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メイリンは岩場に腰掛け、休憩していた。
今は獣臭い羊に埋もれて暖を取らなくてもよいくらいには暖かい。
小さな花がもうすぐ綻ばんとばかりに、つぼみが黄色に色づいている。
メイリンが見ていたそのつぼみはパクッと羊がくわえて食べてしまった。
花が咲く前に食べられてしまったけれど、そのつぼみはやがて羊の肉となり、私の肉となるだろう。
先走った蝶々が一匹飛んでいた。
もしかしたら他の場所はもう花が咲いているのかもしれない。
メイリンは両手の親指を交差し手のひらをはためかせて、蝶々のまねをする。
小さい頃はよくやったものだ。今でも弟にしてみせるけれども。
両手の先、蝶々の先、絹糸が絡まったようなものが視界に入ってきた。
「…春一番ね。」
メイリンは一人、そう呟いた。
この世界には龍がいる。
龍たちは滅多なことが無ければ地上に降りてこないし、人間とも関わったりはしない。
けれど、春になれば番いを求めて空をよく漂っている。
いわば、春の訪れの報せ。
それを見たメイリンは重い腰を上げて、羊たちを数え出した。
「おかえり、メイリン。」
早めに帰ってきたメイリンを母はいつものように迎える。
「ただいま。」
メイリンもいつものように答えた。
「メーねーちゃ、おかえり。」
久しぶりに弟から声をかけられ、少し驚いたが同じようにただいまと言ってメイリンは弟の頭を撫でた。
とうとう明日だ。そんな鬱々とした気分も弟からの声で少しは晴れた。