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 11話 ふさわしい玉座


 俺は貧民街に不相応な見た目はぼろっちいけど大きな屋敷の前に立つ。おいおい、闇の住民のアジトにしては目立ちすぎだろ。


 昔の知り合いに会いに行くだけだからついてくるなと言ったのだが、フレイヤはしつこく付いてきている。


「ここから先は危険かもしれない。お前はもう帰れ」


「ただ知り合いに会いにいくだけなんでしょ、なんの危険があるの? それに危険ならあたしが守ってあげるわよ」


「………好きにしろ」


 俺は屋敷に入る。だがそれと同時に念話を飛ばす。


『デスベリー聞こえるか? こいつを守れ』


『御意に』


 十指の【5の指】鋼のデスベリーにフレイヤを守らせる。過保護かもしれないが暗殺者ギルド相手だ用心に越した事は無いだろう。


 俺はまず建物内をくまなく眠り茸の胞子で満たす。これで一定能力以下の雑魚は眠ったはずだ。屋敷に入り屈んで床に触れる。


「アシュー、なにしてるの?」


「床に触れている」


 建物は石と木で出来ているみたいだ。好都合だな。触れた手から茸の菌糸を張り巡らせて探知する。


「なんのために床にさわってるの?」


「何でも聞くな、自分で考えろ」


 3階の南の部屋に反応がある。そこに行くか。全て屋敷の構造は頭に入った。一直線にそこに向かう。


「わかったわ、細かい振動でどこに人がいるか探ってたのね」


 中々鋭いな。


「まあ、似たようなものだ」


 まあ、もっともそんな可愛らしいものでは無いがな。


 ほどなくして目的の部屋に到着する。


 大広間の中央に装飾華美な玉座みたいなのがあり、それに向かって入り口から赤絨毯が続いている。


 王の謁見の間みたいだな。ドブネズミの分際で王にでもなったつもりなのか?


 物陰に人が隠れているが、気付かないふりをして玉座に近づく。まあ気が効いてるとも言えるな。俺のために玉座を用意しているとは。


 俺は玉座に座り肘掛けに肘をつき足を組む。


「ちょっと、アシューいきなりなにくつろいでるのよ!」


「なーに、俺にふさわしい椅子があるから座っただけだ。出てこいドブネズミ」


「キャッ!」


 俺とフレイヤの間に突然に人影が現れる。


「お前は誰だ? そこは俺様の席だと知ってて座ってるのか?」


 顔に見覚えのある切り傷。この2年間1度たりとも忘れる事が無かった顔だ。自然に頬が緩む。


 やっと念願が叶う。奴は天井に隠れて俺達を見ていたのだろう。


「ドブネズミ、その年になってヤモリごっこか? 立派な玉座を作っても所詮ドブネズミ。こそこそする卑しい心は変えられないみたいだな」


「な、何を言ってやがる。お前は、確かアシュー、アシュー・アルバトロス」


 アレックスの目が驚愕に見開かれる。


「その名は捨てた。今の俺の名は魔道王アシュー・フェニックスだ。まずはお前に礼を言おう。汚い唾を吐きかけてくれてありがとう。汚いダガーで刺してくれてありがとう。お陰で力に目覚める事が出来た。お前の絶望の顔を夢見て地獄を耐え抜く事が出来た」


 俺は一呼吸おき、深々と頭を下げる。


「アレックス、本当にありがとう」


 そして頭を上げ口の端を上げて、アレックスの目をじっと見つめる。


「お礼に最高の絶望を与えてあげよう」


 俺は心の底からの笑顔をアレックスに向けた。

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