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精霊物語─王国の目覚め  作者: 痲時
第15章 最愛の人
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第89話:さいあい


 ダーク・クウォルトはその地に初めて足を踏み入れた。


 今まで入らなかったのは聖地とか神聖だとかいろいろ云われていたからではなく、ただ単にここまで来るという機会がなかっただけである。

 しかし、彼はとうとう、ここに来た。

 城前の城召喚師が早速こちらを不審そうに見ている。それを承知で近付くと、そこまでだいぶ距離のある段階で訊かれた。

「我が城に御用ですか」

 彼は答えず、どんどん突き進む。

「──御用であれば正式な名称を尋ねる」

 答えない彼が門前まで来ると、城召喚師は改めて威圧的に尋ねて来た。まだ若々しく年頃はダークとそう変わらない。もしかしたらこの間まで同じく学生だったかもしれない、などと下らないことさえ考えてしまう。

 しかし、止めることはできない。

 ダークがゆっくりと頷くと、城召喚師が守っている城の内部から、どんっという大きな破裂音が響き渡る。

「なっ──!」

 城召喚師が音に釣られて後ろを向いた瞬間、彼の腹に一発喰らわせてみた。案外呆気なく城召喚師は倒れてしまう。

「召喚」

 それと同時に襲って来たおそらくこの城を守る召喚獣の相手を、自分の召喚獣で応戦させる。大量に襲って来たものの、手声耐えのない召喚獣だった。権力を象徴する城の割には、緩い守りである。こんな弱い者たちによって、今まで苦労して来たのかと思うと悔しさが募る。



「待ってろよ、アリス──」


・・・・・


 軍を率いてやって来るイーリィたちより先に、ウォレンらはテリム領主の屋敷へと辿り着いた。ここから近い霜月祠に先へ行くためである。

「──やっと、か」

 人霊を訪ね歩いて、ようやく最後の祠である。ウォレンがやけに感慨深く云えば、師走は真面目な顔になって云う。

「そういえば、神楽とは何所まで一緒に居たの」

「……ティバドン家までだ」

「え?」

「莫迦だと思う。自分でも、本当に愚かだと思う。目的地に着いたのだからそのまま入れば良かったのに、振り返った途端、神楽は居なかった」

「──ウォレン……」

 ウォレンはウォレンであの頃、念のために守りを強化していた。シュタインの妙な動きはわかっていたことだったから、あちこちで何かがあったときのために、非常線を張っていたのである。ティバトン家がウォレンのひとまずの逃げ場所だった。師走が道を開けてくれ、神楽と共にやって来たティバドン家の前で、振り返ればそこに、神楽は居なかった。


 人霊が次々と消えて行ったのは、カルヴァナが力を失った証拠だった。今まで周囲を守ってくれた者が次々と居なくなり、ウォレンはその瞬間に、恐怖に陥ってしまった。目の前の扉を開ければ良いだけだと云うのに、恐ろしさが突き上げて来た。

 ──本当に王になるのだろうか。

 そんな不安が込み上げてきたウォレンはなぜか、ティバドン家には行かず、ある目的のために4年もの年月をひとりで過ごすことになる。



 神楽が起きた瞬間、莫迦にされそうな気がしているが、ようやくここまで来られたのだという思いもある。人霊は精霊召喚師の下僕だが、彼らはウォレンをたくさん守ってくれた。時間はかかってしまったが、彼らのためにも、祠はやはり回るべきだったとそう思う。

「さて、神楽を起こしに行くか」

 そこで問題の精霊召喚師が居ないことに気付く。

「あれ、アリスは?」

「向こうに」

 そんなアリスは行軍の疲れを癒しているのか、エリーラと談笑中だ。女性二人で語らうその姿は、一見町中でも見かけそうなものだ。しかし彼女の背中に背負わされているのは、精霊召喚師という大役である。



 そんなアリスに、最近元気がない。いや、彼女としては普段通りなのだ。ウォレンが話しかければ答えるし、人霊とにこやかに話し、エリーラとも歓談している。ルークにも思うところはあるようだが、自然に打ち解けている。イーリィたち軍の人間とも良好な関係を築けている。



 だがウォレンに向ける顔が固くなった。シリム城塞の屋上で語らったときが最後だったかのように、あの時に話してから屋上で会うこともない。誘う閑もなくアリスは何所かに行ってしまい、また誘っても疲れていると避けられることが多くなった。

 本当にあれが、ひとときの夢であったかのような気がして、ウォレンは焦燥が出て来る。


 アリスはいったい、何を隠しているのだろうか。


「アリス」

 呼べばアリスは来てくれる。しかし今まで人霊と話していた時の笑顔はなく、引き締まった表情でウォレンを見上げる。

「済まない、行こうか」

 ウォレンが話す隙すらくれず、頭を下げると歩いて行く。そんな後ろ姿を見ていられなくなる。




 わからない。

 わからないんだ。

 ──父上。

 どんなに呼んでも振り返ってくれなかった背中を思い出す。それと同時に、彼の葬儀を思い出す。毅然として見送った後、ウォレンは一人になった。一人になりたくてなった。誰にもこのみっともない姿を見せてはならない。そう思って──。

 ただ一人だけ見られてしまったが、それは流してもらうことにした。見なかったことにして欲しいなど無理に決まっているのに、その時の自分にはそれがとてつもない失態に思えて、見なかったことにして欲しいと懇願したのだ。それこそが情けない姿だったというのに。


 ウォレンに呼ばれながらも先を歩いてしまうアリスを目で追いながら、ウォレンは思う。



 ねえ、アリス。

 大切な人を失いたくない時は、どうすれば良い?


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