第二部 魔国統一編 牢獄
「なあ、お前、なんでパンツ穿いてねーんだ。そうか、お前、やっぱ、ほーらとか言って、女子供にブツを見せたがる輩か? 若くて大人しそうな顔なのにやべー奴だな」
「……」
「おい、なんとか言ったらどうだよ。で、どうだったんだルシアン様の反応は。もしかして『キャー』とか生娘のような反応したのか?」
「……」
「おい、教えろよ。ルシアン様は気丈で男勝りだもんな。あんな格好でそのギャップがいいんだよ。おい、聞いてるのか?」
「ああ、聞いてるよ。それにしてもよく喋る奴だな」
「おっ、やっと話する気になったか。じゃ、まずはお前、どこから来たんだ?」
今僕は牢獄に押し込められている。
城門で衛兵にハルバードを突きつけられ囲まれ。後ろ手に縄で括られ、通用門を通って街を進み、堀と高い刺つきの塀に囲まれた建物に連行された。その途中街並みを眺める事は出来たんだが、人っ子一人見かけなかった。
ゴーストタウン。
その言葉が似つかわしかった。それにダム、城壁、街の大きな建物。高い文化水準を誇ると思われるのに、僕を拘束しているのは縄だ。なんか違和感を感じた。
そして、僕が連行された建物は思った通りの牢獄で、軽いボディチェックのあと、後ろ手に縛られたまま、地下の一室にぶち込まれた。コの字の部屋で開いた所が鉄格子で、鉄格子の扉にはでっかい鍵がかかった南京錠がついている。元は貴族だったのに、なんで牢獄なんかに落ちぶれたものだな、と思わない事も無かったが、それよりも、街に入れたという事に安心した。
衛兵たちとルシアンのやりとりから分かったのは、ルシアンがこの街ではかなり偉いという事だ。もしかしたら領主の娘とかなのかもしれない。けど、それならあの格好は無いな。エロすぎる。
まあ、事故でブツをさらけ出しただけだから、しばらく取り調べを受けたら解放されるだろう。それに拘束が長くなりそうだったら逃げればいいし。多分、僕の筋肉茸の力で檻は壊せる。
そんな事考えてたら、なんか看守みたいな奴がやって来て、しつこく僕に絡み始めた次第だ。コイツも角が生えていて、手にはなんか棒をもっている。そこそこ筋肉質だけど、下っ腹が出ていてしかもちょび髭なんか生やしていて、とっても小物っぽい。
「どっから来たかって」
しばらく考える。余計なことを言って立場が悪くなったら困る。
「どっから来たかって、その前に僕はここがどこだか知らないし、どっちから来たかも分からない」
「お前、もしかして召喚者か?」
「召喚者ってなんだ?」
「魔法で異世界から召喚された者だ。けど、それならおかしいな。高度な召喚術を使えるのはここではルシアン様だけだし、お前はルシアン様に楯突いたんだもんな?」
ん、という事は召喚が出来るって事は送還も出来るんじゃ? そしたら伯爵領に帰れるかも。こりゃ、なんとかしてルシアンと仲良くならないとな。お互い印象最悪だけど。
「楯突いてない」
「おいおい、まあ、似たようなもんだろ。という事は、お前、魔法で転移させられたのか? そうだな、まずじゃここがどこか教えてやるよ。ここは魔道都市ヘブンズドア。天を突く摩天楼から天国に1番近い街と呼ばれた所だ」
ヘブンズドア。なんて格好いい名前の街なんだ。1発で覚えた。当然そんな都市は初めて耳にする。やっぱり間違いなくここは伯爵領があった僕の故郷とは違う世界なんだな。
「そして、ここヘブンズドアを中心に広がっているのが我らが祖国、魔道国家アルカディアだ」
「天国に1番近い街って言う割には人が少ないな?」
「あ、そうか、じゃ、お前は知らんのか。今、この国アルカディアは、隣国のアビス公国と戦争中でかなり劣勢だ。なんとか東から攻め寄るアビス軍をここヘブンズドアでなんとか食い止めてる状態だ。ほとんどの市民は西に疎開している」
そっか、大変な時にやって来たんだな。けど、まあ、僕には関係無いな。
「アルカディア軍は精強なのだが、長い戦乱で物資が足りなくなってるんだよ。特に食料不足は深刻だ。元々、ここら辺では川から灌漑で水を引いた少ない農地で作った作物と、魔法によって作られた少ない食料でなんとか賄ってきたんだが、戦争の被害による人員不足などでもうカツカツだ。それに比べてアビス兵はアンデッド等の補給要らずの兵が多い。アルカディアはアビスなんぞに負ける訳ないんだが、弱点を突かれたような形だな。俺もここ数カ月、腹いっぱい飯を食った記憶が無い。ん、なんか良い匂いするな? っておい、お前、何食ってんだよ!」
「五月蠅い奴だな。みりゃ分かるだろ。キノコだよキノコ」
僕は手にした食用茸を手にしてヒラヒラする。
「お前、縄は?」
「緩かったんだろ。解けた」
まあ、実際は一瞬筋肉茸と同化して引きちぎったんだが。
話がなげーし、腹も減ってきたから、食用茸を召喚して食ってたら、やっと今奴は気づいた。なんか目を瞑って浸り込んでたもんな。コイツらの戦争なんか僕には興味ない。けど、腹減ってるって言ってたな。
「おい、俺のキノコ食べるか?」
「なんか、引っかかる表現だけど、貰っていいか?」
僕は食用茸を格子の隙間から差し出す。奴はそれを受け取ると、ゴクリとつばを飲み込んでガツガツと食べ始めた。うん、人がバクバク飯食うのは見てて気持ちいいな。
「まだあるぞ」
僕は、2本目、3本目を差し出す。毒入ってるとは思わないんだろうか?
「キノコ! キノコ、サイコー!」
男の歓喜の叫び声が牢獄にこだまする。




