5話 魔道王アシュー・フェニックス
「俺は生まれた国に帰ろうと思う」
俺は玉座の肘かけに肘をつき、これまで供に戦ってくれた忠実な眷属の十指達に宣言する。
「茸王様、我々をおいていくのですか?」
【1の指】魔道指のルシアンが悲痛を込めて俺にすがりつく。その見目麗しい姿、豊満な体はいつ見ても心を潤す。
「茸王は止めろと言ったはずだ。アシューでいい」
茸王って名は賢そうに聞こえないから名前で呼ぶのを許しているのだが、皆畏まり、俺を茸王と呼ぶ。それって実は悪口なのではないかとも思う。最近は諦めかけてきたが。
「ルシアン、もうこの争いの無い魔国には俺がいなくても問題ない。これからはお前たちが国を豊かにせよ。なあに、俺が必要な時はお前たちを呼ぶし、お前たちが呼べば俺はいつでもここには帰って来れる」
「「ははぁ、御身の望むままに」」
高位魔族、いわゆる魔王である十指たちが俺にひざまずく。
俺が落ちた先は洞窟の中で、シャドウウルフと言う魔物を何とか倒し外に出ると、そこは魔族の世界だった。
荒涼とした大地に少しの食料を巡って争いが耐えない環境だった。その世界で群れ寄る者全てを茸使いのスキルで屈服させて、食べられる茸を増殖させる事により争いの根本的な原因を絶ちきり、魔道王『アシュー・フェニックス』と名を変えて2年程の歳月を経て魔族の世界を平定した。
魔族を倒し屈服させ眷属にすると、眷属化した者のスキルを手に入れる事が出来る。それにより俺はこの世界でかなり強くなった。
魔族達に傅かれて王として君臨しても、やはり心に去来するのは、生まれ育った世界への憧憬と俺を害しようとした者達への復讐の念だった。あと、茸は食べ飽きた。
「では、お前達留守を頼むぞ」
「「はっ!」」
俺は立ち上がりマントを翻すと傅く眷属の間の赤い絨毯を踏みしめながら部屋を出て、城を後にした。
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俺がこの世界にやって来た洞窟に足を踏み入れる。
「光茸!」
俺は右手に巨大な光る茸を召喚する。俺は国で栽培している茸と、異次元の茸を召喚出来る。魔法で代わりが出来ない事もないのだが、茸召喚は疲れないのでついつい使ってしまう。
俺は光茸を手に洞窟を進み、かつて落ちてきた所までたどり着いた。ここから上に上がれば故郷に帰ることが出来るはずだが、いままでここから地上に出た者はいないらしい。何らかの移動を阻害するものがあると思われる。
「飛行!」
眷属からいただいた飛行の魔法で宙に浮かび、大きな穴を見つけ、光茸の光を頼りに上昇していく。