第二部 魔国統一編 茸召喚
「何しにって、お前の様子を見に来ただけだ。そんな事より、お前、お前は何者なんだ?」
魔族の女の子ルシアンが口を開く。ヒリつくような殺気を感じる。警戒されてるな。少し前に爆炎魔法で消し炭にされかけたのを思い出す。けど、さすがにこの密閉空間でそれはしないだろう。
「やっと聞く耳もったか。お前に会うのはこれで3度目だ。僕の名前はアシュー・アルバトロス。ミッドガルド王国のアルバトロス伯爵の三男だ」
「ミッドガルド王国? アルバトロス伯爵? 聞いた事が無い名前だな。お前、見たところ角が無いな? ヴァンパイアなのか?」
「いや、違う。人間だ」
「人間? まさか人間がこんな所にいるはずがない。人間如きがこの魔界で生きていけるはずがない。すぐに魔物の餌になるはずだ。もしかして、もしかしてお前、勇者なのか? 誰かに召喚されたのか?」
「いや、勇者じゃない。おれは『キノコ使い』だ!」
「『キノコ使い』? なんだそれは? 新手のホスト系の職業か?」
「ホスト系ってのが何かは分からんが、その名の通り、キノコを使う職業だ。ほらよ」
僕は食用茸を出してルシアンに放る。
「これは、さっきのキノコ。お前が食べていた……」
「そうだ。そのキノコは生でもいける」
「キノコ……」
ルシアンはキノコを握りしめじっと見つめる。
「生……」
ルシアンの顔がほんのり赤くなる。さすがに女性として、男性の前で生でキノコに噛み付くのははばかられるのか?
「恥ずかしがる必要は無い。思いきって俺のキノコを口に入れるんだ。ここにいるのは今は俺とお前だけだ。騙されたと思ってひと思いに口に入れろ」
「私には無理だ。こんな大きなキノコ、入らない」
「しょうがないな。大きく口を開いて少しづつ口に入れるんだ。ほら、サイコーだろ」
「おおっ、サイコーだ。お前のキノコ、サイコーだな」
ルシアンは一口食用茸に噛みつくと歓喜の声を上げ、その顔がパアッと明るくなる。かわいいもんだ。こうしてみると意外に若いな。攻撃的だったのは、コイツは腹が減って気がたってたんだろう。
バタン!
急に扉が開く。
「姫様! 何をなされてるんですか!」
ひげ面のゴツイ男が扉を開けて飛び込んでくる。ん、姫様? やっぱルシアンは位が高かったのか。
「どうしたんだ? じい、慌てて」
「聞いておりましたぞ。姫様、何を、何を口にされてるんですか?」
「どうした? キノコだが?」
じいと呼ばれた男は、ルシアンの手のキノコをじっと見つめる。
「え、キノコ。そうですね。でっかいキノコですね」
じいと呼ばれたひげ面はキョトンとしてる。確かこういうの天丼って言うんだよな。ここの連中は盗み聞きが好きなのか?
「そんな事より、じいも食べてみろ!」
ルシアンはじいにキノコを差し出す。それ食べさしだよな。
「わしは、焼いた方がいいな。生のキノコなんて美味い訳がないですじゃ」
「四の五の言わず食え!」
「ふがふっ!」
ルシアンはじいの口にキノコを押し込む。ところで、僕は何を見てるんだ。場末のショートコントか?
「うっ、美味いぞーーーーーーーーっ!」
じいが叫ぶ。きたねーな。食い終わってから叫べよ。
「そうだ、お前、このキノコはどれくらい出せるんだ?」
ルシアンがこっちを見る。
「そうだな。自分の目で見てみろ。アシュー・アルバトロスの名に於いて命ず。出でよ食用茸、雲霞いや、村雲の如く!」
なんか格好よさげな言葉を並べて食用茸を召喚してみる。たしか魔法系って、自分の名前を宣言すると、効果が増すって聞いた事があるな。
モリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリモリッ!
格子の前につき出した僕の手の先から、気持ち悪いほど食用茸が発生する。ルシアンとじいは食用茸に埋もれていく。
あ、やり過ぎた。
「ストップ! ストーップ」
なんとか止めたが、格子の前は食用茸の山が出来ている。その中に頭をキノコに突っ込んで、あられもない姿で埋もれるルシアン。綺麗なお尻が丸見えだ。じいは見えなくなっている。
「お前、お前、サイコーだよ! これで兵士たちに腹いっぱいキノコを食わせられる」
体勢を立て直して、キノコの海で踊りまくるルシアン。コイツって、姫様って呼ばれていたよな。この国大丈夫か?
幾人もの武装した魔族がどんどんキノコを運び出していく。そして、僕は力の限り食用茸を召喚していく。まあ、コイツらに恩を売っておけば、あわよくばルシアンの召喚術で伯爵領に帰れるかもしれない。
「疲れた。休ませてくれ」
キノコ召喚も無限では無い。かなりの食用茸を召喚して、僕は限界を迎えた。
「ありがとう。お前はこの国の救世主だ。まずは、王城に来て貰ってもいいか?」
二つ返事で、僕は王城に招かれる事になった。
そして、豪奢な部屋をあてがわれて、これまでの疲れで、僕はベッドに飛び込み泥沼のように眠りこけた。




