昔の話 2
『昔の話 2』
剣技会当日を迎えた王都は、抜けるような青空と闘技場周辺に出された数々の出店、そして沸き上がる観客たちでお祭り騒ぎだった。太陽は一番高い所を過ぎ、すでに1回戦の半分ほどが終了している。第3隊で1回戦を残しているのは、あとはニーナだけ。トナーとディオは無事に2回戦進出を決めている。
「ニーナ・フィント、次だ。準備を」
呼び出しを受け、控室から出る。
闘技場の舞台へと続く薄暗い通路で、ニーナは足を止めた。今始まったばかりの試合は、なかなかに盛り上がっているらしい。観客たちの声援が、ここまで聞こえてくる。
ニーナはふいに、腰に携えた剣をはずし、両手で強く握った。目を閉じ、深呼吸を一つ。それから、柄を額へ押し当てた。
それは祈りだった。今まで何度も潰した豆の血の味を、知っているのはこれだけだ。自分の泥のような努力を知るのもこれだけ。世界でたった唯一の相棒よ、どうか力を貸して――。
「――おい」
祈りは、聞きなれた声に中断させられた。
ニーナは目を開け、声の人物を見上げた。
「……隊長」
「なにしてるんだ。ずいぶん悲壮感あふれる顔をしてたが」
「……別に、悲壮感あふれる顔なんかしてませんけど」
神聖な祈りを、悲壮感溢れるなんて失礼な。
どこかからかうようなカイトの口調に、つい拗ねたような返事になってしまった。ニーナは苦虫を嚙み潰したような表情で、ため息混じりに続ける。
「何か用ですか?」
「かわいい部下の様子見だ」
「へー」
その可愛い部下を、ついこの前、完膚なきまでにぼこぼこにしたのは誰でしたっけ。
と、強めの視線で訴えた。無事にカイトに伝わったようで、嫌味な美しい顔に苦い笑みが浮かぶ。「お前があんまりにもかわいいんで、ついな」という、美形にしか許されないくさい言い訳を、ニーナは聞かなかったことにした。
「で、本当はなんですか?」
「だから様子見だと言っているだろう」
「……そこは隊長なら、激励の言葉の一つや二つ、かっこよく決めるところなのでは?」
「激励?」
カイトはきょとんとした表情を浮かべた。
「お前に?」
「ええ」
「俺がわざわざ激励を?」
「そうですよ」
「なぜだ」
「……な、なぜって」
なぜと聞きたいのはこっちだ。ニーナは剣を握る手に無意識に力を入れた。
悲壮な顔をしているというのならば“がんばれ”だとか“お前ならきっと勝てる”だとか、勇気を持たせるような台詞の一つや二つ言ってくれればいい。
前の試合は佳境を迎えているのだろう。先ほどよりも大きな歓声が一瞬上がった。出番は近い。
はあ。ニーナは小さくため息をついて、「いいえ、なんでもありません」と視線を足元に落とした。小さな石が転がっている。それにかかった影が、一歩分だけこちらに近づいた。
「……そんなもの、必要か?」
ニーナはカイトの体を辿るように視線を上げた。
「勝つのはお前だろう」
「…………は」
「分かり切ったことだ。なぜわざわざ激励をする必要が?」
通路の先から入る光を受けたカイトの輪郭が、ぼうっと光っている。影のかかった顔に浮かんだ美しい笑みは、救いの天使のようにも、恐ろしい悪魔のようにも見えた。
カイトの言葉には、一切の迷いがない。ガラスのようなつるんとした目が、ただ自分を見下ろしている。
「なァ、ニーナ」
こんなことなら、来ないでくれたほうがよかった。激励なんて生ぬるい言葉では表せない、信頼という名の圧力が、呼吸を苦しくさせる。
カイトの顔が、ずいとこちらに近づいて、ニーナは唇を結んだ。
「俺の部下は、負けない」
だろ? と唇が音もなく紡いだ。
「……さーん。あ、ニーナ・フィントさん!」
あっけにとられ、どう返事をしたものかと迷っている間に時間が来た。
