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「メイリン、ローヤンの所にいくぞ。」
いつものように羊を外に出そうとしていると、父がメイリンを呼んで馬車の荷台に乗せた。
メイリンは少し胸がドキドキしていた。
とうとうローヤンのお嫁さんになるのかと思うと、少し嬉しくなる。
メイリンがワクワクしながら空を見上げていると、いきなり黒い影が馬車を丸ごと飲み込んだ。
その巨大な影はあっという間に過ぎ去ると、遅れてきたかのように物凄い風が吹く。
メイリンはあまりの風の強さに椅子代わりの丸太から落ちて尻餅をついた。
「龍王だ…」
父が呟く。
龍王とは白い鱗を持つ龍で巨大な力を持ち、龍の国を治めているという、龍の王様だ。
その龍王が番いを持ったとなれば、全世界に祝福がもたらされるという。
この国の者ならば誰もが知っている伝説だ。
もう何百年も姿さえ現さなかった龍王が姿を見せたということは、そう言うことだろう。
メイリンはその縁起の良さにさらに嬉しくなる。
きっとローヤンとメイリンの結婚を祝福してくれている、そう信じていた。
「どう言うことです!ローヤンはメイリンと結婚する約束だったはずです!」
ローヤンの父にメイリンの父が詰め寄る。
思っていなかった展開にメイリンはその様子を口を開けてポカンと見ていた。
「良い縁談が申し込まれたんだ。しょうがないだろう!お宅の娘さんを貰ったところでなんの利益もないが、あちらの娘さんは器量も良く、お金だってもっている!ローヤンのことを想うのなら身を引いてくれ!」
ローヤンのことを想うのなら?
メイリンは自分の父の後ろにいるローヤンと目が合った。
ローヤンは何も言わなかった。
その沈黙にメイリンの方が耐えきれなくなって、ローヤンの家から飛び出した。
あんなに晴れ渡っていた空は、分厚く黒い雲が覆いかぶさっている。
メイリンの頰に冷たい雨粒がポツリと落ちた。
「あー!」
メイリンが空を見上げて叫ぶ。
その瞬間、一筋の光がメイリンに向かって走った。
一瞬龍のようにも見えた閃光はメイリンを飲み込み、視界の全てを白く消し去ってしまった。