第二部 魔国統一編 雪
「アシュー様。不憫なお方。まさかそんな目にあわれてたなんて」
ロザリンドは目元を拭う。こんな僕のために涙してくれるとは。けど、昨日はあんなに激しく戦ったのに、心境の変化が激しすぎだろ。二重人格か?
「不肖ロザリンド。これからは、貴方様の眷族として力を尽くさせて貰いますわ。あと、わたくしの事はロザリーと呼んで下さい」
「ああ、こちらこそよろしくロザリー」
なんか少し不信感は残るが、まあ隷属ってヤツをしてるから寝首をかかれたりはしないだろう。
「それにしても、シャドウウルフのねぐらからそんな所に繋がっているなんて。面白そうねぜひ行ってみましょう」
「そうだな。行ってみるか。けど、その前に色々生活に必要なものを手に入れたいな」
さすがにパンツ欲しい。
「わかりましたわ。けど、その前に望まぬ客がこちらに向かってるみたいですわ」
ロザリンド、改めロザリーが空を指差す。そこには黒い点があると思ったらみるみる大きくなる。小さなコウモリみたいな翼がついた人。大きな角、あ、あれはルシアンだ! けど、あいつも僕に敗れて隷属してるはず。戦いにはならないだろう。
ブワッサ、ブワッサ。
どう見てもその体を浮き上がらせるのには小さい翼をはためかせ、ルシアンが僕らの前に降り立つ。相変わらず露出激しいビキニアーマーだ。おへそ出してて腹下したりしないのか? 組んだ腕、真一文字に結ばれた口。どう見ても不機嫌だ。そして地上に下り立つなり口を開く。
「キノコ男、コウモリ女、不本意ながら我が街、ヘブンズドアに来い」
「なんだ、薮から棒に?」
「私は、不本意ながらお前に敗れて隷属している。だから非常に非常に非常に非常に、不本意ながら、キノコ男、お前は我が国の王だ……」
いつの間にか僕はアルカディアの王様になったらしい。そんな不本意ならならんわ。けど、正直どうでもいいが。
急に辺りが冷え込んでくる。そして、空を雲が覆い、ヒラヒラと雪が舞い降りてくる。
「うおっ。寒い。なんだいきなり。春だと思ってたのに、まだ雪が降るのか?」
「始まったかしら」
僕に答えたのはロザリー。何が始まったのか?
「お前様にはまだ言って無かったかしら。ロザリーがなんでこんなに急いでアルカディアを攻めたのかを」
「聞いてねーよ」
「ロザリーの国は氷漬けにされたのよ。あいつに依って」
「え、何? 今、春でしょ? なんで雪が?」
ルシアンはキョドってる。
「乳牛、お前も名前くらい聞いた事があるかしら? スノークィーン。十大魔王の内の一人かしら」
「えっ? スノークィーン? スノークィーンは、アビス公国とやり合ってるんでしょ?」
「やり合ってる? もうそれは終わったのかしら。アビス公国はもう総て雪の下よ。ロザリーは戻る所が無いからここに来たのかしら」
「え、嘘でしょ? あんなに広い公国が雪の下?」
ルシアンが驚いている。
「お前達だけで盛り上がるな。俺にも説明しろ」
「お前様、その時間はもう無いかしら。ロザリーはスノークィーンにマーキングされてるから、あいつには常に狙われてるのかしら。逃げる準備をするのかしら」
ハラハラと降ってきていた雪は激しさを増し、風も吹き荒れ、吹雪の様相を呈してきた。むっちゃ寒いよ。なんてったって僕が纏っているのは鎧茸だけだからな。しかも下は裸。チムチム丸出し寒いンゴ。なんか頭が馬鹿になりつつある。
そして、一際激しく吹雪くと、雪が集まって固まっていく。
「あらあら、臆病者の吸血公女様、まだこんな所にいたのかしら?」
雪が人形を成し、そこから声がする。玲瓏珠の如し。涼しげ、いや寒すぎる声だ。
ヤバい。これはヤバすぎる。魔力というものが少し分かり始めた僕は感じる。規格外だ。例えれば大河。そして僕たちはその河に浮かぶ一欠の落ち葉に過ぎない。
「出たわね。陰険冷血の雪国の女王。お前が強いのじゃないかしら。相性、ロザリーとお前は相性が悪すぎるだけかしら」
ロザリーは僕らの前に出て言い放つ。おいおい、相性以前の問題だろ。自力が違い過ぎる。
「相性。そうかもしれないわね。けど、それでもお前が妾より弱いって事には変わりないわ。コウモリ娘。ここで凍り付きなさい。とこしえに」
スノークィーンはおおきく仰け反り息を吸う。いやなら予感がする。変幻茸を召喚し足からその菌糸を伸ばしスノークィーンに向かって進めるが、途中で凍り付く。コイツ僕とも相性最悪だな。
スノークィーンは口からこちらに向かって息を吐く。僕は咄嗟に目の前に鎧茸の障壁を作るが一種にして凍り付く。やべ、逃げられない。
「バーカ、バーカ。ロザリーがお前と正面から戦う訳無いじゃ無いの。じゃ、まつわたねー」
ロザリーは僕の手を引くと、僕の影の中に潜り込む。
「えっ?」
呆けてるルシアンの手を僕は引っ掴む。そして、ロザリー、僕、ルシアンの順で影の中に潜り込む。
「間一髪だったかしら。あと少しでロザリー達も氷漬けになるとこだったかしら。それで何でお前様ルシアンを連れて来てるんですか?」
影の中に入ったと思ったら、違う荒野に僕たちはいた。近くに城壁が見える。と言う事はヘブンズドアのそばか?
「そりゃ、俺の眷族だからだ。仲間は少しでも多い方がいい。そうだろ?」
「えっ? え?」
ルシアンがキョロキョロしてる。訳わかんねーんだろな。
「それもそうかしら。ルシアン。ロザリー達を街の中に案内するのかしら」
「は、はいー?」
そして、ルシアンを先頭にヘブンズドアの街へとへと向かう。




