第二部 魔国統一編 反撃
「アシュー・アルバトロスの名に於いて命ず。俺を癒せ回復茸!」
回復茸で癒せども癒せども、僕の熱は下がらない。食用茸を大量召喚した時のように、名前を宣言する。これで回復力が上がるはずだ。果たして、回復茸はその力が強化され、しばらくして立ち上がれるようになった。
正直自分でもドン引きだ。変幻茸と回復茸のコンボで、ほぼ不死身になってしまったのでは? あながち化け物と呼ばれるのは間違いでは無いかもしれない。
辺りにはもうスケルトンはいなく、所々に、角が生えた魔族の負傷した兵士たちがうめき声を上げている。多分ロザリンドは負傷者を無視して、アルカディア軍の追撃に行ったんだろう。負傷者は結構いるから面倒くさいので、変幻茸の菌糸を地面に展開して、その先から兵士たちの口に変幻茸と回復茸をねじこんでいく。ついでに筋肉茸も少々くれてやる。フフッ。これで、僕並の不死身で剛力な騎士達の誕生だ。しばらくすると、ほぼ生きている騎士全てにキノコが行き渡った。死者を弔ってやりたい所だけど、アビス軍を追撃する方が先だ。
「王国の勇敢な騎士達よ! 帝国に反撃するぞ! 我が剣に続け!」
そこらに落ちてた剣を拾って掲げて、僕は声を張る。ん、そう言えば王国と帝国じゃ無かった気もするが、こんなのは気分だ。
駆け出した僕に騎士達が続く。まあ、さっき戦ってたのを見てるから敵じゃないっていうのが分かってるからだと思うが。
アルカディア負傷兵改め、アシューキノコドーピング騎士団を引き連れて荒野を駆ける。
僕らは夕日に向かって走り続ける。
そう言えばロザリンドは夜がなんとかって言ってたな。そうだ、多分ヤツの影渡りって能力は闇の中なら影の中を移動し放題なんじゃないのか?
それに、さっきヤツと戦った時の動きは異様だった。さっき渾身の力と速度で殴りかかった時に容易くかわされた。今までのロザリンドの動きから見てかわされるはずが無い攻撃だったのに。そうだ、ヤツはコウモリだ。確かコウモリは音波を出してその反射を耳で捕らえていろんなものの位置を把握してると昔学んだのを思い出す。
心を研ぎ澄まし、キノコの世界の事を考える。音を出すキノコ。音を出すキノコ。いた! ふさわしいキノコと契約する事が出来た。これでヤツの音波対策になる。
それにしてもおかしい。スケルトンが見えない。スケルトンってそんなに早く走れなさそうだったがな?
しばらく走り、ヘブンズドアの街の城壁の前におびただしい数のスケルトンが見える。そうか、多分ロザリンドの影渡りって自分だけじゃなく他者も移動できるのでは? 便利な能力だな。ロザリンドを捕まえたら、教えて貰えないだろうか?
「全軍突撃ーっ!」
一度言ってみたかった台詞を口にする。鬨の声を上げて騎士が僕に続く。そして、スケルトン軍団に僕たちは突撃する。
戦闘? いや、そんなものじゃない。馬車が雑草を踏み潰すかの如く、スケルトンは粉砕されていく。キノコドーピング騎士達は手当たり次第にスケルトンを消滅させていく。それにしても騎士達なんかテンション高いな? 「キョエー!」とか「アチョー」とか奇声を上げながら暴れまくっている。どう見ても正気じゃない。やった本人である僕がドン引きする程だ。もしかして、付与したキノコのどれかにハイになる効果があったのかも? 疑わしいのは筋肉茸だ。僕も筋肉茸を身に纏うと少し気が大きくなるからな。
一方的な破壊を繰り広げて行くと、少しづつスケルトンの波が割れて戦況が見え始めた。
おいおい、ルシアン囲まれてるじゃねーか。
スケルトンの大軍にアルカディア軍は完全に囲まれている。まあ、ロザリンドの影渡りの能力で上手くスケルトンを配置したんじゃないかと思うが。
キノコドーピング狂騎士達の活躍で、少しづつアルカディア軍の本隊に近づく。そして、ぽっかりと空いた空間を見つける。そこで繰り広げられてたのは寄る者を許さない戦い。最小限の衣服だけ体に纏った角と翼が生えた美少女、ルシアン。黒いゴスロリ服を纏った金色の縦ロールの美少女というより美幼女のロザリンド。その二人が高速戦闘を繰り広げている。
ルシアンの武器は大剣。その身の丈の倍くらいの長さに彼女の体が隠れる程の幅がある巨人の武器と言われても納得する程の大きさ。彼女が水浴びしてた時に立てかけてあったヤツの倍以上の大きさだ。華奢なのにどういう体してるんだ?
それに対してロザリンドの武器は大鎌。細い握り手に禍々しく波打った刀身。振るう度に黒い何かが残像のように残る。しかもそれが人の顔に見える。これは呪われてますよ、と全力でアピールしているな。
人の動きを超越して、重力を全く感じさせないようなルシアンの攻撃をロザリンドは柳に風とばかりに受け流し避ける。近づいてきたスケルトンがその余波で吹っ飛ばされてひしゃげる。
ルシアン、そんなに物理もイケるなら、一人でスケルトン殲滅すりゃよかったんじゃ? そんな事を考えながら、僕はスケルトンを潰して近づいて行く。




