2話
「はぁ、、はぁ、、治ったか、、、、」
永遠に続くのではないかと思った痛みも気が付いた時には幻覚だったのではないかと思えるほどにあっさりとなくなっていた。だけどまぁあの痛みは俺にとって幻覚だったとしても忘れられないものとなったけどな。
「それでさっきなんか聞こえてきたような?」
頭に激痛が走っている時に何か音が聞こえてきたような気がした。このブラックホールの中では自分の声すら聞こえないのだ、だから音なんて聞こえてくるはずなんてないし、ましてや誰かの声なんて聞こえてくるはずがなかった。
「ん?体が動く?」
音が聞こえてきたなんて気のせいだと俺は首をかしげる。そしてその時に気がついた、体が動くということに…。
「おぉー! 動く! 動くぞ!」
手を動かし次に足を動かす。順番に体のいたるところを動かしていく。そして最後に自由になったことへの喜びを表現するかのように両手を上げ思わず手を叩く。
ーースカッ
「あれ?」
手を叩く、するともちろん手と手がぶつかり合った感覚が伝わってくるはず、はずなんだけど何か通り抜けたかのような感覚が伝わってきたのだ。
「あれ?あれ?」
なんども試してみるがやはり手と手がぶつかり合う感覚ではなくものをすり抜けたかのような感覚が伝わってくる。音が伝わってこないだけかと思ったりもしたが何度も試すとそうわけではないということがわかった。手と手だけではなく足と足や顔を手で触れてみたがやはりすり抜けるような感覚しか伝わってこなかった。
「粒子化?」
俺が何度も何度も試していると頭の中に粒子化という文字とその横に時間が浮かび上がってきた。そしてそれを認識した瞬間に俺は思い出したかのようにスキルについての知識が溢れ出してきた。
「だったら! 解除!」
すると目には見えないが光の粒がどこからが現れてそれが何かの形を表すかのように集まり始めた。そして出来上がったのが俺だった。
「おぉー!触れる!触れるぞ!」
どうやら俺はブラックホールに吸い込まれてから粒子となっていたようだ。そのため意識はあったが体が粒子となってしまっているために動かすことは出来なかったのだ。だけどスキル【粒子化】を手に入れたことで粒子を操ることができるようになり粒子となっていた俺の体を元に戻すことが出来たのだ。
「でも聞こえないんだな」
体を元に戻すことが出来たが相変わらずなにも見えずなにも聞こえてこない。これは俺の体が粒子になっていたからではなくブラックホールの中だからなので体が戻ってもブラックホールの中にいる限りなにも見えることはないし聞こえてくることもない。
「早速使ってみるか!」
このブラックホールの中にいる限り体が元に戻ったところで何の意味もない。そのため俺はこのブラックホールから抜け出すことに決めた。もちろん最初に吸い込まれた時から何度も試してはいたが、叶わず閉じ込められたままだったけど今は前とは違う。
「今の俺にはスキルがある!【粒子化】」
スキル【粒子化】を使う。俺の体が一瞬にして光の粒へと変化して辺りに散らばるようにして消えた。だが俺はさっき同じ場所にいて意識もはっきりしており手や足も動かすことが出来る。
「いけー!」
まず思いついたのはこのブラックホールから抜け出すこと。何事にも始まりがあるようにこのブラックホールにも終わりがあると考えた。そのためにどこかに抜け出せる場所はないかと探してみることにしたのだ。そしてスキルを発動させたのにも理由がある。この【粒子化】を使っている間は体が粒子になるため何の抵抗を受けることなく体を動かすことができるので使わない時と使っている時では何倍、何十倍もの差があるのだ。……これは俺が独自で思いついたわけではなくスキルを得た時の知識によるものだ。
「はやーい! はやいぜー!」
ブラックホールの中にいるのでどれだけ動いても辺りの景色は変わらないためどれくらいの速さかは分からないがなんとなく速い気がする。
「おっしゃー!この調子でいくぜー!」
おそらく1時間ほど経った気がする。なにも変わりはない。
「まだまだいけるぜー!」
そしてさらに三時間かな?さっきと変わらずなにも変わったことはない。
「はぁ、はぁ、はぁ、まだ、まだいけるぜ」
さらにあれから何時間動いたかは分からないが特に変わったことはなし。粒子化を使っている間は肉体的な疲れはでないはずなのに、なぜか息が切れ始めてきた。
「お、おりゃぁぁぁぁーーー!」
最後にラストスパートの勢いで全力で駆ける。まぁこれはヤケクソとも言えるが。
「も、もう理由だ」
俺は後ろに大の字になって倒れ込んだ。おそらく丸一日は動いていた気がする。だけどこのブラックホールの中は特に始めていた時と比べてもなにも変わってはいなかった。本当に出口に近づいているのか、そもそもブラックホールには出口がないのではないかと思ってしまうほどになんの変わりもないのだ。
「く、くそ、どうしたらいいんだよ!」
俺は叫ぶ。だがその声は誰にも届かず何にも響かずこの暗闇の中に消えていった。