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 第二部 魔国統一編 戦場


「おいっ、いつまで寝てるんだ」


 オッサンの声がする。なんだコイツは、うちにこんな奴いたか? 無粋な奴だ。人がせっかく気持ちよく寝ているのに。


「まだ眠い。寝かせろ」


「おい、起きろ。ヤバいんだよ。攻めて来たんだよ」


「ん?」


 目を開けると、角が生えたオッサンがいる。気色悪いちょび髭。え、ここは僕の部屋じゃないのか? そうだ、思い出した、僕は伯爵領から連れ去られて、奈落に突き落とされたんだった。確か、コイツはウザい看守だ。ん、ここ王城にいるって事は、コイツはそこそこに偉い奴だったのか?


「攻めて来たとか、僕には関係ない。しこたまキノコ出してやっただろ。まだ眠い寝かせろ」


 僕は布団を被って寝る事にする。まだ眠いのだ。

 

「アルカディアが東に展開している魔道騎士団がアビス軍に突破された。ここももうじき戦場になる。お前には美味しいキノコを沢山貰った恩がある。お前は逃げ延びてくれ」


 オッサンは僕の肩をガタガタ揺する。チッ、目が覚めてしまった。


「うっせーな。アビス軍? そんなチンケな事で僕を起こすな。お前らの戦争なんか興味ないが、お前らの僕に出す条件次第では力を貸してやる」


 眠いのにどうでもいい事で起こされて僕は不機嫌だ。


「お前、態度でけぇーな。もしかしてメッチャつえーとか? そうだな、もし、アビス軍を撃退したなら、多分アルカディアはお前の望む事ならなんでもしてくれるんじゃないか?」


 望む事か。家に帰るくらいしか望みは無いが、ルシアンの魔法にその可能性があるみたいだから、少しくらい力を貸してやるか。まあそこそこ寝たから気力大量ともに十分だ。


「ちょび髭、僕は逃げはしない。そのアビス軍とやらに挨拶に行ってやるか」


「挨拶って、お前止めとけよ、逃がしてやるって言ってるだろ」  


「四の五の抜かすな。気が変わらないうちに連れていけ」


 僕はちょび髭に食用茸を幾つか投げてやる。


「ありがてぇ、さっきのキノコか。分かった。最前線に連れてってやるぜ」


 そして僕は布団から出て、ちょび髭に先導させて主戦場へと向かった。



「ほう、見るからに劣勢じゃないか」


 僕とオッサンは馬にまたがり、小高い丘の上から戦場を見下している。横一列に展開した煌びやかな鎧を着た騎士団が、群れ寄るスケルトンを撃退している。スケルトンより騎士の方が明らかに強いのだが、スケルトンの数が多い地平線の果てまでうようよといる。


「そうだな。もう魔法は打ちつくしたようだな。まさか、まだこんなにアンデッドがいるとはな。こりゃジリ貧だ。多分ルシアン様は折を見て、撤退する気だろう」


「オッサン、騎士団が突破されたって言ってたよな。おかしいだろ。お前の国の騎士団はスケルトンにやられたのか?」


「そんな訳無いだろ。スケルトンはあくまでも雑兵。アイツらの戦い方は雑魚で消耗させてから大将が攻め込んで来る」


「なんかセコい戦い方するヤツらだな」


「そうだが、やられる方はたまったもんじゃない。スケルトンとかは飯も休憩も要らないからな。夜討ち朝駆け何でもアリで、疲れた所で強ぇ奴が出てくんだからな」


「そうか、じゃそろそろ大将が出てくるかもしれないって事か。余り時間が無さそうだな」


 僕は少し考える。なんかいきなり戦争に巻き込まれているけど、僕には正直どっちが勝とうが知ったこっちゃ無い。多分このままだったらアビス軍って方が勝つだろう。ルシアンにはぶっ殺されそうになった恨みもあるから、アビス軍って方に与する事も頭によぎる。だが、勝ち戦に便乗した所で大した報償は貰えないだろう。それよりも劣勢を覆した方が見返りが大きいはずだ。今のキノコ使いの力を得た僕ならこの劣勢を覆せるはず。いや、覆せないとしても撤退の時間稼ぎは出来るはず。


「オッサン、見とけ。アシュー・アルバトロスの初陣だ。伝説の始まりだ」


「なんだ、お前いきなり馬の上に立って? なんだそりゃ? 新しい強化の魔法か?」


 僕は馬の鞍の上に立ち、筋肉茸と鎧茸を召喚する、そして回復茸を体内に展開し、顔も目を残して鎧茸で覆う。


「キノコ怪人?」


 酷い呼び名だが、面倒くさいから突っ込まない。


「俺のキノコの力を見せてやる! とうっ!」


 僕は馬から優しく飛び降りると、駆け出す。思いっきり跳んで馬が怪我したら可哀想だからな。


「なんだありゃ?」


「新手の魔物か?」


 酷い言われようだな。騎士をすり抜けて大地を蹴って最前列の騎士を飛び越える。そして、スケルトンを殴る殴る殴る。

 走りながら手当たり次第ぶん殴って倒していく。


「すげぇ!」


「かっこ悪いけど強ぇ!」


「行け! 行け! キノコヤロー!」


 なんか、騎士たちの声も聞こえるが応援されているのかけなされてるのか分からない。アイツらも打っ倒すか? まあ、それは冗談で、少しづつ、騎士たちから離れてよりスケルトン軍団の奥に進んでいく。僕を敵認定してスケルトンがのべつまくなし襲いかかってくる。

 今回の目的は2つ。騎士団に撤退の時間を与える事と、あわよくば現れたアビス軍の大将を撃ちとるなり捕縛するなりする事。まあ、多分、これだけかき乱したら、騎士団の撤退は問題無いだろう。

 さすがに数万いると思われるスケルトンを一人で倒すのは無理があるから、ひとしきり暴れたらヘブンズドアの街に戻るとしよう。


「お前は、何なのかしら? ロザリーの玩具を壊しまくって」


 いきなり背中に激痛が走り、僕のお腹から剣が生える。

 振り返ると少女。戦場に似つかわしくないゴスロリ服を纏っている。


 

 


 このお話は他サイトノベルピアさんで先行配信しております。下にリンクを張ってますので、ぜひお越し下さい。


https://novelpia.jp/novel/2658



挿絵(By みてみん)


 この表紙絵が目印ですっ!


 読んでいただきありがとうございます。


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