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「…私は良かったです。龍王様と出会えてこの上なくしあわせでした。」
龍王にとって、龍華国にとって、メイリンと龍王は出会いべきではなかったのかも知れない。
けれど、龍王に出会って包まれるように抱きしめてもらう温かさや、少し恥ずかしいけれど目一杯甘やかしてくれる優しさ、ただ真っ直ぐにメイリンを求めてくれる想い、その全てが嬉しかった。
冷たいと思うくらい完璧な顔を時々崩して表情が豊かになる所も、メイリンのことになると子どものように我儘になる所も、龍王が時より見せる弱さもメイリンにとっては心惹かれるくらいメイリンは龍王の事を想うようになっていた。
一度知ればもう離れられないと思う程に、愛おしい。
「それならば良いのです…どうかお二人で幸せになってください。」
サーシャは安堵した表情を浮かべ、更に頭を下げた。
「サーシャ様にも出会えて良かったです…人並みに学ぶことができて、特にサーシャ様は無知な私に優しく教えてくださいました。サーシャ様は…一緒にいて龍王様以外で唯一安堵できる方でした。」
サーシャがどう思っているのか疑心暗鬼になることはあったが、サーシャのいつ何時も変わらない丁寧な態度に恐怖を感じることはなかった。
そのことはメイリンとって心の支えになっていた。
そして、丁寧に教えてもらった知識は龍王と過ごす中でとても役に立った。
それは挨拶にはじまり、お茶や礼儀作法、何気ない会話も日々の生活に彩りを与えてくれた。
そして龍王を前に少し危なかった時も我儘をたしなめる時もメイリンを律してくれたのはサーシャが教えてくれた言葉たちだった。
「わたくしもメイリン様に出会えてよかったと、メイリン様の教育係になれてよかったと思っております。今日はお暇させていただきますが、まだまだ時間が許す限りは後宮に参りますので、お相手してくださるとうれしいです。」
サーシャの目には赤く充血したものの、柔らかく笑った。
衣装により表情は分からなかったが、緩やかなその雰囲気はなんとなくメイリンには伝わった。
「こちらこそお待ちしております。」
メイリンはサーシャを見送る。
名残惜しいのかサーシャの言ったことをメイリンは思い出した。
サーシャはメイリンを子どもくらいに見えたと言ってたが、メイリンとしては見た目からしてサーシャは姉のような感じだと思った。
龍と人と生きる時間の差なのだろうか。
それでもいつかは友人のようになれたらとそう思う。




