ひな祭りSS
「ねぇ、アシュー。今日は何の日だか知ってる?」
フレイヤが酒をかっくらいながら俺にからんでくる。
「今日は3月3日、耳の日か?」
「確かに耳の日ではあるけど、なんて言うか他にもあるじゃない?」
「知らねーな」
「え、もしかしてボケてるの? 今日はひな祭りよ、ひな祭り!」
あ、そうだ、ひな祭りか。けど、家は男3兄弟だから、そんなん知らんわ。母さんは早くに亡くなったし、家では誰もそんなイベントをいじったりしてない。
「ところでひな祭りって何するんだ?」
「んー、雛人形を飾って、女の子の健やかな成長を祈るものよ」
んー、何か分かったような分からないような。
ここは街の酒場兼食事処。今は危険は無いはずだ。こんな時には賢者茸に限る。奴と話している時には意識を失ってしまうのが玉に瑕だけど、アイツは大概の事を知っている。集中して心を賢者茸とリンクする。
「よっ、アシュー。どうしたのかしら?」
白っぽい空間に頭に茸を生やしたやたらプロポーションがいい女、賢者茸が口を開く。僕と奴は玉座っぽいものに座っている。いつも通りだ。
「ひな祭りについて、手早く教えてくれ」
「いいわよ」
しばらく後、僕は完璧なひな祭りマスターになった。
「どうしたの?」
目を開くと、フレイヤが僕の肩を揺すっている。
「気にするな。少し気を失っただけだ」
「今、アシューやばかったわよ」
「はい、すっごい顔をされてました。白目剥いて口空いてましたよ」
ん、いつの間にかルシアンも来ている。コイツも暇なんだろうな。最近平和だもんな。
「そうか、あんまり気にするな。俺は深い考え事したら、そうなるだけだ。以後気を付ける」
王たるものが、醜態をさらすべきでは無いからな。そして、しばらく俺たちはチビチビ酒など飲みながら語りつづけた。
「ちょっと御手洗行ってくるわね」
フレイヤが席を立つ。
「あっ、私も」
ルシアンもだ。なんで女って一緒にトイレに行きたがるんだろうか? まあ、それはいい。今がチャンスだ。僕は賢者茸に教えて貰ったひな祭りセットを召喚する。
「えっ、何これ! 雛人形? すっごーい、カラフル!」
フッ、フレイヤは驚いてるな。
「ハッピー、ひな祭り!」
パーン!
僕はクラッカー茸を鳴らす。祭りと言えばこれだろう。
「どうだ! 俺の雛人形!」
フレイヤとルシアンは俺の雛人形スーパー五段仕立てをじっくりと眺める。
「うわ、全員頭がキノコになってる」
フレイヤは何かがお気に召さないようだな。
「そりゃそうだろ。キノコたもんな。俺はキノコ使いだ」
「なんて言うか、雑貨屋さんの裏の暖簾の中にある、大人のオモチャコーナーみたい」
え、ルシアンはあの暖簾をくぐった事があるのか? 意外に勇者だな。けど、大人のオモチャって何だ?
「当然、食う事も出来る美味いぞ」
僕は取り敢えず五人囃子と言うヤツの1人を食べてやる。
「「雛人形を食うな!!」」
フレイヤとルシアンが叫ぶ。
僕たちは、なんやかんやで楽しいひな祭りをすごした。




