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 第二部 魔国統一編 一騎打ち


「ルシアン様ーっ!」

 

 騎士の一人が叫ぶ。


「ルシアン様ーっ!」


 スケルトンと戦いながら騎士が叫ぶ。 


「ルシアン様!」 


 僕についてきている、ドーピング騎士も叫ぶ。


「ルシアン様!」 

 

「ルシアン様!」   

 

「ルシアン様!」

 

 どこそこから、ルシアンの名前を呼ぶ。


「「「ルシアン! ルシアン!ルシアン!」」」


 ルシアン配下のアルカディア軍全員がルシアンの名前を連呼する。

 僕たちはドーピング騎士団はやっとスケルトンの囲みを突破して、アルカディア騎士団と合流する。相変わらず、ルシアンとロザリンドの周りだけは空白地帯がある。騎士達は近づかないが、スケルトンはルシアンに向かうのもいる。だが、ルシアンは全くものともせず、スケルトンはその剣戟の余波で破壊されていく。


 夕焼けの赤い光に照らされて、少女と幼女は剣を交える。力強いルシアンの攻撃を流れるような動きでロザリンドが受け流し、そこから振るわれる鎌の一薙ぎをルシアンが剣で弾き返す。お互いの攻撃を受け、逸らし、かわす。互いに刃がその身に届く事はなく、まるで演舞かのようだ。だが、武器が当たった時の激しい音が、それが間違い無く命を懸けた戦いだと言う事を思い出させる。それにしても、ルシアンの服はえげつない。特に胸など先端を少し覆っただけの目のやり場に困るようなブラジャーだけなのに、激しい動きで揺れまくってもずれたり、胸がこぼれたりしない。魔法がかかってるのか?


 僕はロザリンドの動きに違和感を覚える。僕はこれでも同世代では1・2を争う剣の使い手ではある。ルシアンの剣は僕とあまり変わらない技術だが、ロザリンドのそれは明らかに老練な剣士のものだ。ルシアンの剛剣を受け流すその技術は一朝一夕で身につくものじゃない。多分ロザリンドは見かけは幼女だけど、実際はかなりの歳をとってるのかもしれない。俗に言うロリババアって奴か?


 騎士達の声援を受けて明らかにルシアンの動きが良くなりはじめる。まるで踊るかのように滑らかな斬撃がロザリンドに襲いかかる。全く擦りもしなかったその攻撃が、少しづつロザリンドの体に届き始める。

 僕はスケルトンをぶん殴りながら二人の戦いを眺める。

 確かにルシアンの方が今は優勢だ。けど、ロザリンドは本気を出してるのか? 今はゴスロリ幼女だけど、さっきはコウモリ人間に変身していた。どっちの姿が強いかと言えば、反響定位(エコロケーション)、発した音が何かにぶつかって反射してきた音を受信して対象物までの位置を知る能力を使ってたと思われるコウモリ形態の方なのでは無いだろうか? 何故、変身しないのか? 


 ドーピング騎士団の活躍もあって、スケルトンは粗方破壊し尽くされた。騎士達はその残党を片付けながら、ルシアンとロザリンドの戦いを眺めている。あまりにも高レベルの戦いに加勢出来ないのだろう。僕は何かがあった時のために、変幻茸の菌糸を地下に張り巡らせる。ここらの土が柔らかくて良かった。

 

 僕は確信している。もうすぐこの二人の戦いは終わる。夕日によってもたらされた二人の長い影。二人の動きに合わせて、その影法師も踊る。


 ルシアンの方が押しているのに、その全身はびっしょり汗にまみれている。明らかに荒い息をついている。それに対してロザリンドは無表情、全く変化は無い。


「一気に決める! 燃えよ我が体、ウォオオオオーッ!」


 ルシアンが吠える。そして、その体が炎に包まれる。チッ、服はは燃えてねぇ。


 超加速でルシアンがロザリンドに襲いかかる。今のは身体強化系の術だったのか? ルシアンの横薙ぎ、返して横薙ぎ、ロザリンドはバックステップでかわす。まるで瞬間移動をしたかのように前進したルシアンのすくい上げるような逆袈裟切り、これはかわせない。ロザリンドは鎌で何とか受けるが、宙に浮き上がる。


「とったーっ!」


 ルシアンは空中のロザリンドに大剣を大上段から打ち付ける。大剣がロザリンドの小さな体に迫る。一刀両断確定だな。


 キィーン!


 澄んだ音と共に、ルシアンの大剣が真ん中から折れて、刀身はクルクル回りながらアーチを描いて飛んでいく。


 ロザリンドは優雅に大地に立ち折れた大剣を左手で押さえている。ルシアンは両手で大剣を押し込もうとしているが全く動かない。ルシアンを覆っていた炎は消えている。


「惜しかったかしら。あと少し魔力が残っていたら、ロザリーを倒せたのにね。残念ね。可哀想ね。キャハハハハハハッ!」


 ロザリンドは嬉しそうに笑う。


「グゥウウウッ!」


 ルシアンは全身から汗を流しながら、剣に力を込めている。


「「ルシアン様ーっ!」」


 騎士がたちが駆け寄ってくる。


「はい、時間切れ。影縛り!」

 

 騎士達の動きは止まり、僕も体が動かなくなる。なんだこりゃ? あ、そう言えば、もう日が沈んでいる。


 ロザリンドはルシアンの剣から手を離す。ルシアンも動けないようだ。


「フフフッ。もう大地全てが影。ロザリーの思うままよ。ルシアン、あなたはお馬鹿さんよね。ちゃんと魔力を温存してたら、ロザリーに負ける事なんか無かったのに」


 そうか、ルシアンは魔力切れか。道理で、決着を急いだ訳か。けど、その魔力切れもロザリンドが消耗させて引き起こしたものだろう。


「キャハハハハハハッ! みんなロザリーを倒せると思った? あと少しだと思った? ざんねーん。これからひとりごと一人丁寧に可愛がってあげるわ。ながーい夜になりそうね。キャハハハハハハッ!」


 黄昏の中、ロザリンドの哄笑が響き渡る。


 




 このお話は他サイトノベルピアさんで先行配信しております。下にリンクを張ってますので、ぜひお越し下さい。


https://novelpia.jp/novel/2658



挿絵(By みてみん)


 この表紙絵が目印ですっ!


 読んでいただきありがとうございます。


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