プロローグ2・違う景色
僕は、目の前の少女の言っている事が理解が出来なかった。それこそ、自分が聞き間違えただけなのではと思う程に。
「すいません。よく聞き取れませんでした」
「なんで、そんな人工知能みたいな言い方するの?」
千寿は軽く首を傾ける。
「いや、聞き間違いだと思うんですけど。君が、僕の残りの命を年単位10万円で買い取るって聞こえたもので」
「確かにそう言ったよ?」
「は? それは、どういう事?」
彼女は、面倒くさそうに頭をかく。
「やっぱり説明しないとダメか……」
「……お願いします」
その時。まるで見計らっていたかのように、雨が降り出してきた。たとえ今が夏だとしても、夜に濡れた身体で外にいると風邪をひいてしまうだろう。
しかし、そんな事は、龍化にはどうでもよかった。
所詮、今から絶とうとしていた命。千寿に声をかけられていなければ今頃死んでいた命。
本当にどうでもよかった。
たった一歩を踏み出す。それだけでいい。
なのに。
「あ……、れ?」
それなのに。
「……な、んで?」
その一歩がとても重く感じた。
クスりと、後ろから小さく笑う声が聞こえる。
「ねぇ、君。今、死にたくなくなったでしょ?」
「うん。なぜだか分からないけど、今は絶対に死にたくない」
そう、と彼女は軽く答える。
先程まで見ていた景色が、また違った風に捉えることができた
自然と笑顔がこぼれる。
その時。ひょこっと、隣から千寿が顔を覗いてきた。
「な、何だよ……」
「君、いい笑顔するね」
「んなっ!」
何だか照れくさくなり、思わず顔をそらしてしまった。