勉強になった。けど、なんで僕が罵倒されにゃいかんのだ?


「フゴ! フゴゴフゴフゴッ!」(おい! 誰が変態だっ!)


「アシューは、『余計なお世話だその貝殻ひん剥くぞっ!』って言ってるわ。まあ、アシューの事は置いといて、なんで船を沈めようとしてるか教えて貰えないかなー?」


 ルシアン、そこまで過激な事は言ってないぞ。


「そうねー。ま、いーかしらー。目的はねー。その船には影渡りの魔王を倒した奴が乗ってるって聞いたからだよー。魔王が増えたらめんどーだから、ここでスパッと海の藻屑にしてやるのよー」


 なんとコイツの目的は僕なのか!


「フゴ、フゴフフゴゴッ」(待て、話をしよう)


「アシューは、『魔王を倒したのは俺だ!』って言ってるわ」


 もしかして、ルシアンって適当な事言ってるだけなのでは? 海で戦った事なんか無いからここは平和的にいって欲しい。


「えー、うそー! その変な人が影渡りを倒したの? じゃーぶっ殺してもいい?」


「フゴフゴ、フゴフゴフゴッ!」(ルシアン、挑発するな!)


「アシューは、『俺のこの極悪なキノコでギッタンギッタンにしてやる』って言ってるわ」


 間違いない。偶然のお陰で騙されたが、コイツは適当な事言ってるだけだ。


 片手をルシアンから離して水中呼吸茸を口から離す。


「ルシアン、このキノコは戦闘用じゃない。何、相手を威嚇してんだ?」


「ええーっ、そうなの? 早く言ってよ。手、離しちゃったわ」


 おい、『手、離しちゃったわ』じゃねーだろ。今離しただろ。僕は即座に水中呼吸茸を口に入れる。そして海に落下する。良かった、準備してて。ちゃんと呼吸出来る。ズボンが張り付いて泳ぎにくいが、まあ、なんとかなりそうだ。そして、海を流されながら水面を目指し顔を出す。


「中々の戦闘力はあるみたいねー。海の中じゃなければ、私が負けてたかもー」


 流れをかき分けて、貝殻ブラがこっちに来る。どうするか?


「魔法は使えないのねー。しかも人間なのね。人間って水中呼吸できないのよねー。じゃ、『沈下(シンク)』」


 急に浮いてた体が沈む。水をかいてなんとか沈まないようにするが、徐々に水面上から離れていく。下から貝殻ブラの体が見えるが、足が普通有るべき所からは無数のタコの足みたいなのが生えている。スキュラ。その魔物の名が頭に浮かぶ。


「あなたの浮力を呪いで奪ったわー。息が尽きるまで頑張ってねー。まー無駄だと思うけど。じゃ終わったし、かーえろ」


 水の流れが緩やかになっていく。船は大丈夫だろうか? 良かった。水中呼吸茸を口にしてて。僕は諦めて真っ暗な海の底に落ちて行く。

 そして、光茸を手に海底を歩く事一日、やっと陸地についた。


 そして、見知らぬ土地でただ1人、水に沈む呪いを受けた僕は再び歩きだすのだった。



 ◇◇◇◇◇



「へぇー、それで、せっかく仲間になったルシアンとロザリンドとも離れ離れになった訳なの?」


 フレイヤが俺に尋ねる。


 語りを止めた俺は喉を潤している。俺の語りは好評で、多くの人が耳を傾けてくれた。いつの間にかフレイヤが置いてた小箱の中は小銭で溢れている。楽しんでくれた者の投げ銭だ。


「そうだ。そして、しばらく経って合流した」


「船はどうなったの?」


 フレイヤがルシアンに尋ねる。


「そうですわね。船は無事でしたわよ。私とロザリーはアシュー様が残して下さったお金でリッチな船旅を楽しませていただいたわ」


 そうだよ、お金は船に忘れてたんだよな。


「それで、それからどうなったの」


 フレイヤがキラキラした目で俺を見ている。コイツ昔から英雄譚は好物だからな。


「ま、悲惨の極地だったな。けど、今はいい思い出だ。今日はもう遅い。寝るぞ」


「兄ちゃん、面白かったぜ、また明日頼むわ」


 厳ついオッサンが親指を立てている。


「そうだな、気が向いたらな。みんな好きな飲み物を一杯づつ頼め。これから出す」


 俺は投げ銭の入った小箱を指差す。


「えええーっ!」


 フレイヤはケチだな。


「じゃ、茸王様にかんぱーい!」


 ルシアンが音頭をとり、僕らはジョッキをぶつけ合う。そして、酒場の夜は更けていく。



 ノベルピアさんとの契約が無くなりましたので、投稿しました。ここで、キノコ使いは一旦終わります。もし、人気出たら、また書き足すかもしれないです。今まで、ありがとうございました。


 読んでいただきありがとうございます。


 みやびからのお願いです。「面白かった」「続きが気になる」などと思っていただけたら、広告の下の☆☆☆☆☆の評価や、ブックマークの登録をお願いします。


 とっても執筆の励みになりますので、よろしくお願いします。

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