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「メイリン、会いたかった…」
龍王がメイリンの首すじに顔を埋める。
そして、メイリンの匂いを堪能するかのように大きく息を吸った。
これがさっき見た後宮の女性たちが望む唯一の男性の正体であり、なんてことのない私がそれを独占している。
きっとあちらの女性たちの考えの方が正しく、私たちは変わっている。
「ハクレン様、今日のご予定は?」
息が首に当たる度に頭に血が上っていく。
その恥ずかしさを押し隠してメイリンがたずねた。
「今日は何もない。メイリンが言っていただろう、開けたらゆっくりと過ごすと。」
龍王の唇がなぞるように首すじからメイリンの耳へと登っていく。
その瞬間、龍王がメイリンから顔を離した。
メイリンが少し驚いて、龍王の顔を見た。
「時間は沢山ある。話をしよう。」
龍王はメイリンに優しく微笑む。
メイリンはホッと胸を撫で下ろし、微笑み返した。
お迎えの時から後ろで控えていたカンレイはいつのまにか消えていて、部屋には龍王とメイリンの二人っきりだ。
「お食事はいたしましたか?」
メイリンから話しかける。
「いや、まだだ。」
「では、少し遅いですが部屋の中で朝食を摂りましょう。準備が整うまでに少し着替えてきて大丈夫ですか?」
「大丈夫だが…ついて行っていいか?」
メイリンは龍王の提案に少し驚いたが、龍の雄は番いの世話をしたがるとも聞いていたので了承する。
「はい。こちらこそ、ハクレン様にお願いしてもいいですか?」
「…メイリンの願いならばなんだって叶えよう!」
メイリンのお願いに龍王の顔がパッと明るくなった。
「この靴では動けないので衣装部屋まで連れて行ってもらえませんか?」
「…なんだ、そんなことか。」
普通ならば目上の人に頼みごとなど恐れ多いが、思い切って言ってみて正解だったみたいだ。
龍王は嬉しそうに笑顔でメイリンを運ぶ。
もっと何か願い事はないかと、嬉々とした龍王が見つめているのは少し想定外だったが。
龍王はメイリンを椅子に座らせると、跪いて靴を脱がせていく。
「ハクレン様…そこまでは…」
メイリンが慌てて断ろうとするが、当の龍王はやめるつもりはなく、見せつけるようにメイリンのつま先にキスをした。
「もう、私の全てメイリンのものだ。」
呆れても、メイリンはもうどうすることもできない。




