14話 茸王アシュー・フェニックス
「キャー、アシュー!」
フレイヤの悲鳴が聞こえる。
「ヒャーッハッハッハッ! ここの床は全て魔道具の力で俺の意思で落ちるようになってんだ。あいつはお陀仏だ。お前は今から俺がたっぷり可愛いがってやるぜ」
アレックスの声が聞こえる。馬鹿な奴だ俺よりデスベリーの方がたちが悪いのに。
「キャー!」
フレイヤの悲鳴だ。
ドガガガガガッ!
「うががっ!」
バキッ!
「ぎゃーっ!」
ベシッ!
「ごふぅ……」
破壊音の後にアレックスの奇声が聞こえる。派手にやられているな。そろそろいいだろう。俺は玉座に座ったまま上に上がる。茸の菌糸が床ごと引き上げていく。ほどなくして俺は上の階に戻る。床はみるみる修復されていく。
「アシュー、なんなのこれ?」
フレイヤは銀色のスーパーマッスルボディに体をつつまれている。首から上は元のままだ。思わず失笑してしまう。
その前には無残に手足を変な方向に曲げたアレックスがいる。
「デスベリー、ご苦労だったな。戻れ」
フレイヤを覆っていた体が溶けて床を伝って人型になる。そしてそこにはゴスロリ服の大きなリボンをつけた少女が現れた。
「茸王様の十指、【5の指】デスベリー、命によりあなたを守る」
フレイヤそう言い残すとデスベリーは消え去った。俺の言いつけ通りフレイヤの守護任務に戻ったのだ。
「なにあれ、いきなりあたしがマッチョに……よかった誰にも見られて無くて」
残念だが、俺は確かに見た。フレイヤの雄姿を。
「俺の部下の鋼のデスベリー、メタルスライムの魔王だ」
「もう、なにがなんだかわからないわ」
フレイヤは床にへたり込む。
「全くだ、なんでお前下に落ちてない? なんでまだ座ってやがるんだ?」
アレックスは俺が回復茸で怪我を治してやったのでふらふらと立ち上がる。
「さっきのフレイヤが言った事は半分も言い当ててない。俺の手から伸びた茸の菌糸は屋敷跡全体に張り巡らせれていて、この屋敷の全てのものを操ることが出来る」
「な、何だと、これ以上お前のような化け物と付き合ってられるか!」
アレックスは姿を隠して逃げ出す。
「ヒイッ!」
アレックスは悲鳴をあげ現れる。
アレックスの両足を変形茸の触手が絡め取っていく。そして全身を絡め取る。
「隠れても無駄だ、飛ばない限り、お前は俺の茸に触れているのだからな」
俺は髪を掻き上げ、今まで俺に敵対してきた者共をことごとく震撼させた言葉を紡ぐ。
「わが名はアシュー・フェニックス。俺の茸をなめるなよ!」
俺はアレックスに指を突き付ける。決まったな!
「だ、誰がお前の茸なんか舐めるかよ……ま、まて、お前の望みはなんだ。命だけは助けてくれ」
アレックスは涙を流して哀願する。
「アシュー、その決めゼリフ格好よくないわよ、むしろ最悪ね……」
フレイヤはそっぽを向く。む、なんか俺の言葉に問題があったのか? 女心は解らんな……
「では問おう。お前は誰に雇われたんだ?」
気を取り直し、俺は鷹揚と口を開く。
「言えん! それだけは言えん!」
俺はアレックスの中の菌糸を操作する。ちなみに屋敷に菌糸を張り巡らせた時に屋敷の全ての者に菌糸を埋め込んでいる。要はこの戦い自体が茶番で、始まった時にはもう決着が付いていたのだ。
「うおっ、うおっ」
アレックスは身もだえる。
「お前もさっきのケニーみたいに全身茸になりたいのか?」
下からどんどん茸を生やしてやってまずは右耳、右の鼻の穴、右目と茸を生やしてやる。まあ、この寄生茸は湿気った所に生えるだけで実害もなくしかも美味しく食べられるのだけど、こういう使い方をすると効果抜群だ。
「待って、待ってくれ。王都のお前の親父と兄貴とアッシュと言う奴だ」
な、なに……
俺は言葉につまる。アッシュ、アッシュだと?
「嘘だ! アッシュ、アッシュがそんな事する筈がない!」
つい俺は叫んでしまう。そうだそんな筈は無い。
「本当だ、うぼぼぼぼぼっ!」
俺はアレックスの体の中の菌糸を活性化させる。両目に生えた茸で視界をふさぎ、両耳の茸が聴覚を奪う。両方の鼻の穴からは止めどなく茸が湧き出し、口の中からも溢れんばかりの茸が生える。五感の内の四つを奪われ、息をするために口から生える茸を必死で掻き出す。
人間としての尊厳は失われ、アレックスが意識を失うのには大して時間はかからなかった。倒れたアレックスの下には水溜まりが広がる。
「あ、アシュー、殺したの?」
フレイヤが呟く。
「殺すわけないだろう。こいつの地獄は始まったばかりだ」
俺は立ち上がり、マントを翻す。




