香月 芽紅美、江ノ川 希空、檀宗寺 元
エリザベスの視線の先には枸橘女学館の一期上になる香月 芽紅美と江ノ川 希空の二人がいた。
「芽紅美さんと希空さんじゃない。あの二人は成績がずば抜けてるらしいよ。」
「リチャードはキチンと〔さん〕付けで呼ぶのね。日本語の文法通りと言うか目上の人に対して敬意を払う日本の慣習通りに喋ってる。」
リチャードの言葉にエリザベスが突っ込むとダイアナは
「そっちなの。もう名前まで知ってる。随分詳しいのね。もしかしてフルネームで知っているとか。」
と言った。
「もちろんさ、香月芽紅美さんと江ノ川希空さん。漢字で書けるよ。」
リチャードは得意気だ。
「それにしても二人揃って本当に綺麗な黒髪だわ。」
「そうね。」
「うん、とても綺麗だ。」
エリザベスが喋るとダイアナとリチャードの二人も納得している。日本人ならば黒髪は見慣れているが、イギリスでは東洋人の黒髪は人目を引く。特に希空の手入れが行き届いた長いストレートの黒髪はイギリスでも間違いなく注目の的だろう。
「芽紅美さんはどうしてショートカットなのかな。刈り上げてるし。」
ダイアナが言うとリチャードは知っていますと言わんばかりに喋る。
「それは陸上やってるからさ。練習してるところを見たけど筋肉がすごいよ。腹筋なんかエリザベスより凄い。」
「リチャードはエリザベスの腹筋を見たことがあるの。」
ダイアナは〈意外だわ。〉と言った表情でリチャードの顔を見る。
「ダイアナはいつも〈リズって腹筋すごいよね。〉って言いながらリズのシャツを捲って手のひらでお腹をパンパンしてるじゃないか。叩かれるたびに力が入って筋肉の割れ目がくっきりだろ。見るなって方が無理だ。」
「そうだっけ。」
「また宜しく頼むよ。」
ダイアナは好き勝手に喋りリチャードは期待している。
「私の腹筋はどうでもいいよ。ホント、恥ずかしいんだからやめてよね。」
「分かった。考えとく。」
「そうじゃないでしょ。それより希空さんは何もしてないの。」
エリザベスが会話の矛先を変えると、リチャードはまたも得意そうな表情をした。
「よくぞ聞いてくれました。ダンス教室に通ってて特技は軟体だよ。」
「それは何なの。」
ダイアナはリチャードに尋ねた。
「コントーションって言えばすぐ解るだろ。ぐにゃぐにゃの柔軟体操ダンス。バックベンドなんか顔を脚の間から出してにっこり笑う。突然あんなことされたら龍か蛇と思っちゃうよ。軟体は起源がアジアでモンゴルや中国、ロシアが盛んだよ。それで希空さんの軟体は特に芸術品なんだ。黒髪に合わせて漆黒のセパレートの衣装が多いから身体を曲げると白い肌のとのコントラストがとても美しい。極めつけは身体を曲げる時に首を振って長い黒髪をしならせる。波打つ髪が生き物みたいに見えて感動ものだよ。」
リチャードは少し興奮気味に喋った。
リチャードが興奮した声で喋ったので少し離れたテーブルの芽紅美と希の耳にも聞き覚えのある特徴ある単語が届いた。
「希空、あなたが話題になってるみたいよ。あなたって言うよりあなたの〔軟体〕が。」
「今年来た留学生の男の子でしょ。いつも見に来てくれるのよ。一番前で見てくれるから演舞にも気合が入るわ。あまり喋らない金髪の女の子は伝統ある魔導士の家系ね。」
「さすが希、物知り。」
そうい言う芽紅美に希空は
「あなたは走ることしか頭にないんだから。」
と笑いながら言った。
「金髪の女の子、名前はエリザベスって言うんだけど少し前にお姉さんが魔界で龍に喰べられちゃったって噂がある。」
「その話は禁句なんでしょ。先生達も〈イギリスの魔法省が調査中だから、あまり触れないように。〉って言ってる。」
「だから檀先生に相談しようと思うの。こう言うことを話せるのは檀先生しかいない。」
希空は芽紅美に今気になっている事を話した。
「私も興味あるから今度一緒にいいかな。」
「でもあなたお喋りだから心配だわ。喋ったら龍か竜の餌にするわよ。でも筋っぽくて不味そうだから喰べないかも。」
「ひどぉい、筋肉質だと言ってくれ。」
希空の毒舌を芽紅美は笑って躱す。希空は芽紅美が興味を持ってくれるといつも嬉しそうな表情をする。
希空が相談をする檀先生とは正しくは檀宗寺 元で陰陽師の末裔、枸橘女学館の講師でもある。巷には妖魔に関する論文を正式に発表する場所などないので檀 超七なる文筆名で小説を書いていた。




