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はじめまして。なろう読み漁ってたら、なんとなく書いてみたくなりました。

「ほう。そんな恐ろしい魔女がいるのか」


 人で埋め尽くされた広間の前方、台座の上から声が掛かる。

「勇者様、あいつは… あいつは俺の父さんと母さんを…。どうかお願いです。敵をとってください」

 掻き分けるように前へと出てきた少年が涙ながらに声の主に向かって叫ぶと、それにあわせるように、そこかしこから声がとぶ。

「私の娘もあの魔女の餌食になりました。愛らしい子で、まだほんの7つだったのに」

「働きざかりだった私の夫の命をさらっていったのです。ちいさな子供がいて…息子も娘も、父親がだいすきで…それなのに、あいつは…あの魔女がぁぁ」

 泣き叫び崩れ落ちる女たちを周りが支え、そこかしこから嗚咽が漏れる。


「それで、その魔女はどんな力で、どうやってそんなに多くの命を奪っているのだ?」


 凛とした声が重ねて訊く。特に声を張り上げているわけでもないその声は、ざわめきある種の熱気に倦んだ中、そこにいるすべての人の耳に届いた。

「奴は、寝込んでいる人の横にいつの間にかいるのです。長すぎるほど長い髪を揺らして、真っ黒な瞳で見下ろして、命をうばっていくのです」

 そうして命を奪った後は、ひたひたと、裸足のままそこから歩いて去っていくのだと。どんなに寒い冬でも、どんなに暑い焼けた砂の上でも無表情のまま去っていく様はあまりにも異様でとにかく不気味で恐ろしく、誰も、止めることも声を掛けることすらできないという。


「寝込んで、か。それは病気や怪我をしていたということではないか。それが原因であって、その魔女とやらが命を奪った訳ではないのではないか?」


「そんなっ。だって、だって家の鍵がかかっていても、同じ部屋に家族がいても、いつの間にか女がベットの脇に立っているんですよ。そんなの、魔女にしかできないじゃないですか」

「そうして、あいつが立っているのを見た時には、もう誰も……」

 すすり泣く声や絶望から床や壁を殴りつけるような音がそこここで響く。石造りの広間を埋め尽くすすべての人が、恨みを募らせ自分の無力さを呪っていた。それは、窓の外に広がる晴れ晴れとした青い空に小鳥が飛び交う光景とあまりにも対照的で異様で陰鬱なものだった。


「ふむ。魔女ではある、か」


 この日、初めて聴こえた肯定的な声に人々の心が暗い期待をこめて見上げる。


「しかし、その魔女が人の命を摘み取る瞬間を見たものは誰一人おらず、その方法も誰一人知らぬではな」


 どさり、と声の持ち主が椅子の背に身を任せなおした音がする。

 それはすでに訴えを退けるつもりであることを十分に匂わせ、一瞬だけとはいえ上向いた希望を叩き落される予感に、広間に集まった人々は焦りを募らせた。


「大体、その魔女がなにをしていたのかも、それでははっきりしないではないか」


「俺はっ、俺は俺の父さんと母さんを殺したあいつがっ、あの女が、悠々と、部屋から出てくのを、止めることもできなかった。怖くて。どうしても怖くて。何もできなくて。おれ…」

 うわぁぁあぁぁん、ひと際大きな泣き声が広間に響く。

「私もなにもできなかった。敵を討ってやりたかったのに。腕を振り上げることも、声を上げるこそすらできなかったんです。表情もなく振り返った顔が、ただ怖くて」

 自らのふがいなさに握りしめた手から血が滲んでいるものもいた。


「本当に、それで命を摘み取っていたと言い切れるのか」


「あいつがやったに違いないんです。もしかしたら今この瞬間だって、あいつは誰かの大切な人の命を奪っているかもしれないのに」「勇者様、なんでわかってくれないんですか。どうかあの魔女を倒してくださいませ!!」「おねがいです、ゆうしゃさま。私たちの恨みを、怒りをお聞き届けください」どうかお願いします、お願いします勇者様、と口々に迫る。

「なんで、俺たちの怒りを本気で受け止めてくれないんだ。この怒りを、この苦しみを!!」台座に詰め寄る人々の怒りは、いつしか自分たちの真摯なる思いを受け止めようとしない勇者にまで向かっていた。


 広間に怨嗟が渦巻いていた。



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