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騒がしい音に少女は空を見上げた。
空高く綺麗な矢印型の配列を組み飛んでいる鳥たち。その鳥たち声だ。
叫ぶように声を上げながら、元いた場所へ帰っていく。
そんな時はいつも決まって祖父と祖母の話を思い出す。
今年はどれだけの鶴が番いと離れて飛び立つのだろうか。
騒がしい鳴き声は少女には悲しく聞こえる。
羊たちの群れにその身体を埋めると、鶴の声に耳を傾け、静かに瞼を閉じた。
少し、休憩。
冬が終わる。
しかし、彼女のリンゴのように赤い頰と口から吐かれる白い息はその寒さを物語っていた。
着膨れして動きにくい上着も、裏起毛のブーツも衣替えはもう少し後のこと。
春は好き。
正確には春は好きだった。
身軽で過ごしやすいし、花だって綺麗。
でも、今年は春が来なければいいのに、そう思う。
少女は目を開けると、持ってきた枝の棒を拾い立ち上がった。
「一、二、三…」
羊を数え、全部居ることを確認する。少女は羊たちと共に家へと帰っていった。
「おかえり、メイリン。」
少女は母らしき中年の女性からメイリンと呼ばれる。
「ただいま、お母さん。それから、カイリ。」
母の足にしがみついている年の離れた弟の頭を撫でると、おとなしい弟は不思議そうにメイリンを見ていた。
「ちょうど良かった。今春服を出したところよ。」
母から春服を渡され、メイリンはそれを広げる。
それはメイリンの持つ他の服とは違って鮮やかな赤色の服だった。
母も着たであろうその服は少しくすんでいて時代は感じるものの、高価な絹で出来ている。
それを何が意味するかメイリンは知っていた。