わいばーん
「キャアアアアアアーーーーッ!!」
あたしの叫び声が大空に響き渡る。あたしの名前はフレイヤ。王国一の聖女にして、眉目秀麗、文武両道の才媛だ。自惚れてる訳じゃないわ。あたしがそう言ってる訳じゃなく、周りからそう呼ばれているのよ。
「クゥエーーーーーッ!」
上から、低い鳥のような鳴き声が聞こえる。もしかして今の叫び声って、黙れとか、暴れるなという意味なんだろうか? いや、それは無いだろう。アイツにそんな知能があるようには思えない。
あたしは今、高速で大空を駆けている。誰しも生まれてから一度は空を駆け巡りたいと思った事はあるはずだ。けど、あたしの今の状態はそんなにロマンティックなものじゃない。背中をガシッと大きなかぎ爪で掴まれて、空中をプランプランしながら運ばれている。よかった胴鎧を装備してて。これって窮屈だけど、もし装備してなかったら、あたしは背中が血塗れだっただろう。あたしを運んでいるのはワイバーン。俗に言う翼竜というものだ。決してあたしを好意をもって運んでくれている訳じゃない。
数日前、ここの近隣の村であたしたちはとある討伐依頼を受けた。最近、村の家畜をワイバーンが攫って困ってるから退治してくれというものだ。報酬はそこまで良い訳では無かったけど、それに村で1番美味しいチーズが付くとの事で、あたしたちは二つ返事で引き受けた。
村人たちに詳しく話を聞いたところ、そのワイバーンは村の外れに現れて、人が居ない時を見計らって家畜を攫っていくそうだ。慎重な奴らしく、反撃を警戒してか、人間がいる時は犯行に及ばないそうだ。今まで攫われたのは丸々太った家畜だけで、一度も人間を攫った事は無いという。あたしが今まで聞いた話では、ワイバーンは悪食で人、動物、魔物とか種族とか関係無くなんでも連れ去って食べるって言われてた。なかなか殊勝な優しいワイバーンだ。
ん、なんかおかしい。
前言撤回、という事は、このワイバーン、あたしの事を丸々太った家畜とみなしてるって事? なんて失礼な奴だ。たしかにあたしは全体的に白くてモチモチしてるけど家畜じゃないわ!
けど、このままだと、あたしの末路は家畜と一緒だ。多分食われる。巣穴に連れ込まれて食われる。ああ、それだけは勘弁して欲しい。死んでたまるか! けど、巣穴に連れ込まれて食われるってなんかエッチな表現よね。あたしはまだそういう事一度もした事無いのに……今まで何回かチャンスはあったけど、そういう時にはいつもどこからともなくルシアンって言う痴女が現れるのよね……
けど、あたしは全く心配してない。あたしにはとっても優しくて、格好よくて、強力無比な仲間がいる。んー、仲間って言うより友達以上、恋人未満って感じかな。その彼がきっとあたしの事を助けてくれるはず。
彼の名前は「アシュー・アルバトロス」。いや、そう言えば彼はアルバトロスの家名を捨てたんだった。今の名前は「アシュー・フェニックス」。自分の苗字をフェニックスにするなんて、少し、いやかなり中二入っているけど、彼にはその名前がふさわしい。
どんなにやられても彼は文字通り「不死鳥」の名にふさわしく何度でも復活する。正直、腕が取れたり、足が取れたりしても、継ぎ合わせたら直ぐにくっつくのはドン引きだけど、凄いと思う。どんな体してるのよ。けど、そのお陰で、あたしの卓越した回復魔法の出番が無いのは少し不満だ。
「んー、遅いわね。アシュー、早く助けに来なさいよ」
少し不安になってきたので、つい思いが口をつく。
アシューは奈落から飛んで戻って来たって言ってたから、空を飛べるとは思うけど、ワイバーンの飛ぶスピードは速い。もしかして、引き放されたりしてたりして……
いや、アシューに限ってそんな事は無いはず。きっと、白馬に乗った王子様よろしく、颯爽とあたしを助けてくれるに違いない。そして、あたしは彼の胸に抱かれて大空を駆け抜け、心と体の距離が縮まったあたしたちは……
「キャーーーッ!」
あたしはつい顔が緩む。早く、早く来ないかなアシュー。けど、今あたしスカートだ。下からは丸見えだわ。アシューが来た時には隠さないと。恥じらいは大事よ大事。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーッ!
なんか遠くから炎が燃えさかるような音がする。なに? なんなの?
え!!
あたしは首を回しなんとか音がする方を見る。何かが白い真っ直ぐな雲を後ろに吐き出しながら高速でこっちに近づいてくる。
「え、キノコ?」
それは大きなキノコだった。そして、そのキノコの上にしがみつくかのようにまたがる人物。キノコの石突きの所から炎が噴き出していてどうやらそれで飛んでいるみたいだ。そのキノコは松茸みたいな型で色は茶色。ここからは、まるで、アシューが大きな男のシンボルにまたがっているようにしか見えない。
「ギャアアアアアアーッ!」
ついその悪夢のような光景に口から叫びがほとばしる。ヤバい、アレはヤバすぎる。変質者。変質者にしか見えない。しかもそのキノコがみるみるあたしに迫ってくる。
「凄いだろ! 俺のジェット茸」
良く通るアシューの声がする。なんだよそのジェット茸って、何でもアリか?
「来ないでーーーっ!」
あたしの願い虚しく、アシューのキノコの先端が全く減速せずにあたしにぶつかってくる。そして、ワイバーンはあたしからかぎ爪を放す。そして、あたしは頭からまっ逆さまに落ちていく。
「死ぬ、死ぬ、死ぬわ!」
死んだら絶対化けて出てアシューを呪って呪って呪いまくってやるーっ!
「デスベリー! やれ!」
アシューの声と供にあたしの体が何かに包まれる。そして、急に落下が止まる。あ、そう言えばデスベリーって言うスライムの魔王があたしを守ってくれてたんだった。反転した視界の中見渡す。あたしはどうやら巨大なワイバーンから頭だけ生えてるみたいだ。しかもあたしの頭の位置はワイバーンの両足の間だ。あたしは「ピー」じゃねーわ!
「なんて事してくれるのよ」
「逆さまだから、しょうが無い」
デスベリーの声がする。この魔王も絶対あたしの事嫌ってるに違いない。
そして、デスベリーはサクッとワイバーンを倒した。やれるなら早くやれよ!
「どうしたフレイヤ。お前が大好きな肉キノコしめ鯖味だぞ」
地上に戻ったあたしが不機嫌だから、アシューがしきりにご機嫌取りしてくる。
「いらない!」
もうちょっと持てよ。デリカシー……
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