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 第二部 魔国統一編 魔族


「喉が渇いたわ」


 目の前の魔族と思われる女性は、鈴の音のような軽やかな声を出す。若いな。それと安心した。間違いなく言葉は通じる。


 ごくごくっ。


 喉が鳴る音がする。僕に背を向けている女性は屈んで水を掬って口にしている。うーむ、何か悪い事した気になるな、この川にさっき僕は……まあ、けど、魚の餌になるか水に沈むなりしてるはずだから関係ないか。


「キャアアアアアアーッ!」


 目の前から絹を裂くような悲鳴。声をかけようか迷っていたが、僕は女性に向かって駆け出す。魔物か? それとも何らかの敵か?


「どうした!」


 女性は大事な所を隠して振り返る。太ももの付け根まで水に浸かったその姿はとても綺麗だ。顔は体型に似合わず幼い感じだ。女性というより、女の子だな。多分、僕と同じくらいの年なのでは? それにしてもデカい。その胸は右手から溢れんばかりにデカい。僕は生まれて初めて見る女の子のあられも無い姿につい目を逸らす。


「川に、川に汚物が! 魔物ですら、この神聖な命の川にそんな事しないのに!」


 ん、川に汚物?


 心当たりが有り過ぎる。確かに川の流れは緩やかだが、まさかいつの間にか追い越してるとか。


「て言うか、お前は誰だ! そ、それは山の主のシャドウウルフ!」


「ほう、デカいと思ってたが、まさかそうとはな」


「失礼な! 魔物のくせに! 人が気にしている事を。好きで大きくした訳じゃないわ! ジロジロ見るなこの下郎がっ!」


 そうだ、聞いた事がある。胸が大きい女性にその手の話はタブーだと。同性からも異性からもそれについてイジられるから、コンプレックスを持ってる事が多いと。


「違う! デカいって言ったのは狼の事だ! それより、魔物はどこだ?」


「魔物なら、私の前にいる。聞いた事があるわ。体内で増殖して人間や魔物を操るキノコの魔物がいるって」


「いやいや、魔物じゃないって。人間だって人間」


「問答無用! そんな全身にキノコを生やした人間なんかいるわけないわ!」


 む、自分的には格好良い鎧だと思っていたんだけど、他人から見たら化け物みたいなのか。鎧茸を脱ぐ事が頭をよぎるが、それは悪手だ。服、着てないもんな。そうだ! 股間だけ茸を残そう。ん、それって裸よりたち悪いんじゃ?


「ウォーター・ガン!」


 女性の声がしたかと思うと、その浸かってる腰の所から勢い良く水が飛び出す。なんかビジュアル的に良くない。めっちゃ激しいおしっこしてるみたいだ。水は僕を目がけて飛んでくる。所詮水だからかぶっても問題ないが、なんか気分が悪いからかわす。


 ゴトン!


 かわした水があたった木が軽く切断される。危ねー。なんて威力だ。いきなり殺しに来やがった。


「なんでかわすのよ!」


「かわすわ、ボケェ! 殺す気か?」


 つい、木に気を取られてしまったが、女の子の方を再び見る。


「キノコが取り憑いた死体のクセによく喋るわね」


 そう言いながら、ゆっくりと川を進んでくる女の子の体には木にかけてあったはずの服が纏われている。そして、その背にはまるでコウモリのような翼。


「だから、死体じゃないって。僕の話を聞いてくれ」


「死体じゃない? 死体はみんなそう言うわ! 安心して、貴方のキノコの胞子が飛び散らないように、骨も残さず焼き尽くしてあげるわ」


 女の子が右手を突きだす。


 死体はみんなそう言うわ、という言葉には違和感を感じるが。死体は喋らないから死体だろ。けど、ツッコむ余裕はなさそうだ。なんか辺りが暖かくなってきた。魔法か?


「キノコ系の魔物は炎に弱いって聞いた事があるわ。一発で仕留める。ルシアンの名において命ず。深淵より来たりて、全てのものを灰燼と化せ。出でよ『地獄の業火(ゲヘナ・フレイム)』」


 暖かいと言うよりも熱くなってくる。あいつの名前はルシアンって言うのか。呪文の前に自分な名前を宣誓すると、自己の存在がより高まり、魔法の発動を強力にするって聞いた事がある。元より魔力が高いと言われる魔族の全力の一撃。これってヤバいんじゃないのか?

 ルシアンが差し出して広げた右手の先に大人の頭くらいの大きさの火球が現れる。不味い。この距離でこの温度。間違いなく彼女が言った通り、骨も残さず焼き尽くされる。


「行け!」


 高らかな声と共に僕に向かってゆっくりと放たれる火球。多分かわしても関係無い。ここら一帯を焼き尽くす事だろう。筋肉茸、変化茸を体内に召喚する。


「どうりゃっ!」


 担いでいた狼の皮をルシアンに投げつける。狼の皮は筋肉茸の強化のお陰で、広がりながら火球の横を通りルシアンに迫る。


「最後のあがきね」

  

 ルシアンはかわし、皮は川に落ちる。一瞬、一瞬だけルシアンの目から狼の皮は僕を隠した。それだけで十分だ。


 辺りが急激に熱くなる。さっきの火球が爆ぜたのだろう。圧倒的な熱量が僕を包み混む。ヤバい。あれだけ硬い鎧茸だが、熱に対しては全くの無力だ。だが、死んでたまるか! 足搔いて、足搔いて、足搔いてやる。全身が刺されてるかのように痛い。召喚した回復茸をフル稼働させる。くうううううっ。意識が飛びそうだ。


「やり過ぎたかしら、地面にはシミしか残ってないわ」


 ルシアンの声を耳にしながら、僕の意識はフツリと途切れた。


 このお話は他サイトノベルピアさんで先行配信しております。下にリンクを張ってますので、ぜひお越し下さい。


https://novelpia.jp/novel/2658



挿絵(By みてみん)


 この表紙絵が目印ですっ!


 読んでいただきありがとうございます。


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