3
千年もの長き間、その王国の闇を払うべく戦い続けた勇者はその日を境にいなくなった。
増えた魔獣達はこれまでの腹いせだとばかりに荒れ狂った。魔力で森を焼き払い、川や海を荒れさせる。火を噴くドラゴンが空を飛び交い、家を焼き人を襲い恐怖に突き落とす。
それだけではない。長きの間、人とともに傍にあった穏やかな獣たち──牛に馬、犬、猫、鳥たちですら、あの日から人を襲い暴れるようになったのだ。当然野生の獣たちも然り。それは苛烈のひとことであった。この世界の理を壊したものへの報復だとばかりに。あのやさしい人達へ苦しみを強制し、自分達にだけ都合のいい世界を甘受したものへの当然の帰結だとばかりに。
そして、その国での死亡率はいっきに跳ね上がり、おだやかな死もなくなった。
人々は傷の痛みにのたうち回り、癒えない病に苦しむ。
薬を手に入れようにも、元となる薬草自体が見つからなくなり、育てようにも術は見つからず、医者はいても薬もない。そもそも満足な食事もとれないのだ。人々はだんだんと労働力というものを失い、判断力や気力も失い、そうしていつしか愛する者を失う苦しみに慣れていった。
あの日、王国では人々の暮らしから平穏の文字は消えたのだ。
それは平民だろうと貴族といわれる存在であろうと、神に仕える神官たちであろうと関係はなかった。なにより神官は神の怒りを鎮められないという責任の一切を押し付けられ、1人、2人…と姿を消されていく。王族の怒りではない、民からの私刑によってである。
1つ、2つと村が消え、3つ、4つと町が消え、都がなくなり、王族が、貴族が、民が死に絶え、王国がなくなり、この土地から人の暮らしがなくなった。
いまは獣たちがしずかに暮らしている。
「私の小説にはオリジナリティが足りないわ」
千年間の冒険とかいろいろエピソードもあるんだけど、日本語にする勇気も足りないの。根性ともいうわ。