第二部 魔国統一編 歌い茸
『キノコ! キノコ! キノコ! キノコ! キノコ! キノコ! キノコーッ!』
歌い茸の傘の下に、くぱぁーっと大きな口が開き、キノコソングを歌い始める。低いけど良く通るイケボだ。キノコなのに。
パンッ! パンッ! パンパパン!
僕は手拍子でビートを刻む。
『キノコ! キノコ! キノコ!キノコーッ!』
歌い茸の美声が響き渡る。その声には力強さだけじゃ無く、明らかに力を感じる。魔力、歌に魔力をのせてやがる。ほう、これは面白いな。歌い茸の心の声が聞こえた気がする。『歌にどういう奇跡を望むのか?』と。
そうだな。せっかくだからみんなで歌うとするか。キノコソングの歌詞はシンプル。キノコキノコだけだ。
パン! パン! パパパン!
僕は軽く手拍子する。
「歌え、勇敢なる騎士たち! キノコキノコキノコーッ!」
「「キノコキノコキノコーッ!」」
僕の声に騎士たちがこたえる。良い感じだ。皆で、僕のキノコを讃えるのだ!
「ルシアン! お前も歌え! キノコキノコキノコーッ!」
「くっ! 誰がそんな馬鹿らしい歌なんぞ歌うか!」
さすが魔法を使うだけあるな。なかなかの魔法抵抗力だ。
「歌う茸! 出力アップだ!」
『キノコ! キノコ! キノコキノコキノコーッ!』
歌い茸が更に大きな声で歌う。
「「キノコ! キノコ! キノコキノコキノコーッ!」」
騎士たちが野太い声でそれに続く。辺りの空気がビリビリ震える。ど迫力だ。
「くっ! キノコ! キノコ! キノコキノコキノコーッ!」
フッ。堕ちたな。ルシアンも歌い始める。
「くっ! 酷い雑音だ。方向感覚が……」
コウモリ姿のロザリンドはしばらくフラフラと宙を浮いていたが、歌が激しくなるに従って、飛んでる高度が落ち、ついには地に足をつく。
多分、コウモリロザリンドの目はほとんど見え無いか、見えていない。
よくいろんな物語とかで吸血鬼がコウモリになって苦戦するって話があるが、コウモリは音に敏感ゆえに大声が苦手なんじゃと思っていた。歌い茸、騎士団、ルシアンの大合唱は間違いなくロザリンドにダメージを与えている。ただの人間の僕でさえ、五月蠅すぎて頭がいたいから、耳がいいコウモリのロザリンドはかくやだ。多分めっちゃ頭痛いだろな。
「さあ、ロザリンド。お前も歌え。楽しいぞ。キノコキノコーッ!」
「だっ、誰が、歌ってたまるか!」
「おやおや、言葉使いが下品になってないか? 公女様なんだろ。キノコキノコーッ?」
「あ、頭が痛い。へ、変身を……キノコ……」
「強情な奴だ。みんな、もっと、もっと、歌え! キノコキノコキノコキノコーッ!」
「「キノコ! キノコ! キノコ! キノコキノコーッ!」」
まるで雷でも落ちたかのような大音声。キノコを讃える歌が辺りを歌一色に染める。騎士たちとルシアンもロザリンドの弱点が大声だと分かったみたいでノリノリで歌っている。足踏み、手拍子、武器や鎧を打ち付ける音。いろんな音がビートを刻み、ロザリンド以外の全ての者が歌い歌い歌う。
「ロザリンド。お前の負けだ。大人しく一緒に歌え」
「くぅーっ。キノコ。いやだ。キノコ。絶対! キノコ。絶対歌ってたまるか! キノコキノコーッ!」
嫌だと言うわりには、歌い始めている。もう一押しだな。
「飛んで逃げる。キノコ。無理だわ。キノコッ! 体を戻さないと。キノコキノコーッ!」
ロザリンドはキノコキノコと歌いながら、変身していく。
そして、元のゴスロリ美幼女に戻る。
「キノコ人間! キノコッ! お前、キノコッ! 絶対絶対にっ! キノコッ! 許さないキノコキノコキノコーッ!」
ロザリンドは顔を真っ赤にしながら、デスサイズを構える。今、鎌、飛んで来たな。なんかそういう魔法でもかかってるのか? 便利だな。
「キノコ! キノコ! キノコーッ!」
ロザリンドは歌いながら、鎌を振るう。けど、ビートに引っ張られてヘロヘロだ。
「そうか、お前もそんなにキノコが好きか」
当然、歌い茸の歌魔法は僕には効果ない。僕は普通に喋れる。
「「キノコ! キノコ! キノコ! キノコーッ!」」
騎士団、ルシアンが歌いまくる。
耳が痛いほどの大合唱に包まれながら、僕とロザリンドは踊るかのように戦う。もっとも、ロザリンドは歌いながら戦ってて、どうしても歌に合わせて動いてしまうみたいで、踊ってるのとほぼ変わらんが。
「お前の負けだ。ロザリンド。降参しろ」
「キノコ! キノコ! キノコ! キノコーッ!」
もうロザリンドは完全に歌い茸に支配されていて、普通に話す事も出来ないみたいだ。哀れ。
けど、飽きた。もう終わらせるか。
「……!」
急にロザリンドは歌うのも動くのも止める。
「歌い茸。還れ」
僕は歌い茸をきのこの世界に還す。騒がしかったのが嘘みたいに静まりかえる。
「お前の負けだ。お前の体の中にきのこの菌糸を打ち込んだ。お前は不死身かもしれないが、お前の体はもう自由には動かない。口だけは動かす事を許す」
「くっ、不覚……」
ロザリンドの目から覇気が消える。そして、僕の中に何か暖かいものが流れ込んできたような気がする。
「ロザリンドを隷属させたようね」
ルシアンが僕のそばに歩いてくる。




