第二部 魔国統一編 泥臭い戦い
「形勢逆転だな」
僕は闇の中仁王立ちで狼がいると思える方を向く。相変わらず何も見えない。だが、奴の動きは手に取るようにわかる。
「グルルルルルルルルルッ!」
狼のうめき声が聞こえる。4本の足が地についているのが感じられる。後ろ2本にに重心がかかってるな。位置は僕の正面。飛びかかってくる気か?
いや、違う前足の感触が1本消える。後ろ足に力が入る。来たか。さっきの風魔法だな。だが、これじゃテレフォンパンチ以下だ。発射する瞬間と角度さえ分かれば、闇の中でも飛び道具をかわすのは容易い。
ヒュン!
鋭い音がするだけだ。僕は右前方に出ながらかわす。更に変幻茸の菌糸を伸ばす。今いるところの形、地形の凹凸までが手に取るように分かる。ここは広い円形で、出入り口と思われるところが一カ所あり、天井には大きな穴が空いている。
まずは、狼をなんとかするとするか。1回、2回、3回と風魔法をかわした時には、狼との距離はかなり近づいていた。また、狼が踏ん張る。来るっ。カウンター狙ってやる!
「ウオオオオオーッ!」
気合いと供に右手から変幻茸を伸ばし剣の形にして伸ばし、狼がいると思われるところを薙ぐ。手応えはあったが、キノコの剣はひしゃげてしまう。僕の力と狼の皮膚にキノコの剣は耐えられなかったみたいだ。狼は踏ん張るとその足の感触が消える。そして、僕からかなり距離をとったところに現れ、また風魔法を放ってくる。難なくかわすが、どうするか? いたちごっこだな。近づいてぶん殴るしかないか? けど、位置は分かっても目は見えないからそうそう当たりそうも無い。さっきはスキをついたからなんとかヒットしたが警戒されてるだろう。また、風魔法をかわす。
「グーキュルルルルルッ」
場違いに僕のお腹の音が鳴る。なんか無性にお腹が空いてきた。食べたものは戻してしまったし、多分、血をかなり失っている。それに、召喚したキノコ達のエネルギー源は僕自身。強力なキノコなだけに消耗は激しいのだろう。これはまずい、早くなんとかして、何か食べないと動けなくなるかもしれない。
逃げるか?
いや、通路は一直線だ。後ろから狙われたら風魔法のいい的だ。ここで決着をつけるしか無い。
ぼくは目を閉じ、変幻茸の菌糸に集中する。出来るだけ、最少の動きで風魔法をかわしつつ、前にでる。そして、また再び狼が前足を振り上げたと思われる。
ここだっ!
頭を庇いつつ、風魔法に突っ込みながら、地を這うように狼に突進する。腕に走る鋭い痛み。頭にもかすったみたいだ。危ねー。ゴリッとした感じ、多分頭蓋骨が削られた。気が大きくなって冒険しすぎたな。
狼はさすがに真っ正面から来るとは思っていなかったみたく、その体に激しくぶつかる。僕と狼は抱きつきながら、地面を転がる。むせかえるような獣の臭い。顔をしかめつつ必死にしがみつく。コイツデカすぎだろ。地面を僕が上になったり下になったりしながらもなんとかしがみつく。どこを握ってるのか分からないが、毛むくじゃらなものを掴み、何とか上になり、怒濤の如く頭突きをかませてやる。嫌そうに狼はのたうちまわる。効いてるぞ。
「キャイン! キャイン!」
ヌメッとしたものにいいヤツが入った。狼の鼻頭か? 情けない声をあげてやがる。所詮犬畜生だな。
「おら、おら、おらぁ」
気合いを入れながら、更に頭突きを連打する。なんか頭は僕の血か狼の血か分からないけど、ドロドロで、目にもなんか入ってくるが、闇の中なので気にならない。けど、タフなヤツだな。僕のマッスル頭突きの連打を食らってるのにもかかわらず、全くその力が弱まらない。気を抜くと逃げられそうだ。
「ウガッ!」
僕の口から苦悶の声がもれる。や、やられた。首筋に狼の牙が食い込む。狼はのたうちまわりながら、体勢を整えてたのか!
まずい……
この空腹の中、更に血が失われていく。狼の口に手をかけて、なんとかその咬合力を押さえる。だが、力が抜けていく。変幻茸は狼の皮膚を貫けなかった。だが、柔らかい口の中なら?
僕はゆっくりと指先から変幻茸の菌糸を伸ばす。そして菌糸は狼の口に滑り混み、柔らかい口の中を突き破り、その菌糸をその体全体に伸ばしていく。
「ガフゥ」
一声上げて狼から力が抜ける。菌糸を使って狼の体を動かそうと試したが、相手の力が強すぎて無理だった。それゆえ、ひと思いに狼の頭の中をかき乱してやった。
「ふうっ……」
僕はほうほうの体で狼の体の下から抜け出す。とにかく腹が減った。何か食べないと。光茸の明かりが辺りを照らす。狼が死んでその闇を張り巡らせる魔法か何かが消滅したのだろう。目の前に狼の死体。これを食べるしか無いか……
変幻茸を使って、狼の肉をその口から出させる。それは見ていてとっても気持ち悪いものだったので、見ないようにする。なんでそんな事してるかと言うと、今の僕は全裸だ。狼の皮をなんとかして着るものにしたいと思ったからだ。そして、その結果、血生臭いグズグズの肉と狼の皮が僕の目の前に山積みされている。




