王にふさわしい玉座
「俺のキノコを舐めるなよ!」
俺は最高玉座茸に悠然と座り、辺りを睥睨する。
「はいはい、誰も舐めないと思うわよ。むしろ舐める人がいたら見てみたいわ」
相変わらず意味不明な事を? フレイヤは地面にあぐらをかいて座っている。自称三国一の聖女の割には品が無いな。一応戦闘中だというのに緊張感が無いヤツだ。
今、俺が座しているのは最高玉座茸。このキノコだけは俺専用だ。大人が手を伸ばして二抱えくらいの太い立派な軸の上に立派な傘が開いている。その傘は椅子の形をしており、肘掛けもあって、俺の体を優しく受け止めてくれる。傘の色は夕焼けのような紅色。まるで、俺の今までの血塗られた歴史によって彩られているようだ。傘の下の軸は新雪のようなシミ一つ無い純白で俺の心の中を表しているように思える。この最高玉座茸の最高たる所以は、俺の意思によって軸の長さが変幻自在だという事だ。今日のように人の背以上の高さから辺りを眺めたり、少し疲れたときにソファ代わりにくつろいだり、果ては戦乱とかのさなかに天を衝く程伸ばして遠くを見通す事とかも出来る。まあ、あんまり伸ばしすぎたらかなり風によってしなるので、俺じゃなかったらかなりの恐怖を感じる事だろう。もっとも、数度、転落してるしな。
閑話休題、俺の目の前にはオークの集団がいる。二足歩行の豚顔の魔物。それが武装してまるで盗賊団よろしく近隣を荒らし回っていた。それにより冒険者ギルドによる緊急討伐依頼が発生し、俺たちは急いでここに駆けつけた。討伐するなんてもったいない。このブタ共は、人間世界では害悪以外の何ものでも無いが、俺の魔界では多分最高の労働力になるだろう。かなりガタイもいいしな。食い物さえ与えていれば、精力的に動き続けるそうだから、俺のキノコ牧場での働きに期待出来る。
「踊れ、増殖茸!」
俺の口から発せられた聖句に呼応して、オークの体の至る所からキノコが生える。最高玉座茸を通りここら一帯の地面には余す所無く、俺のキノコの菌糸が張り巡らされている。そして全てのブタ共には既に大地からキノコの菌糸を打ち込み終わっている。目、耳、そしてその自慢のブタ鼻の穴の中からモリモリとキノコが生えブタ共は恐慌状態に陥る。しばらくブタ共はもがき続けたが、一体、そしてまた一体と動かなくなる。しぶとい奴らだ。こりゃ期待出来る。
「ロザリンド! コイツらを牧場に連れて行け!」
「ひゃえっ!」
フレイヤが奇声を上げる。そのフレイヤの影から、可愛らしいゴスロリ幼女が現れる。コイツら、フレイヤで遊んでやがるな。彼女の名前はロザリンド。十指魔王のうちの1人で、影を操る能力を持つ。
「はい、畏まりました。茸王様」
堂に入ったカーテシーを披露し、その顔をブタ共に向ける。
「影よ、我が意に沿って、理を変革せよ。此の地と、彼の地を我が力もて繋ぎたまえ」
ロザリンドの口から唄うように高らかな声が発せられる。さすがにこの数だと呪文の詠唱が必要みたいだな。そして、ロザリンドの唱えた力ある言葉に呼応し、オーク共の体はズブズブと影に沈み始める。そして、オーク共が消え去ったのと時同じくしてロザリンドも消え去った。
「ご苦労」
一応ロザリンドに感謝の意を表す。部下への労いは大事だからな。言い忘れると、すぐ、拗ねやがるからな。
「アシュー、降りて来てよ」
下からフレイヤが俺を呼んでいる。しょうが無いな。俺は最高玉座茸の軸を縮めてる。そして最高玉座茸の傘は地面に付く。
「オークたち、牧場に送ったの?」
「ああ、牧場だ。未だに人手不足だからな」
「オークって人のいう事聞くの?」
「まあ、そんなのはルシアン達に任せとけば大丈夫だ。あいつらはそういうの得意だからな」
「そうなのね。どういう方法なのかは敢えて聞かないわ。それよりあたしも疲れたわ。あたしにも椅子出してよ」
「疲れたも何も、お前、何もしてなかったじゃないか?」
「ここまで走って来たじゃない」
「少しだけな。ほぼジェット茸の上だっただろ」
あんまりにもフレイヤが走るのは遅いので、俺は痺れを切らしてフレイヤをジェット茸の傘に固定してここまでは飛んで来た。
「せめて、次はキノコにまたがらせて。ん、あんまり表現が良くないわね。キノコに乗せて。これもなんだかな。まあ、要はキノコの傘の一部にするのだけは止めて」
「そうか? はしゃいで楽しそうだったじゃないか。ルシアンなんか笑い転げてたみたいだぞ」
「はしゃいどらんわ。死ぬかと思ったわ!」
なんかフレイヤがエキサイトし始めてるから、取り敢えず落ち着かせてやろう。
「ほら、とりあえず座れ」
「あ、ありがとう」
フレイヤは俺が出した椅子型のキノコに座る。
「じゃ始めるぞ」
フレイヤの椅子の肘掛けから触手が伸びてフレイヤの手を固定する。結構みんな暴れるからな。
「俺の自慢のキノコだ。電気治療茸だ」
コイツは疲労回復にとても良い。
「あばばばばばばっ!」
フレイヤが白目を剥いて叫ぶ。これは女子がしていい顔じゃないだろう。取り敢えずこれくらいにしてやるか。
「どうだフレイヤ、疲れがとれただろ」
「取れる訳あろかい。何が悲しくてこんな所で処刑されにゃあかんのじゃ。これって一昔前に囚人を処刑してた椅子だろ!」
手の拘束を解いてやったので、フレイヤは立ち上がり襲いかかってくる。甘いな。俺は最高玉座茸の軸を伸ばして回避する。フレイヤはガシガシとキノコの軸を殴っている。
「ほら、元気になったじゃないか」
「あ、そうね。そんな事より、今すぐ降りてこんかい! ぶっ飛ばしたる!」
何が気に食わなかったのか、それからしばらくフレイヤは猛り狂っていた。




