プロローグ1・いらない命
僕は、マンションの屋上の縁に腰を掛けていた。
下を見ると。仕事帰りの人達が群れを作っている。時計の針は、夜の11時を指していた。
「即死できるかな……」
小さく呟いた。
そう。僕は今から自らの命を絶とうとしているのだ。
飛び降り自殺。それは、最も突発的に起きる自殺であり、精神的に追い詰められた人間が主にとる行動。
しかし、僕の場合は違う。予め日時と場所を決めていたし。特に精神的に追い詰められていた訳では無いのだ。
では、なぜ自殺をしようとしたのか。
それは、たった一言で表せる程度の物だった。
「興味が無いなー」
この先の自分の人生。これからの世の流れ。新たに来る何か。それらを含めて全てへの興味が失せてしまったからだ。
その程度で?と思われるかもしれないが、ヒトという生き物は、その程度が無ければ生きていけない生き物なのだ。
一度ため息を吐くと、ゆっくりと立ち上がった。そして、一歩を踏み出そうとする。たったその一歩だけで、自らのつまらない人生とおさらばできる。
その一瞬前。
「ねぇ、そこの君! 今、死のうとしてる?」
後ろから、声がした。
声の方向に振り向くと、そこには、同年代の少女がいた。
「……君は? もしかして自殺を止めに来たのか? それなら意味は無いよ。僕は誰が何と言おうと死ぬから……」
「アハハ。私、そんないい人じゃないよ?」
「え?」
予想外の返答に、思わず変な声を出してしまった。
彼女は笑いながら、ポケットから分厚い封筒を取り出す。
そして、不気味な笑みを浮かべた。
「1年10万円でいいかな?」
「何がですか?」
「そ、そうだよね! 説明は必要だもんね?」
彼女は腕を上げながら大きく深呼吸をした。
「私の名前は、佳元千寿。君は?」
「……境龍化」
「オッケー。なら、単刀直入で聞くね? 龍化」
そう言うと、千寿は、手を広げて、宣言するかのように言った。
「君がこれから生きることができた時間を、年単位10万円で私に売ってくれないかな?」