第二部 魔国統一編 海
「これが海か……」
僕はついその圧倒的な広さに気圧されてしまう。打ち寄せる波、見渡す限りの大海原。とっても雄大で綺麗だ。僕は初めて見る海に形容する言葉を失ってしまう。僕が住んでた伯爵領には海は無く、その伯爵領が属する王国のずっと南の領地は海に面していたけど、当然一度も足を運んだ事は無い。僕は幼い頃から剣術と勉学に明け暮れていたからな。
「もしかして、お前様、海は初めてかしら? 少し舐めてみたらいいかしら。なんと、本当に塩っぱいのかしら」
キラキラした目で僕を見るロザリー。敵対してたのが嘘のような変わり様だが、僕は薄々気付いて来た。コイツは何も考えて無く、その場の感情で生きてる事を。僕の幼なじみのフレイヤと一緒だ。フレイヤ、何をしてるんだろうか? アイツも海を見た事無いはずだから、いつかここに連れて来れたらいいのにな。
「けど、やっぱお前スゲーわ。さすが十大魔王って自称してるだけあるな」
「そうよ。すっごいわ。ここって馬車だったらヘブンズドアから3日はかかるわ」
今は、ロザリーと仲が良くないルシアンでさえも大絶賛だ。
なんと、ヘブンズドアの街からここまでかかった時間は一瞬。ロザリーの影に入ったと思ったら海の前だった。という事はロザリーがいたら、いつでもヘブンズドアに帰れるし、荷物とかも置いとけるな。
城の会議室で一通り話した後、やっと返して貰った狼の皮を売って、一通りの装備を揃える事が出来た。とは言っても僕にはキノコがあるから、服と調理道具と調味料と毛布くらいしか買ってないが。当然やっとパンツを穿けたけど、なんか逆に変な感じだ。あと残ったお金は金貨5枚だけど、ここでの貨幣価値が分からない。それはおいおい聞いていこう。
「もっと、もっとロザリーを讃えるのかしら」
海の前でロザリーが薄い胸を張る。なんか不覚にも少し可愛いと思ってしまった。
「本当に凄い凄い。けど、なんでここまで来れて、魔大陸には行け無いんだ?」
ふと、疑問を口にする。魔大陸まで一瞬だったら、もっと便利なのに。
「しょうがないじゃない。魔大陸の入り口の街、オーパスの街には魔法無効の結界が張ってあって、そこで戦いになって影渡りを使えなかったからかしら。ロザリーの影渡りは魔法に近いものだから。あと、口外はしないで欲しいけど、すぐに分かると思うから言っとくわ。ロザリーの影渡りは水の上では使えないわ。だから船の上では期待しないでね」
「そっかヴァンパイアが流れる水が苦手って話の中だけじゃ無かったのか」
「そうよ、流れる水の上では、かなり弱くなってしまうわ。海の上では可憐な少女でしかないから、しっかり護って下さいね」
ロザリーは僕の腕にしがみついてくる。ほぼコイツ胸無いから、あんまり嬉しくは無いな。親戚の女の子を相手にしてるみたいだ。
「それでもほぼ不死身なんだろ。何されても死なないなら護る必要ないじゃないか」
ルシアンは僕たちをジト目で見てる。そんなのじゃないって。僕には恋愛感情は皆無だ。
「ところでロザリー、お前、前はどうやって海を渡ったの?」
ルシアンが尋ねる。いつの間にかルシアンはロザリーと呼んでるが、ロザリーは文句を言わないって事は問題ないんだろう。仲良くなったものだ。
ロザリーがどうやって海を渡ったのかは、ぼくも疑問に思ってた。海の上で弱体化するなら船に乗るのも一苦労なんじゃないか?
「そんなの簡単かしら。木箱の中に潜り込んだのよ。ロザリーは軽いから誰も気付かなかったかしら。あっちに着くまでは」
「なんとベタな。けど、どれくらい船に乗ってたんだ?」
「多分、1週間くらいじゃないかしら? ロザリーはそれくらい飲み食いしなくても大丈夫かしら」
吸血鬼、便利だな。
「そっか、魔大陸まで1週間もかかるのか。俺、船初めてだけど大丈夫だろうか?」
「安心して、私も初めてよ」
ルシアンはニカッと笑う。何を安心すればいいんだろう。船旅初めての2人に、乗った事はあるけど、荷物になってた者1名。不安しか無いな。
「それに、船、どうするんだ?」
「何言ってるのよ。アシュー。あたしはこう見えてもこの国の最高責任者よ。船の1つや2つくらいはどうにかなるわ」
ルシアンは元々は男の洋ナシ喋り方だったけど、少しづつ女の子っぽい言葉使いも混じってきている。多分これが地なんだろう。少しづつ僕とロザリーにも気を許してきたんだろう。
「で、港はどこにあるんだ?」
海をは初めてだけど、船は港につくって事くらいは知ってる。
「お前様、あっちかしら、目立たないように影渡りの拠点は少し港町からは離したのよ」
ゴスロリ服で目立たないようには無いと思うが、ロザリーの機嫌を害さないようにツッコまんとく。
そして、ロザリーについてしばらく歩いたら高い防壁に囲まれた街についた。ここでもルシアンは顔パスだ。そして、街の中央の大きな建物に向かい、そこの応接室でルシアンはこの街の領主に魔大陸に向かいたい旨を伝える。船はすぐに用意出来るそうだ。
不安もあるけど、初めての船旅楽しみだ。




