第二部 魔国統一編 肉キノコ
「お前も食うか?」
僕はロザリンドに食用茸を差し出す。
「ありがとう。いただくわ」
ロザリンドは小さな手で食用茸を受け取ると慣れた手つきでどこからか七輪を出して火をつけ網を乗せて、折りたたみ式のアウトドアチェアとテーブルを出して座り、キノコを縦に裂きながら塩を振ってトングで焼き始める。いつの間にかテーブルには皿とナイフとフォークも準備してある。コイツ異様に生活能力高くないか?
「それ、どこから出したんだ?」
「ん、異次元収納よ」
「火、どうやったんだ?」
「生活魔法よ。お前様、キノコが焼けたかしら。どうぞ」
ロザリンドは綺麗に網形の焼き目がついたキノコを皿に乗っけて僕に渡す。
「お前様も座るのかしら」
ロザリンドはアウトドアチェアをもう一つ出してテーブルの前に置いて僕に勧める。
「あ、ありがとう。いただきます」
「ロザリーもいただきます」
僕はフォークでキノコを刺して口に運ぶ。
「美味いな、これ。塩加減絶妙だな」
「ありがとう。まだキノコ無いのかしら」
「何本欲しいか?」
「とりあえず2・3本あればいいかしら」
僕は3本食用茸を出して、ロザリンドが裂いて焼いていく。
「お前、器用だな」
「当然かしら。ロザリーは何でも出来るのよ」
なんか変な気分だ。昨日目いっぱい命の遣り取りをした相手とのんびりとキノコバーベキューを楽しんでいる。けど、確かにキノコは美味いが、バーベキューと言えば肉。僕は目を閉じキノコの世界と心を同調させる。あった! たんぱく質たっぷりの肉キノコ! 僕はカッと目を見開く。
「ロザリンド! 次は肉キノコ食べないか?」
一応聞いてみる。ごくまれに肉は苦手って言う女の子もいるからな。賢者茸には女の子の扱い方で怒られたからな。配慮は必要だ。
「お前様、あ、あのね。わたくし達、出会ってまだあまり経ってないし、いきなりそれはまだ早いと思うのかしら。やっぱり、段階を踏んで、まずは手を繋いで色んな所をデートしたり、一緒に美味しいもの食べたり、楽しい事したりして、それでお互いの事をしっかり分かり合った方がいいと思うのかしら。それに、ロザリーはもう成長しないから、ずっとこのままかしら。それがいいって人もいるらしいけど、お前様はどうなのかしら?」
ロザリンドはどうしだんだ? なんかピンクに頬を染めながら、しどろもどろ止めどなく話し始めた。しかも途中から胸の前で両手の人差し指を伸ばしてツンツンし始めた。なんか少し可愛いな。
僕は召喚した肉キノコをロザリンドに差し出す。
「ナニコレ?」
ロザリンドがカタコトだ。そんなにびっくりか?
「肉キノコ」
「肉キノコっ?」
次は声が裏返っている。どうしたんだ?
「そうだ。肉キノコだ」
「これキノコ。肉じゃ無い」
大丈夫か? なんか知性を感じない会話してるな、僕たち。
「そうだ。キノコだ。たんぱく質たっぷりのキノコだ。多分肉の味もするはずだ。もしかして肉は嫌いか?」
「そんな事無い。キノコも肉も大好き」
ロザリンドは目を逸らす。やっぱり女の子だからいっぱい食べたりするのが恥ずかしいんだろうな。
このキノコも生で食える。まずは生で食べて、その後焼きも食べるとしよう。僕は肉キノコを裂いて口に入れる。あ、美味いわこれ。血の臭いがしないローストビーフみたいだ。強いていえば、塩がすこし欲しいな。
「お前も生の肉キノコ食うか?」
ロザリンドがビクンと震える。
「な、生の肉キノコ食う」
変な奴だな。キノコを裂いて渡してやる。
「わ、生肉キノコ、オイシー。サイコー!」
ロザリンドは謎テンションだが喜んでるようで良かった。
そして、僕たちは次は肉キノコをやいて食べた。焼き加減はレア、ミディアム、ウェルダンを試したがどれも美味しかった。ロザリンド有能だ。
「「ごちそう様でした」」
僕らは手を合わせる。まだあどけないけど、可愛い女の子と食べると飯も美味くなるな。肉キノコを焼いてる途中にロザリンドは小さいケトルを火にかけてて、それで紅茶をいれてくれる。おお、多分これはいい紅茶だ。辺り一面に芳醇な香りが溢れる。伯爵領では逆立ちしても手に入らないレベルのやつだ。それにロザリンドに勧められて粉ミルクと角砂糖をいれて飲む。ヤバいまじ最高。
「美味しいキノコをありがとうございます」
ロザリンドは深々と頭を下げる。
「こちらこそ、料理してくれてありがとう。あとこの紅茶、最高だ。今までの人生で一番美味しいよ」
「ありがと」
ロザリンドは花のような笑顔を僕に向ける。
んー、何から話すか? なんかお見合いみたいだな。
お腹いっぱいだとなんか穏やかな気分になるな。
「ところで、お前はこれからどうすんだ?」
「ロザリーは。お前様にこれからは仕えさせていただきたいです」
「そうか、だが仲間になって貰えるなら嬉しいが、強要はしない。そうだな、まずは俺の状況を知って貰って、それから仕えるかどうかは考えて欲しいな」
そして、僕は紅茶を一口飲むと、伯爵領でスキルを手に入れてからの一部始終をロザリンドに話し始めた。




