13話 王とドブネズミ
「え、どこ? あいつ何処にいったの?」
フレイヤが狼狽えている。
「お前に俺は見えないだろう。暗殺者の能力の真骨頂、認識阻害と気配遮断だ。己の無力さを噛み締めて地獄に帰れ」
アレックスは高速で移動しながら声を出している。居場所を気取られないようにだと思うが、そんな大変な事してまで俺にドヤりたいのだろうか? 馬鹿なのか?
「ああ、見えないな。それがどうした」
「なに余裕ぶっこいてやがる。まず手始めにこの聖女様の両手両足を切り落としてやる。そして次はお前の両手両足を落として、泣き叫ぶお前の前で聖女様をぐちゃぐちゃにしてやる!」
「あんたなんかにやられてたまるか!」
フレイヤは拳を握って構える。
「出来もしない事をほざくなドブネズミ」
俺は座ったままアレックスに顔を向ける。
「なにっ? 見えてやがるのか? そんな筈はない。まずは女から血祭りに上げてやる」
アレックスはフレイヤに向かって駆け出すが突きだした床に足を取られて転倒する。そして姿を現す。顔を強打したのか無様に鼻血を垂れている。
「チッ、俺様としたことが。行くぞ!」
またアレックスは消えるが前に出たとたんに高速で剥がれた天井がその頭にぶちあたる。そしてまた姿を現す。
「なんなんだ、もう一度……」
アレックスは姿を消し俺の後ろに回るが今度はその後頭部に剥がれた壁が飛んできて命中する。
「なんなんだ、お前は何をしているんだ?」
後ろから焦燥したアレックスの声が聞こえる。こいつはとんだ期待外れだな。もう少し強いかと思ったのだが。デスベリーは過剰戦力だったかな。
「アシュー、あなた何してるの、あたしも知りたいわ」
フレイヤは安心したのか構えは解いている。
「自分で考えろ。ヒントをくれてやる」
俺は肘かけに置いていた左手を離す。指の先から伸びた糸が玉座を伝って床に刺さっている。見やすいように糸を太くしてやる。
「糸? 床に続いている。と言うことは糸を張り巡らせてそれでいろいろ操ってたのね」
ほう、フレイヤはなかなか勘がいいな。
「なんだと、そんな話聴いた事無い。凄まじい力だな。すまなかった。俺は謝るから、お前俺と一緒に暗殺者ギルドを牛耳らないか? お前となら間違いなく裏の世界を征服する事が出来る。凄いぞ、なんでも思いのままになるぞ」
アレックスは顔の傷跡を真っ赤にして興奮している。なにがそんなに楽しいんだ?
「アシュー、ダメよそんな誘いにのったらろくな事にならないわ」
フレイヤは俺に必死に訴えかける。
「女はすっこんでろ。それでどうなんだ答えろよ」
アレックスはフレイヤに怒鳴ったあと、俺に気持ち悪口笑みを向ける。器用な奴だな。安っぽいな。
「黙れドブネズミ。ネズミの王国なんかに俺は興味ない」
俺はアレックスを一瞥する。
「そうか、残念だな。あばよ」
俺の回り一帯の床がぬけ、玉座もろとも俺は槍衾を敷き詰めた階下に吸い込まれて行った。