「……あ、はい」
「前の試合が終わりました。すぐに舞台へ」
「……はい」
剣を腰に戻し、ニーナはカイトを見上げた。
その表情は変わらない。つい半年前に自分の上司になった男が何を考えているのか、正直なところまだよく分からない。
「……行ってきます」
通路を抜けると、突然の眩しさに目が眩んだ。ニーナは眉根を寄せ、闘技場の中をぐるりと見渡した。
客入りは上々。昼を過ぎて、ずいぶん人が増えたように思う。中央に設置された円形の舞台では、ちょうど、前の試合の片付けが終わったところだった。
笑顔の勝者とは反して、ひどく肩を落とした敗者がすぐ隣をすり抜け、通路へ戻っていった。
「第3部隊所属ニーナ・フィント、第8部隊所属マリド・ゼン、舞台へ」
よく通る声が叫ぶと、一瞬、ざわめきの中にあった客席が静かになった。「女の子だぞ」と誰かが言った。その言葉は、水面に投げ込まれた小石が生み出した波紋のように客席全体に広がった。次の瞬間に向けられた視線は、ずいぶんと好奇に満ちたものだった。
ニーナは、小さく鼻を鳴らす。
べつに、これくらい慣れたものだ。この道を選んでから、この手の視線とは長い付き合いになる。今更こんなことで、動揺したりはしない。けれど、どうしても、慣れないものもあった。
「よお、ニーナ。王都勤務はどうだ?」
ああ、ちっとも変わらないな。と、ニーナは思った。
厭味ったらしい話し方、嘲るような表情、立ち姿まですべてが鼻に付く。反対側から舞台へと登ったマリドは、記憶の中と寸分変わらず、そこにいた。
「……おかげさまで、充実してる」
舞台の中央に足を進め、ニーナは表眉一つ動かさず手を差し出した。忌々しいが仕方がない。
マリドは躊躇なくその手を握った。込められた力は、握手にしては少々強い。
「よかったな。こっちも上々だ。退屈だけどな」
「へえ」
「なんだよ、つれない返事だな」
「近況話に花が咲くような関係じゃないでしょ」
「相変わらずだな」
ふ、とマリドは口の端を吊り上げた。
「……なぁ、教えてくれよ、ニーナ。いったい誰と寝たんだ?」
「…………は?」
一瞬、何を言われたのか理解できず、ニーナは固まった。
マリドは口元に下品な笑みを浮かべたまま続ける。
「は? じゃねぇだろ。教えてくれよ。誰と寝たんだ?」
「……あんた、なに言ってるの?」
「だって、そうじゃなきゃおかしいだろ? 俺が地方のパッとしない街の騎士団に配属されて、お前が王都に配属だなんてさぁ」
反射的に振り払おうとした手をしっかりと握り込められて、反対に体を引き寄せられる。耳元にマリドの口元が近づいて、ニーナの腕には鳥肌が立った。
「お前みたいな子猿と寝るなんて、王都にはよっぽど物好きがいるんだろうな。ああ、それともお前、“そっち”が上手いのか? トナーとディオを、たらし込んだみたいに」
怒りで、一瞬視界がぐらついた。
手を出さなかったのは、最後の理性が止めたからだ。もしここが、剣技会の場でなかったら、間違いなく殴っていた。手が出なかった自分を褒めてやりたい。
ニーナは目を閉じ、大きく息を吸った後、怒りを逃がすようにゆっくりと息を吐いた。息を吐ききって再び、楽し気に目を細られた目をまっすぐに見上げる。
「……弱い犬ほど良く吠える、ってね。知ってる?」
「……あ?」
「きゃんきゃんきゃんきゃん、うるさいんだよ。思い知らせてやる」
握られた手を振り払うように離し、ニーナは踵を返した。開始点へと立ち、剣を抜いて切っ先をマリドに向ける。心の中で燃える怒りに反応するように、刃が光ったように見えた。
少し向こうで、マリドも同様に開始点へと立ち、剣を抜いた。相変わらずへらへら下品な笑みを浮かべている。
