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 第二部 魔国統一編 古い酒場の片隅で


 読んでいただける方が多いので、しばらくこちらでも連載していく事にしました。楽しんでいただけてたら幸いです。


「ねぇ、アシュー。もし良かったら、奈落に落ちてからどんな事があったのか教えてくれない?」


 フレイヤがグラスを回して氷をカラカラ言わせながら口を開く。その顔は若干上気している。もし、俺とフレイヤが初対面だったとしたら、俺は何かにかこつけて彼女と知り合いになろうとしただろう。要はナンパだな。けど、俺はコイツの中身を知っている。残念食いしん坊女、しかも最近下半身がぽっちゃり気味だ。

 けど、正直、酔っぱらっている彼女は色っぽい。少し目がトロンとしてるのが俺的には可愛らしい。まあ、けど、フレイヤは酒に強いからほろ酔い程度だと思うが。


 俺はクイッと酒を煽る。喉から胸に熱いものが流れていく。カッと体が熱くなる。それはまるで戦場での高ぶりのようだ。けど、悲しいかな。俺はほとんど酒には酔わない。いや、酒のみならず、毒や薬なども全く体に影響を及ぼさない。体全身に張り巡らされている、キノコの菌糸が俺に有害なものを直ぐエネルギーに分解してしまうからだ。その状態異常無効茸を体に宿してからは、俺は酒の恩恵には与れない。だが、少しは調整出来て、今は状態異常無効茸の力を押さえているから、若干酔った気分を味わっている。


 今、俺たちがいるのは、歴史ある古い街のいつから存在してるのか誰も知らないような古くからある酒場。中央の生きてる巨木を柱にした落ち着いた雰囲気の木造建築で、店内は中々の賑わいを見せている。俺たちはその片隅でとぐろを巻いている。仕事が成功したと思われる騒々しい冒険者らしき一団。熱心に語り合う商人のような人達。逞しい体の騎士か衛兵と思われる暑苦しい集団。全員に共通することは今、この時間を楽しんでいると言うことだ。そして、入り口では眉目秀麗な吟遊詩人の男が、リュートに合わせて、いにしえの英雄の勲を讃えている。適度な喧噪と程よい音楽。その調和がここに人を招き寄せてるのだろう。


「ねぇ、アシュー、聞いてるの?」


「ああ、すまん。店内を見ていた」


「何よ、こーんな美人を目の前にして、言うに事欠いて店内を見てたーっ?」


 フレイヤがずいと顔を近づけてくる。近い近い。俺の中では自分の事を美人とか言った時点でそいつは美人では無いと見做す。


「うががががががががっ!」


 フレイヤが奇声を上げながら後ろに下がる。顔を鷲掴みにされて、その鼻の中に2本の白い指が引っかかっている。鼻フックか見苦しいものを目にしてしまった。


「何するのよ!」


 フレイヤが鼻を押さえて振り返る。そこには、豊満な体をゆったりとしたローブとマントで隠した蠱惑的な美女。魔界が誇る十指魔王(テンフィンガーズ)の内の1人、【1の指】魔道指のルシアンだ。その特徴である角は頭から消えている。何らかの魔法だろう。


「茸王様に対して無礼が酷すぎますわ」


「だからって、鼻に指突っ込むんじゃねーよ」


「指? そんなもの突っ込む訳ないですわ。汚らわしい。お前の鼻に入れたのは茸王様からお預かりしていた貴重な茸の菌根の錠剤ですわ」


「余計たち悪いわ。そないなきっしょいもの人の鼻に入れるなや!」


「お前が酔っ払い過ぎてるからですわ。さっきのは状態異常無効茸の菌根。ほら、酔いが覚めたでしょ」


「あっ、そう言われてみれば」


「相変わらず素晴らしい効能ですわ。それが引き起こすのは伝説の霊薬『エリクサー』にも引けを取らない奇跡。どんな毒物でもたちどころに分解してしまうのですわ」


「で、副作用は無いの?」


「若干、毛が伸びます」


「え、毛が伸びる?」


「その状態異常無効茸の菌糸は死滅するとき最後に動物の全身の毛根に活力を与えて増殖を促進します。とは言っても個体差があって長くても一センチくらいしか伸びませんわ」


「お前、今、確かに動物って言ったよな? 人間には試した事まだ無いのか?」


 フレイヤがギラギラした目で噛み付く。


「光栄に思いなさい。茸王様以外では初めての被験体ですわ」


「ぶっ殺す!」


 立ち上がろうとフレイヤはするが、その動きが途中で止まる。ニョキニョキとフレイヤの髪が伸びる。さすがフレイヤだ。聖女なだけある。毛の伸びは多分三センチはいけてるんじゃないか。

 その顔は激しい事になっていて、モッサーとした眉にやったら長い睫毛、鼻からフッサーと鼻毛が出ている。これはあれだな、オッサンとかが忘年会とかで笑いをとるためにやる扮装みたいだな。


「ハハハハッ! さすがフレイヤ美人だな。美人は何しても似合うな」


「アシュー、笑ったわね。他人事だと思って」


 フレイヤは立ち上がり俺の胸ぐらを掴む。


「さすが、俺のキノコはいい仕事をするな。フレイヤ、顔を見てみろ、いや、見えんか触ってみろ」


 フレイヤは自分の顔をペタペタ触る。特に鼻の下を念入りに。


「ギャゥアアアアアーーッ!」


 フレイヤはけたたましい叫び声と共に走り去った。多分化粧室に向かったんだろう。


「茸王様、少しお暇させて頂きます。フフフッ! 顔であんな感じなら、体はどんな事になってる事やら。武士の情けですわ。ハサミと髭剃りを貸してやってきます」


 フレイヤと対照的に、ルシアンはしずしずと歩いていく。けど、その歩調はリズミカルでどうやら上機嫌みたいだ。


 そして、しばらくして、フレイヤは元のフレイヤになって戻って来た。顔が野犬のようにやさぐれてる。聖女なのに。



 このお話は他サイトノベルピアさんで先行配信しております。下にリンクを張ってますので、ぜひお越し下さい。


https://novelpia.jp/novel/2658



挿絵(By みてみん)


 この表紙絵が目印ですっ!


 読んでいただきありがとうございます。


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