6 防衛の基本
[??年??月??日]【迷宮主になって3日目】12:14
何者かが、入口を越えてこの迷宮内に入ろうとしてくる。これは、技能で気づいた訳ではなく本能的に感じ取れた。姿形、数等は分からないが侵入されたことは理解出来た。そして、同時にこちら側の状態の深刻さに気づいた。
それはこの部屋は、ある程度明るさを持ち、隠れる所のない開けた空間であり、卵が置きっぱなしなことだ。そして1番の問題、それは唯一動ける俺が生命力と魔力が減っており、万全の状態ではないことだ。
(まずい、まずい、まずい!こんなに早く、討伐してくる奴らが来るとは思わなかった!どうやってこれに対処する?!)
『レックス様、侵入者が来ている間はこの空間は外と繋がります。侵入者を排除しない限りは扉を閉じることはできないことを把握しておいて下さい』
今まで聞いた中で1番の早口だなと脳内の片隅で思いながら解決の糸口を探すため返答した。
「ん?じゃあ、それ以外はできるのか?」
『はい、扉の開閉作業以外は通常と何ら変わりません』
なるほどな、つまりこれは撃退しない限りは落ち着けないのか。
しかし、そんなことを考えているとゆっくりと空いている扉の先が洞窟のような風景に変わった。扉は縦に自分の身長の倍はあったのだが、そこから見える景色は、扉以上の大きさ以上の空間があるように見える。洞窟のように見えた。そして、そこには侵入者がいた。
そいつは、灰色の毛皮に大きな耳、尖った鼻をもつクリクリした目を持ち、首の周りが薄い肌色をしているが元の世界で言うところのネズミによく似た生き物だった。しかし、明らかに違うところがある。大きさが60から80はあろうかと言う大きな体を持っている事だ。
「どう見ても俺を討伐しに来た奴っぽくないな」
『どうやら、この獣だけのようですね。特に、危険な相手でもないので、仕留めて食べませんか?』
コアの言うことは、間違っていることは今のところはない……と思う。実際、自分が迷宮を拡張しなかったのがこの状態に陥らせたのだから。しかし、この望んでなかった状態での初の戦いには緊張してしまう。
(仕留めるしかないか)
そのネズミのような生き物は、その大きさのためか1匹のみだった。円を描くようにこちらの卵を置いている側、つまり自分から見て左後方の方に進んでいる。
(野郎、俺じゃなくて卵が狙いか、親が居るってのにいい度胸してるじゃないの)
心の内が熱くなる。ムカつきとイラつき、目の前の生物を刻んで、炙って、ぶっ壊したくてたまらなくなる。疲れた体を無理やり動かして、そいつを仕留める為ゆっくりと距離を狭めていく。
「クァー!」
そいつもこちらが戦闘態勢を完了したのに気づいたかどうかわからんが、逃走するつもりは無いらしい。そいつは体を回すように振るわせると、首辺りを膨らませ威嚇をしてきた。
(何だこのネズミは、何をする気か分からんが余計なことをされる前に仕留めるか)
足場は幸い、歩きやすく動きやすい場なので苦労せずネズミの近くまでよると、そいつもこちらに走り出してくるの見えたと思ったら視界が無くなった。
(うおぉおお!顔に乗っかってきやがった!)
こいつは、俺の頭部を噛むため乗ってきたのか!しかも、剥がそうとしても剥がれねぇ!
『レックス様。落ち着いて、そのままネズミを逃がさずに攻撃してください』
コアの声が頭の中に響いてきた、俺は考える暇もねぇと言われたとおりにすぐさまネズミの胴体を両手で掴み、爪を立て中身をグチャグチャにしてやった。
「キュアオアァ」
ネズミは死ぬかと言わんばかりに頭を噛んできたり、引っ掻いてくるが我慢して、剥がれそうにないが無理やりネズミを頭から剥がし地面に叩きつけ足で頭を踏みつけたトドメをさした。剥がす時に頭からベリッと嫌な音と同時に痛みを覚えたがそれどころじゃない!
急いで、入口の扉を《迷宮管理》で急いで閉めて、ようやく一息つけるようになった。壁側の卵のほうに寄り、座って頭をそっと触る、すると鱗が無く肉が剥き出しになっているさわり心地だった。ピリッと痛むので指を離した。
「くっそ、痛てぇよ頭何これ」
『レックス様。今日のところはもう終わりにして寝るとしましょう。今は落ち着いて行動する為にもまずは、疲れを癒しましょう』
クソったれ、只のネズミかと思ったら変な傷残して行きやがって。計画性のない自分にもむかっ腹が立つ。
「あー痛ってぇなぁ!改造するなら、こういうのにも耐性をつけてくれ。コア今すぐこれを治せないのか?痛くて痛くてたまらないんだが」
『はい、レックス様。竜の持つ自己再生機能に頼るのがよいかと。我々に他の傷を治す手段はないため、今は休眠を取るしかないです』
コアの声は、平坦だが落ち着くような効果でもあるのか少しづつ心が休まる。ちょっとビビって、大袈裟に騒いでいただけかもと思うと恥ずかしくなった。
「あー、分かった。寝るわとりあえず」
自分が迷宮主として迷宮を立派にできるのか分からなくなり不安な気持ちを持ったまま寝ることにした。