第二部 魔国統一編 城門
人工のダムによって作られた滝壺は大きく、滝も近づいてみると思ったより大きい。もしかして人か動物かがいるかもと思ったが、何もいなかった。滝なんか見るのは子供の時以来でついつい眺めてしまう。長時間のロッククライミング、まあ降りていった事をロッククライミングと言うかは別にして、それでかなり汗をかいていたので、軽く滝壺の浅瀬で体を流す。そして、また川縁を歩き出す。
「え……」
僕は自分の目を疑う。蜃気楼? それとも僕の願望が見せた幻覚? いやそうじゃない。目の前に高い城壁に囲まれた、街が見える。多分街なのだろうが、驚かされるのは、高い城壁の中にある、天を突くかのような高さの建物だ。つい、しばらく足を止めて眺めてしまう。
けど、さっきまでそんなものは微塵も見えなかった。街を目にしながら、後ろに歩いていく。
「……っ!」
いきなり街が消える。そして、前に進むといきなり現れる。
魔法だ。多分かなり高レベルの魔法で街を隠しているのだろう。崖の上からは全く見えなかった。今もこの場所を境に見えなくなる。何の意味があるのか分からないが、街は強力な幻覚魔法で覆われているのだろう。まあ、考えても何も分からないので、前に進む。どうしてもその足取りは軽くなる。
そして、城壁へとたどり着く。この壁も継ぎ目1つも無く、軽く叩いてみるが、とても硬い。筋力茸を装備してぶん殴っても傷1つつけられなさそうだ。見渡しても入口は無く、川は街に飲み込まれていて、そこには金属の柵がしてある。少し、もしかしたら川から街に入れるかもと思ったが、ちゃんとした入り口があるはずなので、そこを探す事にする。
壁沿いに歩いていく。それにしてももう腹が減ってきた。こんな大きな街だから多分美味いものがあるに違いない。僕は心弾ませながら歩く。
かなり歩いて、城門が目に入る。ここからでも見える。大きな閉じられた門の隣に小さな門があり、衛兵の詰め所だと思われる小さな建物が見える。無意識に歩くスピードが早くなる。
「通行証を見せろ」
全身鎧を纏った髭面の衛兵が口を開く。その手にはハルバード。しかも手入れはされてるが、かなり使い込まれている。こりゃ、返答次第では斬りつけられかねない。あと特筆すべきは、この衛兵の頭にも大きな角が2本生えてはいる。飾りでは無く、間違いなく頭から生えている。
「遠くから来た。通行証は持って無いが街に入りたい。この毛皮を売りたいからだ」
毛皮を広げて狼だと分かり易くする。こいつが僕の生命線だ。多分この狼はこの世界の者が手を焼いていた害獣。その毛皮は何らかの効果があるはず。
「もしかして、それって、北の山のシャドゥウルフの主じゃねーか? 俺では判断出来ない。ここで待ってろ」
衛兵は城門の横の通用口を開けて入り、鍵を閉めて街の中に消える。
遅い、遅いな。もう1時間以上たったんじゃないか? 衛兵はもどって来ない。それだけじゃなく誰も来ない。普通だったら、街に出入りする人がいてもおかしくないと思われるのに。僕は地べたに座って待っている。衛兵が来たらすぐ立ち上がろう。
腹減ったな。ヤバい腹減って頭が働かなくなってきた。なんか食べるもの、食べるもの……
ん、そう言えば、キノコって食べ物だよな? 決して肉体強化に使ったり、鎧代わりに使ったりするものじゃない。なんで思いつかなかったんだ? キノコを召喚して食べればいいや。
「来い! 生でも美味しいキノコ!」
つい声に力が入る。そして、僕の手のひらに現れる大きいキノコ。巨大な松茸みたいだ。傘は開いてない。だが、香りが凄い。少し土の香りのような、けど心地よい香りがする。気付いた時にはもうキノコに噛み付いていた。うん、生のホワイトマッシュルームみたいだ。コイツの名前は『食用茸』にしよう。シャキシャキしたジューシーな食感。鼻を突き抜ける芳醇な香り最高だ。塩を振ればもっと美味しくなりそうだけど、それは贅沢だ。十分美味い。物足りなくて、1本、また1本と召喚して口にしていく。
「おい、お前、そんなにそのキノコは美味しいのか?」
高い涼しげな声に振り返ると、豊満な体を大事な所だけ隠した魔族の少女、僕をぶっ殺そうとしたルシアンがそこにはいた。
「うっぎゃああああああーっ!」
つい迸る悲鳴。そして、お尻をついたまま後ずさる。
「おい、喚くな、喚くな。取って食おうと言う訳じゃない。アナライズで安全は確認させて貰った。お前、街に入りたいんだろ。それならさっきのキノコを出せ、えっ、えっ! キャアアアアアーッ! キノコー!」
なんか途中からルシアンが両手で顔を覆って叫び出した。えっ? キノコ? 僕はまだキノコは出していないが? あっ、そう言えば僕はパンツを穿いて無い。今僕は足を開いてないから、ルシアンからは僕のキノコに似た宝具が丸見えだ。けど、もしかしてこれってチャンスじゃ? ルシアンをぶっ倒す。いや、僕は男だ。凶暴な魔族と言えど、恥じらっている女の子と戦う趣味は無い。
「すまない。悪気は無いんだ。ただ、パンツを無くしてしまって」
僕は立ち上がる。
「寄るな変態。は、初めて見てしまったわ……衛兵っ、衛兵! この者を取り押さえろ!」
通用門からワラワラとハルバードを持った衛兵が現れる。戦うか? いや、多勢に無勢だ。僕は両手を上げて降参の意を示す。




