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「私の名前はメイリンと言います。ですから、龍王様もメイリンとお呼びください。」
メイリンがお茶を龍王に出し、席に着くとそういった。
「…そうか、お互いに名前も教えていなかったのか。」
龍王は反省するかのように、メイリンの淹れたお茶の水面を見ていた。
「これからは、番いだけではない、メイリンという人物を知っていただけたら嬉しいです。私も龍王様のことを知りたいので、教えていただけませんか?」
メイリンは何も知らずにここまで来ていた。
そして、そのあまりの無知さを今日のお后教育でまざまざと思い知らされた。
本来ならばここに居ていい人間ではないということも。
他を選べない苦しみはメイリンだけじゃない。
龍華国の皆も思っているし、龍王もきっと本心は…
それならば、できる限りのことをしよう。
愛がなくとも、一緒に居られるように。
「ああ、名はハクレンと言う。メイリンも名前で呼んでほしい。」
「はい、ハクレン様。」
メイリンが龍王に呼びかけると、しおれていた龍王が再び笑顔になった。
「ハクレン様は甘いものはお好きですか?」
お茶請けに用意されたまんじゅうを見て、メイリンがたずねた。
「ああ、好きだ。食べると疲れが取れる。」
「では、午後の休憩の時間は一緒にお茶会をしませんか?」
「いいのか?」
「ぜひ。」
お茶会を提案したのはサーシャということは伏せておこう。
「これでハクレン様の名前と好きなものを知ることができました。」
「それにお茶会の約束もできた。」
「そうですね。」
特に落ち込ませるつもりはなかったので、少し元気の出た龍王を見てメイリンは安心した。
今日、龍王はメイリンに何もしなかった。
ただ抱きしめて眠る。
「ハクレン様、私の為に我慢してくれてありがとうございます。それが何より嬉しいです。」
メイリンは自然と笑みが零れる。
これが初めてメイリンの話を聞いてくれて、ハクレンの本当の意思でしてくれたこと。
「…我慢できているうちに眠ってくれ。」
龍王が困ったように笑う。
二人で生きていくしかない息苦しさの中でも、それがメイリンにとって小さな希望に見えた。




