第二部 魔国統一編 決着
「ほう、中々やるではないか。だが、ぬるい。全く俺に近づけないじゃないか」
ルシアンは右に左に位置を変え、僕の放水茸から溢れ出る水をかわそうとする。だが、僕は腰の向きを変えキノコの先端を常にルシアンに向け続ける。
「なんて下品な……」
ルシアンの呟きが耳に届く。
「どこが下品なんだ? 詳しく教えてくれ」
僕は素直に疑問を口にする。僕は燃えてるルシアンにただキノコから水をかけているだけなのに。
「クッ。馬鹿にしやがって。どこからそんなに水を……その水があれば……アルカディアは……」
炎ルシアンがジリジリと下がり始める。その炎が少しづつ弱くなる。もう角に蓄えてた魔力の限界が近づいたのか?
「ルシアン様! 負けるな!」
一人の騎士が叫ぶ。
「ルシアン様! 頑張れ!」
違う騎士が叫ぶ。
「ルシアン様!」
「ルシアン様!」
ルシアンの名があちこちから飛ぶ。
「「ルシアン! ルシアン! ルシアン!」」
騎士たち全員から声援が飛びはじめる。そして、それがまとまりシュプレヒコールに変わる。
さっきまではキノコキノコ叫んでたのに現金なやつらだ。
「お前たち……」
ルシアンが呟く。
「私はアルカディアの王族。アルカディアの国民を守るために負ける訳にはいかない。みんな私に力を貸してくれ。使うわ。最後の魔力! ウオオオオオオオオオオオオオオーッ!」
ルシアンの角が光り、炎の威力が強くなる。角は2本。残った角の魔力を解放したのだろう。
それにしても、コイツって、騙し討ちしたり、漁夫の利狙ったりとか、はっきり言って最低な奴だよな。けど、なんかめっちゃ僕が悪者みたいな空気だ。
「ルシアン。諦めろ。例えどんなにお前が心を燃やそうとも、俺という大河の前では無力だ」
「何が大河だ。お前とて無限に水を出し続ける事が出来るわけあるまい。その水が尽きた時がお前の最後だ。私の燃えさかる炎で、お前を骨の髄まで燃やし尽くしてくれる!」
ジョボボボボボボボボーッ!
ジュジュージュジュジュジュジュー!
「「ルシアン! ルシアン! ルシアン! ルシアン!」」
ルシアンコールの中、左右に動きながらなんとかして僕に近づこうとするルシアン。それに水をぶっかけて阻止する僕。水の吐き出される音とそれが一瞬にして蒸発する音。それらが交錯する中、僕らは魂をぶつけ合う。まるで神話とかで描かれてる聖戦のようだ。これだ、これこそが戦いだ! 僕の顔は歓喜に歪む。
「ナニコレ。裸で踊る変態に、喜んでおしっこかけてるように見える変態。きもっ」
ロザリンドがボソリと呟く。いつのまにか僕の横にぬれーっと立っている。
「くだらね」
ロザリンドはこっちに背を向けてゴロンと大地に片肘ついて寝転がる。コイツって僕に隷属してるんだよな? それにしては態度悪いし、辛辣すぎないか?
少し興ざめしたが、気を取り直す。
「キノコ人間! これが最後だ。私の炎で全てを燃やし尽くしてお前を倒す!」
圧倒的な魔力がルシアンから溢れ出る。そしてその体が煌々と光り更に燃えさかる。まずい、押し戻され始めた!
「オオオオオオオオオオーーーーッ! 負けてたまるかーーーっ! 暴れろ! 俺のキノコ! 全てを出し尽くせ! 食らえ! 最大マックスマキシマムキノコシャワー!」
僕は放水茸の出力を最大以上に上げる。大地に踏ん張った足がズズズとのめり込む。限界を超えた放水茸はビックンビックン脈打ちながらあり得んばかりの大量の水を吐き出す。それがルシアンに襲いかかる。ルシアンは踏ん張って耐える。いかん、放水茸も限界が近い! だが、ルシアンの足は地面から離れる。
「キャアアアアアアアーーーッ」
「「ルシアン様!」」
可愛らしい声を上げて、燃えさかるルシアンが吹っ飛ばされていく。騎士たちが悲痛の叫びを上げる。くっ、放水茸は打ち止めだ。キノコの世界に還してやる。一直線に飛んで行ったルシアンが豆粒くらいに小さくなって止まったのが見える。見たところ炎は消えたみたいだ。
そして、僕の体にまたしても暖かい何かが流れ込んでくる。隷属の力か? やっとルシアンも負けを認めたようだな。けど、あいつ服燃えてたよな? 僕は少しドキドキしながら全速力でルシアンに駆け寄る。
「ううう……キノコ……」
大地にうつ伏せに倒れて呻いているルシアン。こっちに頭を向けてるので、何も見えない。お尻の方に回ってやろうかと少し思ったが、止めておく。僕は貴族だからな。
「ルシアン様ーっ」
騎士たちがこっちに走ってくる。さすがに晒し者は可哀想だな。武士の情けだ。
「これを着ろ」
ドシャッ。
僕は纏っている鎧茸の胸当てと腰当てを外してルシアンに放ってやり背中を向ける。新たな鎧茸を出したい所だが、もうキノコ力は尽きている。しばらくしないと召喚は無理だ。パンツ欲しいな。
「お前、ルシアン様に何する気だ!」
先頭の騎士が大声を出す。
「もう、何もする気はない!」
「嘘つけっ!」
僕は振るわれた剣をかわす。さすがにもう戦う気力は無い。僕はこの場から逃げ出す。逃げても逃げても騎士たちはしつこく追っかけてきて、光茸の光が射さないとこまで逃げてやっと撒くことができた。