マリドの動きの一つ一つを食い入るように見ながら、獣じみた息を吐く。頭の端で、これではまずいと思いつつ、ニーナの頭の中は怒りで爆発寸前だった。
どうにかしてあの男にひざをつかせたい、みじめったらしく泣かせてやりたい、この剣で切ってやりたい。それ以外のことが、まともに考えられなくなる。
――ニーナ。
名前を呼ばれた気がした。
声に引っ張られるように、ニーナは視線をマリドからずらした。通路の出入口の壁に寄りかかるようにして、カイトが立っている。カイトは、部下の試合を見るにはそぐわない、優雅な笑みを浮かべていた。
――勝つのはお前だろう。
ふいに、先ほどの言葉を思い出した。
その言葉をもらったのは、ついさっきのことなのに、聞いたのは何十年も昔のことのような気がする。
突然、視界が開け、呼吸がしやすくなった。
「――開始!」
刹那、剣が振り下ろされた。それを寸前で受け止め、ニーナは剣の向こうで目をぎらつかせるマリドを見た。
「なに、ぼーっとして、やがんだよ!」
マリドの口元が、愉悦に歪んだ。ニーナの剣は弾かれ、姿勢を崩したところを、マリドの剣が攻め立てる。派手な音を立てて剣がぶつかり合って、会場が沸騰した。
雨のように降るマリドの剣を、ニーナはただただ受け止める。
「おらおらおらぁ!」
マリドは容赦しない。笑い声交じりの叫びをあげながら、何度も剣を振り下ろした。
しばらく続いた打ち合いは、ニーナが劣勢に見えた。マリド渾身の一振りを受け止めきれず、ニーナはよろめきながら後退した。
あの女の子、防戦一方だな。と客席からは声が上がる。
マリドの笑みは深くなる。
ニーナは剣を受け止めた姿勢のまま固まった。
「…………え?」
自分でも分かるほど、ひどく動揺した声が出た。
「あ? どうした? 降参したくなったのか?」
マリドは軽薄な笑みを浮かべたまま、言葉を続けた。「俺だって、女を斬る趣味はないからな、お前が土下座して俺の靴でも舐めたら許してやらないこともないけどなぁ?」
けれどニーナの耳には、そのうちの一言だって入ってこなかった。
剣を握った自分の手を見つめ直して、すでに肩で息をするマリドを見る。
「……本気?」
ニーナは小首をかしげた。
「本気なの?」
マリドは「なんのことだ」と眉間に皺を寄せた。
その反応に、ニーナは目をまん丸にした。もちろん、“本気?”の意味は、“本気で降参させてくれるの?”ではない。“今のが、あなたの本気なの?”である。
ニーナの記憶の中のマリドは、もっと大きな存在だった。育ちに似合わない乱暴な剣を振るい、勝つために手段を選ばず、馬鹿のくせに悪口の語彙だけは人の何倍もある、下劣な男。「女のくせに生意気なんだよ」と見習い時代は散々嫌味を言われ、訓練ではありとあらゆる手を使って私を負かしたあの男が、まさか――まさか、こんなに、弱いなんて。
驚きを通り越して、混乱さえした。
「なにぼーっとしてんだよ、あぁ?」
再びマリドを見ると、胸の奥につっかえていたふくらみが、しゅるしゅると音を立てて消えていった。
改めて見たマリドは、ただの騎士団の一隊員だった。もはや彼を見て、のたうち回る感情はいない。自分よりも弱い男が一人、ただ剣を持って立っているだけだ。
ニーナは目尻を下げた。
「どうもありがとう」
「あ?」
「でも、そんな提案、無意味」
「お前、なに言ってんだ?」
ニーナは剣を構えた。
「後悔しな、マリド」
戦いは長くは続かなかった。数分の後、マリドの剣は吹き飛び、ニーナの剣の切っ先はマリドの喉元に向けられた。「そこまで」の声がかかると、観客席から大きな歓声があがった。マリドは一瞬、信じられないようなものを見る目でニーナを見上げ、次の瞬間には忌々し気に顔を歪めた。「覚えてろよ」という捨て台詞は敗者にあまりにふさわしく、ニーナは少しだけ笑った。
舞台から降りると、すでに今日の試合を終えたトナーとディオが、観客席の最前列から手を振っていた。こんなすぐそばにいたのに、今この瞬間まで存在に気付かなかった。それに軽く答え、ニーナは控室へ続く通路へと進んだ。カツカツと反響する靴の音は、行きとは全く違う音色に聞こえた。
「わ」
角を曲がったところで、誰かにぶつかった。ニーナは鼻を抑えつつ、反射的に謝ろうと口を開いたが、音を出すより先に声が降ってきた。
「ニーナ」
「あ、隊長」
ぶつかったのはカイトだった。
瞬間、いろいろな言葉が一気に沸き上がってきた。ありがとうございます、見ててくれましたか、私の戦いはどうでしたか、隊長のおかげです。言葉が喉の奥で渋滞を起こし、口は魚のようにぱくぱく動くだけだった。代わりに、鼻の奥がつんとした。
「……間抜けな顔だな」
カイトは小さく吹き出した。
「勝ったんだから、もっと堂々としてろ。締まらないな」
「……もうちょっと、褒めるとかなんかないんですか」
「馬鹿か。先に言っただろーが。言い方が悪いが、第8所属なんかの隊員にお前が勝つのは当然だ。応援するようなことでも、褒めるようなことでもない」
カイトは当たり前にそう言って、小さく口の端に笑みを浮かべた。
あれだけ圧を感じた言葉も、今はどこか柔らかく聞こえる。それが自分の気持ちの変化によるものなのか、カイトの変化によるものなのか、ニーナはよく分からない。そのどちらでもあるのかもしれないが。
「……ありがとうございます」
くすぐったさから逃げるように、ニーナはカイトの隣を通り過ぎた。
2,3歩離れたところで、「おい」と足を止められる。振り返ると、カイトは言った。
「迷うな、ニーナ」
「……え?」
「お前の積み重ねてきたものは間違っていない」
それほど大きくない声が、はっきりとニーナの胸に届く。
「剣に縋るな、祈るな。剣を持つとき、頼りになるのは過去の自分の努力と、今の自分の決断だけだ。自分を信じろ」
「……隊長」
「みんな見てる。少なくとも俺達は、お前の努力を、決断を、剣を、強さを疑わない」
「……はい」
蚊の鳴くような声で返すので、ニーナは精一杯だった。これ以上口を大きく開いたら、叫び出してしまいそうだった。
でも、この人の前で、まさかそんな情けない真似はしたくない。奥歯を噛み締め、慌てて俯いた。
「次の相手は誰だ?」
「さ、さあ。まだ確認していないので……」
「なんだ、野心のない答えだな。俺が出た時は、決勝で当たる予定の相手の名前までしっかり確認してた」
「隊長は野心に溢れすぎですよ」
ニーナからこぼれた小さな笑みにつられるように、カイトも柔らかな笑みを浮かべた。
今度は二人並んで、控室へと向かう。
「さっきの試合は賭けにならないと、あいつらが怒ってたから、次はもう少し骨のある相手と当たるといいな」
「また賭け……」
「みんなお前の勝利に賭けてた」
「先輩方にこんなことを言うのは多少憚られますが、みんな馬鹿ですよね」
「そうだな」
ニーナの頭に、第3隊の面々の顔が浮かんだ。
自分がどこまで勝ち残れるかは分からないが、彼らのためにも自分のためにも、そして今隣を歩く上司のためにも、いけるところまで頑張ってみようと思った。
「……隊長、今日は本当に――」
「可哀想だろ、女相手にさぁ」
ふと聞こえた声に、ニーナの足が止まった。
角を曲がった先から、二人分の足音。そして、べったりと張り付くような嫌味な口調――マリドだ。
「女相手に本気になんかなれるわけがないに決まってるだろ? 顔に傷でもつけたら、一大事だ。だから、手ぇ抜いてやったんだよ」
こいつ、まだそんなことを!
ニーナは全身の毛が逆立つような感覚を覚えた。血が沸騰し、つい、握った拳に力が入る。
あの試合、マリドは手なんか抜いていなかった。試合の結果は正真正銘、互いの実力によるものだ。お前は、その実力で、私に、負けたくせに!
沸き上がる衝動に身を任せ、体が動きそうになった瞬間、「だよな」という第三者の言葉で、今度は足から力が抜けた。
聞いたことのない声が「俺でも、実際、手抜いたと思うわ」と笑いながらマリドを肯定する。
――嘘でしょ。
足元から侵食するのは、絶望にも似た虚無感。
足音と声はどんどん近くなる。もう数歩であの角の向こうから、マリドと誰かがやってくる。二人はきっと、薄ら笑いを浮かべているのだろう。
今恐らく自分がしているひどい顔を、彼らにだけは見られたくない。けれど、ニーナの足は、神経が溶けてなくなってしまったかのように、動かない。
足音が近づく。
角から、人影が表れる。
瞬間、ニーナの視界は遮られた。
「……ディ、ディンスター隊長……」
自らの進路を遮るように、カイトが立っていた。
2人の表情を見ることはできないが、マリドの怯えた声から察するに、カイトの表情は芳しくないのだろうと、容易に予想できた。
「……第8隊のマリド・ゼンか」
氷のように冷たい声に、マリドは慌てて背を伸ばした。隣の男も、気まずそうに視線を逸らしている。
「分かるぞ。女相手に本気になんかなれない。顔に傷でもつけたら、一大事だ。だから、手を抜いてやった」
カイトはマリドの言葉をなぞり、こてんと首を傾げてみせた。
「そうでも言わないと、お前のその小さなプライドが保てないんだろう?」
「なっ……」
「違うのか? 俺には君が、“手を抜いた”というには、あまりにも鼻息荒く剣を振るっているように見えたが」
小馬鹿にするようなカイトの物言いに、マリドは不快さを隠さなかった。けれど、それ以上の言葉を返すこともなかった。
小さなため息の後、カイトが続ける。
「誇り高き騎士団の隊員が、負けた理由を無様に語るな。悔しさは、上へ行くための糧にしろ」
「……失礼しました」
二人分の足音は、逃げるように去っていった。
静かになった廊下に、カイトの「……馬鹿が」という呆れ声がやけに大きく響く。
「……隊長」
ニーナは震える声で、カイトを呼んだ。
「隊長……」
「ん?」
「……私は、この仕事をすると決めた時に、嬉しいとき以外には泣かないと、決めました」
「……そうか」
「だから、今、振り返らないでください」
ニーナは固く拳を握った。爪先が掌に食いこんで痛い。
吐き出した息は熱がこもり、肩がわなわなと震える。見開いた目にはいっぱいの涙が浮かんでいたが、決して零れることはなかった。零すものかと、奥歯を強く噛み締めた。
「隊長、私、精進します」
食いしばった歯の隙間から、言葉を紡いだ。
カイトは振り返らなかったが、小さく笑ったのが、気配で分かった。
「期待している」
半年ほど前に自分の上司になった男のことは、まだよく分からない。天使のようにも見えるし、悪魔のように見えるときもある。
けれど、なにもわからなくとも、この人が誇れる人間であろうと思った。この人が誇れる部下であろうと思った。そのために、どんな努力だってしてみせると。
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だから、今、混乱している。
隊長を見て、胸が痛む理由なんて、どこにもないはずなのに。
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